06.クリスさんともっと仲良くなりたいです!
クリストフの仕事は毎週土日が休みだ。
対するスヴィは、土日続けての休みは月に一度しかない。
土曜や日曜に休みが被ることはあるが、そんなに多くはないのだ。
毎週会いたいと思っても、帝都とランディスでは距離もあるし、なかなか難しい。
それでもスヴィは休みの日には必ずランディスの街に行き、クリストフの仕事と稽古の合間の少しの時間を利用して会った。
そんな風にクリストフと過ごすこと、三ヶ月。
仲は、少しずつ良くなっているとスヴィは思っている。
「スヴィちゃん! こっちこっち」
「クリスさん!」
いつものように待ち合わせ場所で手招きするクリストフに、スヴィは駆け寄った。
「うわ、どうしたの、その服!」
休みの日に会う時は、もちろん私服。馬に乗ってくるので、いつもパンツルックだ。
特におかしな格好をしているつもりはない。
「なにがですか?」
「なんかぬめぬめしたの付いてない? ……血?!」
「ああ、ただの返り血ですよ。気にしないでください」
「いや気にするよ! なにがあったんだよ?!」
スヴィの服には、所々、紫色の血がついている。返り血は避けたつもりだったのだが、全部避けられるわけではない。
「珍しく、街道に魔物が出てきまして。危ないのでさくっとやっつけておきました」
「いやいや、危険じゃないの?!」
「私はこれでも、帝都騎士団のA級認定騎士ですよー! 緊急時には単独行動が許可されているんです。あんな魔物程度で、いちいち討伐隊の編成を組むことなんかしないですよ。まぁあとで隊長に報告しなきゃいけないですけど」
「そうか、強いんだね、スヴィちゃんは」
「キアリカ隊長直々に引き抜かれましたからね! 隊長にいつも言われます! 『あなたは頭さえ切れれば、隊長格の器になのにね』って!」
「それは自慢なのか?!」
えっへんと鼻を高くして胸を張って見せる。スヴィが自慢できることなど、剣の扱いくらいしかないため、思いっきり威張っておいた。
ちなみに剣と馬は街に入るときに預けてある。
「じゃあ、今日はどこに行きます?」
「いやいや、とりあえず着替えようよ」
「別に気にしませんよ?」
「僕が気になるんだよ」
「でも魔物の血って、人の血よりも落ちやすくって」
「スヴィ!」
「はい?!」
いきなり呼び捨てにされ、目を瞬かせながらシャキンと背筋を伸ばす。
「いいからおいで」
そっと手を差し出された。触れても良いのだろうかと、スヴィもそっと手を上げると、ぎゅっと握られる。
大きな手。伝わってくる彼の体温。
クリストフの目は、この世の誰よりも優しく細められていて、スヴィの胸はぎゅんとなった。
クリスさんと、手、手を繋いでる!!
スヴィって、スヴィって呼んでくれたぁー!!
「もう結婚するしかない!!」
「心の声、漏れてるからね?! いつものことだけど!!」
クリストフいわく、スヴィは心の声が漏れていることがあるそうだ。スヴィにその自覚は全くなかったが。
「全く、スヴィはー」
クリストフが困ったように、でもどこか嬉しそうに、繋いでいない方の手でクシャリとスヴィの前髪をひと撫で。スヴィのおでこに、彼の手が触れる。
「はうっ」
「かわいいな」
甘いマスクで、撫でられながらそんなことを言われたら──
「死ぬ!!」
「生きて?!」
はははと笑いながら手を引っ張ってくれるクリストフが好きすぎて。
だめだ……期待、しちゃうよー!
胸のドキドキがおさまらず、スヴィは心臓発作で本当に死ぬかと思った。
クリストフはそのまま服屋に連れていってくれ、似合いそうだという服を選んでくれた。
普段は滅多に着ない、ロングのワンピース。
こういうものが似合うのだと、女として見てくれていたのだと思うと、それだけで胸が小躍りを始める。
大きな契約を取れて懐が温かいからと、その服はプレゼントしてくれた。クリストフからの初めてのプレゼントだ。
「一生大事にしますぅぅう!!」
「大袈裟だよ」
苦笑いするクリストフの顔が好きだ。気遣いと優しさが大好きだ。
魔物の血がついた服はクリーニングに出してくれて、明日取りに来てくれと言われた。
今日は土曜で、明日の日曜も休みの日。日曜もまた、会う約束をしていてランディスの街にくる予定だ。
この日も夕方まで、クリストフと一緒に過ごした。
早めに解散するのはいつものことだ。スヴィは帝都に帰るのに二時間かかるし、クリストフは劇団の稽古が入っている。
「クリスさん、今日も楽しかったです! ありがとうございました!」
「僕も楽しかったよ。また明日、かな」
「はい! それじゃあ……あっ」
「どうしたんだい?」
スヴィはひらひらと裾の広がるワンピースを見た。
「これじゃあ馬に乗れないですね……服を買ってから帰ります」
どこの店で買おうか、キョロキョロと探していると、クリストフの視線に気づいた。
「クリスさん? この服はもちろん、ちゃんと持って帰りますよ?」
「あ、いやそうじゃなくて……明日もまたこの街にくるんだろう?」
「そりゃ、クリスさんと約束してますからね! 必ず来ます!!」
「じゃあさ、今日帰ってもすぐ明日来なきゃいけないわけだし……」
クリストフは少しだけスヴィから視線を逸らし、その手でプラチナブロンドの髪をかき上げながら。
「うち、泊まってく……?」
そう、言った。
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