メドゥーサと人の子

 今日も目が覚めて、私の一日は始まる。鏡の前で髪をとかし、左の赤い目をその長い髪で隠し、パジャマから洋服へと着替える。少し桃色がかった髪の長さに”邪魔だな”と少々思いつつも着替えを済ませ、さっき整えたにもかかわらず着替えでずれた髪を直し、玄関を出る。

「おはようございます。魚を一尾ください」

 私が向かったのは朝市。朝食の材料がないのは夜に気が付いたので早々に家を出たのだ。

「おう嬢ちゃん! 今日は生きのいいのが入ってるよ!」

 魚を生け簀で販売しているいつもの魚屋で一匹魚を買う。おまけで干物を貰ったがこれはお供えにしよう。さらにいつもの八百屋さんで魚に合う野菜を見繕ってもらう。この魚にはレタスとトマトでサラダにすると美味しいと教えてもらいついでにパン屋でバゲットを買う。

 みんな私を普通の人間と思って接してくれているが、正体を知ったら他人のフリをするだろう。町はずれの我が家に帰る道の途中、

「お前ヘンな耳してるな!」

「やめて! 引っ張らないでぇ!」 

 おそらくハーフウルフの子供が人の子にいじめられていた耳がとがっているので人からはヘンに見えるのだろう。ハーフや魔物の純血の子は人からいじめられることが多い。大きな争いごとはなかったものの二つの種族には、大きな溝がある。

 私は集団に近づき、ハーフの子の耳を引っ張っている人のこの手を思いっきりひっぱたいた。

「痛ぇ! てめぇ、何すんだ!!」

 そーだそーだとわめく人の子の集団をキッとにらみ、

「黙って」

 左目に覆いかぶさっている髪をかき上げる。赤い瞳がギラっと集団を視界に入れた次の瞬間、集団は石になった。振り向くと同時に左目を隠しハーフウルフの子に、

「大丈夫?」

 と尋ねる。石化が恐ろしかったのか震えているその子を見て私は、自嘲気味に笑った。

「あの子たちならそのうち戻るわ、私は人の血の方が強いの。じゃ、気を付けてね」

 そういってその場を立ち去る。なにより空腹と力を使った反動で眩暈と頭痛がひどかった。遠くで「ありがとー!」という声が聞こえた。

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