このはてで
強風がテントを揺らす轟音で目が覚める。仰向けの状態から起き上がろうとすると風でテントの壁が当たり、テントが傾くほどの風が吹いているのを認識した、轟音はいつもの事だがテントが斜めになったのは久しぶりだ。目をこすりながらマスクを準備、被ってテントのチャックをける。と、チャックを半分開け切ったところで砂がなだれ込んでくる。どうやら強風でテントは半分埋まってしまったようだ。汚れたマスク越しに見える濁った視界は一面の砂地を映し出した。相変わらずどこまで見ても砂、砂、砂の一面である。まったく代わり映えのない世界に少し退屈もしてきたが、それももう少しで終わる。あと数キロ先に廃墟街につく。廃墟ではあるがかつては高層ビルが並び立つ廃墟だ。今までの民家だった廃墟とはわけが違う。テントの中からミドルリュックを背負いテントを放棄する。数分でそれは砂の中へと沈んでいった。
沈むテントを見送りながら私はため息をつく。なぜ世界がこんなことになってしまったのか、それは昔、ある帝国とある公国の戦争から始まった。
~15年前~
戦争が激化し、帝国軍が降伏直前に撃ち放った砲弾。その1発によって世界は変わってしまった、衝撃で木々はなぎ倒され汚染された雲が消えることなく海を越え、各国の土地を残さず荒らした。結果戦争は拡大化、世界崩壊はそう遅くなく訪れた。
学校で授業を受けていると突然聞いたことのないサイレンが鳴り、全員学校の1階にあるシャッターから階段を下りた。下には大量の備蓄と、今まで私たちが知らされていなかった世界の現状を校長先生から聞かされた。普段穏やかな校長が一人一人をみて、真剣に話す姿を馬鹿にしたり、あくびをしながら見る者はいなかった。
外では爆発音や何かが崩れる音、吹き飛ばされるような音が響いてくる中、比較的平和に暮らすことが出来ていた。しかし備蓄も山ほどあるわけではなく崩壊はすぐに訪れた。そう、内乱だ。少量をめぐっての争いが始まり、ストレスの限界から半ば発狂して参戦する者もいれば、鉄パイプで頭をへこまされ、二度と立ち上がらなくなるものもいた。私は、生き残りたい逃げ出したいという気持ちでどうやったかは覚えていないが、シャッターを破壊した瓦礫をどかして逃げ出したのだ。そして、自宅へ急ごうと前を見て頭が真っ白になった。
祖には一面の廃墟、というより更地が待っていた。どこも瓦礫となっていて、家と呼べるものはなかった。自宅があったであろう場所も当然のごとく何もなかった。だが、一人だけ、近所のおじいさんに出会った。
『あ、たかおじさん! これはいったい……』
『おや、みこちゃんじゃないか無事だったのかい。よくあの嵐を生き延びたねぇ』
そう言って外では酷い嵐で何もかも飛ばされてしまったこと、その前に自衛隊が避難ヘリで市民を非難させていたことを教えてもらった。
『たかおじさんは、なんで乗らなかったんですか?』
そう聞くと彼は高笑いをしていう。
『カッカッカ! わしは高いところが苦手でな、それにな……』
そう言って自衛隊が残したマスクなど今私が付けているキット一式を手渡しながら、
『ばあさんを置いていけないでな』
そう言っておじいさんの家の横に小さく石が積み上げられているのが見える。
『墓は飛んで行ってもわしらは一緒じゃからな、離れたくないんじゃ。みこちゃんはこのまま西へ向かいなさい、いつかはどこかにたどり着くじゃろ』
そう言っておじいさんは先祖が掘ったという防空壕から少しではあるが水をくれた。
~現在~
おじいさんに言われた通りことがあって私は西を目指している。住んでいた街のはずれからすでに砂漠になっていて、この砂漠地帯に入ってからすでに3日が経過している。ため息をつく暇もなく歩みを進めていると、何か灰色の棒が遠くにたくさん並んでいる。太陽が真上に来て少し傾くころ、それがビルの残骸だと認識することが出来た。コンビニやスーパーや百貨店の看板が擦り切れ掠れ、砂まみれになっている。建物の中には一部人が通れるようにしたような形跡があり、中にはいくつか保存水と保存食が置かれ、マスクの替えフィルターも箱で置いてあった。さらに人のではあるが今使用している者より大型のバックがありそれを拝借することにした。生存している人間に出会えなかったのは残念だが、バックの持ち主に手を合わせ、ドライフラワーを1輪添えてそこを後にした。
廃虚街にはいくつか下に行けそうな店の通路もあった。が、とてもじゃないがあの悪臭では生鮮食品は期待できないであろう。結局の収穫は、食料と水、そしてバックと替えフィルターだけであった。これだけでも十分な収穫だと言える、前回の街では水の1本もなかったうえにミイラのような狂人たちに襲われかけたからだ。もし自分が銃好きで、構造に詳しく、護身用に自作銃を持っていなかったらと思うと今でもぞっとする。と、少し風が強まった気がした。気なんかどこにもないので定期的に嵐に見舞われるのだ。
手ごろな廃虚の嵐をやり過ごせそうなところに滑り込み、小型酸素精製機を作動させてマスクを外す。ショートの黒髪についた砂埃をぱっぱと払い落として一息つくために水と食料を取り出し、ついでに仮眠用の寝袋も取り出す。嵐は大体1~3日で通り過ぎるので仕方なくここで足を止めることを決意した。もちろん嵐で何も見えない中歩くのは危険すぎるというのもあるが…… ひとまずは休息をとることにした。
~2日後~
少し長引いた嵐の轟音は嘘のように静まり返っていた。幸いここは頑丈で、どこにも嵐の被害はなく、私物の破損もなかった。彼女は胸ポケットから写真を取り出し、それを見る。家族でとった最後の写真だ。たまたま自宅の残骸に残っていたものを大事に持っている。腰にぶら下がった壊れかけの衛星ラジオは微弱に電波をとらえる。
『こち……日……5連……国駐と……位置は西……』
それ以降は入らなくなってしまった。ラジオの電源を受信したらオンになる設定に切り替え彼女は廃虚の穴から出る、家族に会うため、この荒廃した土地をどこまでもまだ見ぬ生存者たちに会うために、このはてまで。
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