もう一度あなたに出会えたら(リクエスト作品)
あなたはどこにいるのだろう、気が付けば城下町をフラフラと歩いている。護衛の兵士もつけずに歩く私を国民は何と思っているのだろうか。うつむいて歩いている私は顔を上げたところで合わせる顔がない。むしろ会いたい顔がないのだから。最初は何気ないことだった。いつものように城下町を歩いていた時、目の前である女性が転んだ。
『大丈夫ですか? お嬢さん』
私が差し伸べた手を取り、立ち上がった女性はただの一般人、私のような王位継承者などとは遠く身分の離れた人間。もちろん差別するつもりはなく、差別しないからこそ転んだ彼女に手を差し伸べたのだが、その女性はこちらを見るなり、
『あ、すすすすいませんでした!!』
と言って、走って行ってしまった。しかし、その時一瞬見えた顔立ちは今までお見合いなんかで見てきた他国の王家の女性よりも美しく、愛らしく見えた。そう、一目惚れだ。
それからというものの、自分の部下を使いその女のことを調べ上げ、使いに手紙を持たせて関係を持ち、両親、もとい陛下にはかなり反対されたが、ついに彼女を自分のものにすることができた。両親が亡くなった後、戴冠式で王冠を貰った時、自分のことのように喜んでくれた妻。その日の夜、初めて二人で一つのベットの上で寝たのだが、
『どうして陛下は私のような平民を選んでくださったのですか?』
と、顔を私の胸にうずめて言った。そこには期待と疑問が混じってたように今も思う。"一目惚れだったんだ"と正直に言って笑われたのは今でも覚えている。彼女にとってそれはあまりにも意外な答えだったらしい。
だが、そんな幸せな日々は長く続かない。ある日の朝、新国王として他国へのあいさつへ向かう途中に私たちの馬車の車列は襲撃を受けた。襲撃者は国外追放を受けた者たちで、幅の狭い崖道で馬車を走らせながら戦闘がお行われた。私と妻は別々の馬車に乗っていたのだが、妻の乗った馬車は御者が殺され、コントロールを失って崖から落ちた。開けた道に出ても続いた戦闘は向かっていた国の迎えの兵士たちの助力もあり助かった、妻と十数人の近衛兵を除いて。
エドワード王国の姫君が無法者の手にかかり亡くなったと言う話は瞬く間に周りの王国に広がり、友国からはたくさんの者が葬儀の列へ並んだ。
私は三日三晩泣き、部屋に閉じこもっていた。
「そろそろ外に出ませんか、せっかくのお日様がもったいないですよ、陛下」
メイド長にそう言われ、城下町へ足を運んだ。初日は前を向いて歩いていたものの、自分を見る国民の目が痛く感じて前を見れなくなった。
”実はどこかにまだいるんじゃないのか”と心のどこかで思っているのか、それからというもの、毎日城下町へ出向いていた。時間帯はまちまちのため、近衛兵が全く予想できない時間にフラっと出て行ってしまうことも少なくない。執政も国王代理に任せっきりで部屋にこもるかフラフラと街を歩くかしか出来ない。
以前のように国民に声をかけるようなこともなくなってしまい、いつしか彼は、
〘亡霊王〙
と呼ばれるようになってしまった。二度と会えない妻をいつまでも探し求めて……
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