駆逐艦“凪”

 世闇に紛れて進む船が一つ、世界大戦が始まってからというもの、この駆逐艦は軍馬のように様々な海域に進出し確実に戦果をあげてきた。トウオク海での戦艦“ヨモギ”が旗艦の艦隊決戦、イヤス海峡水雷戦隊海戦、キッカ海峡封鎖海戦、流石の駆逐艦凪(なぎ)の乗員も、ここまで休みがないと疲れが出てくるというものだ。今回の勅令は夜闇に乗じて敵の軍港を単独で襲撃せよという命令だ。入り込むのにこの船は静音性に優れたエンジンと高性能な魚雷を6門4機搭載している。

「航海長。今どの辺かね」

 艦長の村井が航海長の刑部に聞く、

「丁度イヤス海峡を過ぎ、あと15分で敵泊地です」

「よし、各員艦長だ。間もなく敵泊地に到達する。我々はここを奇襲し敵艦を撃沈する。各員奮励努力するように」

 艦内放送を終え帽子をかぶりなおす艦長、艦長がかぶりなおすときは”やるとき”だ。デッキに緊張が走る。

「敵艦発見、駆逐艦3、巡洋艦1、戦艦1、その他輸送船らしき船13です」

 伝声管から見張り台の報告が入り、電探も18個の反応を示す。艦長が伝声管を使い指示を飛ばす。

「ホ式魚雷、前部主砲砲雷撃戦、はじめ! 探照灯照射、敵艦を逃すなよ」

 合図とともに魚雷発射管から6線白線が伸びる。片舷2門なので12線が一度に敵艦3艦に向かう。主砲も砲撃をはじめ、赤い弾道が伸びていき敵に命中。爆発と轟音が敵泊地を震撼させる。夜中3時に突如起きた爆発により敵陣値は完全に混乱、慌てて出向させた味方艦を敵と勘違いし誤射する船もいた。最終的に全隻大破もしくは撃沈の戦果となった。小型の魚雷艇が探照灯をつけて追いかけてきた。

「戦いは終わった。さっさと逃げるぞ」

 静音航行から全速航行に切り替える。船首が一瞬浮き上がり45ノットを記録する。これは大戦中の1番最速記録となった。しかし大和帝国の海戦において最後の勝利となった。この後凪の艦長は負傷で交代、その二日後のマルサ沖海戦で戦艦の主砲が直撃し船体が二つに折れて轟沈、徐々に劣勢になりつつあった海軍は完全に壊滅し、敗戦までの下り坂を一気に下っていった。

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