宇宙遊泳
どれぐらい進んだだろうか、機体の燃料はおよそ3割を消費している。太陽ではない恒星が見えるのでおそらく違う星系に来たのだろう。ワープを2回しているのでしばらくは追い付かれないだろう。まったく、たまたま第6星系で採掘禁止のミニストリウム鉱石を採掘船が吸い込んだのをたまたま通りかかった巡視船に見つかるなんて……今日は厄日だったのかもしれない。とりあえず星系を二つ以上跨いだので追ってはこないだろう。宇宙服を着て扉を開ける。プシューという音とともにエアロックが解除され彼女は宙へ身を預ける。そこには360度星のきらめきが広がっていた。彼女の毎日一回はやっている行為だ。エアチューブで船とつながっているのでどこかに飛ぶわけでもないし、何よりこの船の中では窮屈で退屈なのだ。時折こうやって外に出ることで生きていると感じることができる。ゆっくりと体は時計回りに回り、恒星が見えてくる。近すぎず遠すぎないそれは宇宙服越しにも温かみを届けてくれる。彼女の至福の時間である。近くを子の星系の巡視船が通り声をかけてくる。
「そこの君、危ないから船に戻りなさい」
めんどくさと思いながらも彼女は応答する。ここでも追い掛け回されたらまた別星系まで逃げなくてはならない。
「はいはーい、いまもどりますよーお気遣いどうもー」
そう言って船に戻る。エアロックが解除され船内に戻る。乗員は一人だけなので気楽なものだ。倉庫からミニストリウム鉱石を持ち出して廃棄口に入れる。ガコンという音の後に鉱石は宇宙空間に放り出された。これでもし追ってこられても無罪放免だ。彼女は再び倉庫へ行き、水とレーションをもってデッキに戻る。デッキの自動航行モードを起動し、近場の停泊できるステーションに向けて船を動かす。
彼女の去った宙には何も残っていない。数時間後に追いついた巡視船も何も発見できないまま帰路につくこととなった。
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