花畑の駅

 改札口から出ると辺り一面に咲き誇る花、ここは桜が丘電鉄の普通列車しか止まらない田舎の駅、通称”花畑の駅”と呼ばれている。しかしここに足を運ぶ人はそうそういない、なぜならば都会の駅から各駅普通列車で25駅、時間にして2時間半という長い道のりがある。期間限定で急行がとまる時期は多少降車客はいるが今の時期は本当に満開の花畑を撮りたい写真家か花と列車を一緒に撮影する鉄道ファンくらいだろう。


 普通列車がホームに入ってきてドアが開く。一人の青年が列車から降りて車掌に切符を切ってもらった。彼もまた、花畑の駅の存在をインターネットで知り、わざわざ2時間半かけてここまでやってきたのだ。花にはあいにく詳しくなく、なんという花かはわからないが、黄色い小さな花が所せましと咲き乱れている。列車を撮影しに来た彼だがその美しい景色に思わず何枚かシャッターを切る。列車が来るまではあと20分、実際にこの駅は花以外は特にない、花畑のちょっと先に小さいロータリーがあり、その先に地元のコンビニがある。都会の某青いとこや緑の所とは違う独特なロゴのある看板だ。お茶とコンビニで作られたコッペパンを購入し、ロータリーの椅子に座りパクパクと食べる。粒あんとマーガリンがたっぷりと入ったあまじょっぱいコッペパンだった。食べ終えて時計を見ると電車が来るまで残り5分になっていた。横に広がっている花畑は画角によっては花と列車が丁度いい感じの角度で両方がまとまって撮影できる。急いで三脚を組み立てる3分前、列車が遠くで走って近づいてくる音が聞こえる。カメラを三脚に固定する1分前、列車がホームに入り甲高いブレーキ音を上げる。そしてカメラをのぞき込んで青年がシャッターを切ったそこには……

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