夜の森(リクエスト作品)

 彼女は足を踏み入れる。不思議な感覚を頼りに深く暗い、夜の森へと入り込んだ。そこは小雨がどこかで振っているような音がし、肌寒いくらいの気温に森の木々の隙間から、月の光がうっすらと彼女を照らす。彼女はポケットからランタンを取り出す。真っ黒な石が入った紫色のランタン、そこへ彼女は道に生えていたヒカリソウを1つちぎり、ランタンのふたを開けて手のひらにのせたヒカリソウ越しに、

「灯れ、光よ!」

 彼女がそうつぶやきフッと息を吹きかけると、ヒカリソウが風に乗り真っ黒な石に触れる。するとパッと石が黄色く発行し淡く光を発し始めたのだ。それを見て彼女は穏やかに微笑み、石を置いているランタンの台に指先をつける、するとの台の周りに黄色い魔方陣が出現し、石が宙に浮いてくるくると回りだした。

 それを確認し、彼女は明るさを頼りに奥へと進んでいく。特にこれといった理由はない。ただ夜の森を歩きたかったのだ。紫のローブは引きずるくらい大きいがメグは気にしない、なぜなら自分の魔法で浮かせているからだ。当然濡れないからカッパの代わりにもなって便利である。しばらくうっそうとした地帯を歩いていると、小川の横に出た。これは村まで続いている川だ。魔法で橋を架けてそれを渡る、木の陰などからはウサギやリス、シカやクマがこちらを見ている。

『魔女だ』、『まだ小さいな』、『こんな夜中に魔女がいるぞ』

 彼らからはそんな声が聞こえた。警戒している者、興味を持つ者、獲物の品定めをする者。向け来る視線や思いは様々だった。そんなことを気にしないただただ森の奥へと進む、草むらを押し倒してではなく、なるべく避けながら奥へと、その時!

「グギャオーー⁉⁉」

 あろうことか寝ていたリザードマンの尻尾を振んずけてしまった。怒り狂ったリザードマンは武器を振りながら諸王所に突撃する。

 しかし、少女は冷静だった。スッと手を掲げ、

「眠れ、森のトカゲよ、その安らぎを!」

 そう詠唱するとトカゲのおでこと少女の手のひらに青い魔方陣が出現しリザードマンは突然ふらふらとして倒れた、彼女に怒り狂っていたのに今ではいびきすらかいている。無事に寝てくれたようだ。彼女は手のひらでローブのスカート部分をサッサと払ってさらに奥を目指したこの時点で彼女は予定を変更して緩やかに蛇行していた森林の道を真っすぐに奥へと進んだ。

 そう、彼女は入るときは無計画であったがこの森を奥に進む目的を、そして目的地を見つけ出し目指し歩き出した。

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