夫婦
手は真っ赤に染まっている。目の前には出刃包丁、が置いてあり刃元まで血に濡れている。床には彼氏だったものが横たわっている。頭と手足以外、つまりは腹部なのだが刺し傷にも見えないくらいグチャグチャになっており、ミンチになっている。血液が血管のようなものから吹き出しているが、どこの血管や臓器化などはわからない。まるで何かに食い荒らされたかのようにも見える。自分でもなぜ彼をこうしたのかわからない、どうしてこうなったのか、なぜ私は血まみれで彼は目の前でお腹をミンチにされているのか、なぜ訪朝に血が付いていて私の手と服が血まみれなのか、ふと自分の手を見ると赤黒くなりガクガクと震えている。
その手でペンをとり、震える手でゆっくりと文字を書く、何もわからないし、状況を全く理解できないがとりあえずペンを走らせる。書き終わりその紙を胃炎の中央にある机に置いた。血の匂いで部屋は満たされていて私はその匂いに耐え切れずベランダに出る。そこは彼の家のベランダで真下には県で一番長い川が流れている。
「すべて終わる」
私はその川へ身を落とした。
「…そうですかありがとうございました」
そういって俺は事務所を後にする。そこは18年前に起こった夫婦殺人事件の夫が務めていた会社の事務所だ。何回も調査をしているものの怪しいものも怪しい人も見つからない。警察署に戻ると上司が声をかけてくる。
「よう、どうだった?」
俺は首を横に振って頭をかく、
「いやぁだめですね、夫の方の会社は全く怪しさがないです」
「……そうか、時効は今日だってのにな。たしかお前の同級生だよな」
上司はしっかりしている。部下の情報もよく覚えていて、新人教育でも熱心に教えてくれた。
「そうなんですよ、妻の方は私同じ学部で中もよかったので…」
上司は申し訳なさそうに俺の肩を叩いて去っていった。18年の間俺が養成期間もこの事件を担当していたのに凶器の一つもいまだに見つけられていないことに申し訳なさを感じているのかもしれない。終業時間を過ぎても資料をもう一度洗いなおしたりしたがやはり犯人にはたどり着けない。上司に、
「あとはやるから、もう帰って休め」
と言われ帰路についた。
家に着いた俺はとりあえず風呂に入った。何せ夜勤明けてすぐに事件の捜査に被害者の夫の会社の事務所に向かったのだ。湯船に浸かっているときうっかり寝てしまった様でその中には被害者の妻の同級生が出てきた。彼女が俺に話しかけてきたその時、目が覚めた。風呂は自動で追い炊きされたので温かいままだが時計は22時を過ぎている。俺は風呂を上がり夕飯を作るために冷蔵庫を開けた。ちょうど昨日買ったアジが一尾あまっていたのでそれを料理することにした。出刃包丁で3枚卸にし、塩を振ってグリルに入れる。俺は普通に大学に通っていたので料理なんてのはわかんない。ましてやアジのさばき方は知人に教えてもらったから知っているだけで調理知識は皆無だ。グリルを何回も開け閉めして焼き加減を確認し、挙句少し焦がした。
缶ビールを開け、ご飯とアジの塩焼きを机にもっていったときには23時をすぎており、もうすぐ日付が変わろうとしている。テレビをつけると臨時ニュースが放送されていた。内容は”18年前の夫婦殺人事件時効か”というニュースだ。この国では19年経つと殺人事件は事項として捜査が打ち切りにされる。仕事用の携帯は家に着く前からひっきりなしに事件のことが飛び交っていた。壁掛け時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる。俺はビールを缶一つ一気飲みし
「すべて終わった」
次の瞬間、24時を告げる鐘の音が響き渡った
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