雨音~雨のち晴れ~(短編集)
小雨(こあめ、小飴)
カフェの一日
「おっはようございまーす!」
そこそこの勢いで従業員用の裏口から小牧が入る。彼女はここでバイトをしている高校生で、まだ期間は短いが将来はカフェで正式に働くことを目指している。
「やぁおはよう」
ひょこっと表のカウンターから通路へ顔を出したのはこの店のマスター、東条さんだ。背が高くすらっとした体型にカフェの制服がとても似合っている。顔も結構イケメンで彼を見にこのカフェへ足を運ぶ人もそう少なくはないだろう。
「あの、マスター!」
着替え終わった小牧がコーヒー豆を挽いている東条へ声をかける。彼は手を止めて、小牧に笑顔で返事をする。
「うん、小牧ちゃんなんだい? 休みの話なら今回は忘れてないよ!」
そう言って彼は胸をトンと叩く。しかし小牧は頬を膨らませて手を横に振る。
「違います! いや、覚えてくれてなきゃ困りますけど!」
東条は何もしゃべらなければイケメンでかっこいいが、実は所々抜けてるところがあり、この前は休暇申請を忘れられててせっかくの友達との買い物をキャンセルするハメになったのだ。彼女はため息をついて、
「そうじゃなくてですね、今日私の友達がカフェに来るんです。 なのであんまり喋らないでください」
「おぉ、宣伝してくれたのかい? うれしいねぇ、持つべきはいいバイトだ」
相変わらず若干変な言動をしているが、これ以上構うと開店までに作業が間に合わなくなってしまう。まだいろいろ言っているマスターを適当にあしらってセッティングを始めた。
セットが終わり営業時間になったので、店の入り口にかけてある木の札をOPENにする。開店から数分でお客さんが入り始め、1時間後にはほぼ満席となった。席はカウンター6席とテーブル4席のこじんまりとした規模で行列ができるというわけでもないが、お客さんは3時過ぎまで絶え間なく来店して各々の時間を過ごして帰って行った。
客がまばらになり始めた頃扉が開き扉の鈴が、カランカランと、音を立てて来店を知らせる。人数は4人で二人は背中に大きなケースを背負っていた。
「いらっしゃいませ、お待ちしてました。 こちらへどうぞ」
小牧はそう言ってテーブル席へ4人を通す。
「もーアヤちはかたいなぁ友達なんだから別にいいじゃーん」
そう言ってケースを降ろしながら一人が言う。
「はいはい、ご注文がお決まりになりましたらお呼びくださいな。 部活お疲れ様」
彼女たち4人は小牧と同じ高校の軽音部の子たちで、その中の一人で若というベースの子が小牧と同じクラスで、今回4人を誘うために話題を振ったのだ。
「アヤちーちゅうもんおねがーい!」
席からカウンターに向けてボーカルの子が声をかけてくる。若以外はクラスが別なのだが、若を通じてバンドの子たちとは仲が良くなって一緒に買い物に行ったりなどもする仲になっていた。
「はいはいただいま~、さて何にしますか?」
それぞれがメニューを指さしたりメニュー名を読み上げるなりして注文をした。
「それじゃあ若とちーがカフェモカで、たかちが抹茶ラテ、みよんがキャラメルラテ、全員パンケーキねじゃあ待っててね」
カウンターに戻りマスターに注文を伝える。小牧はというとマスターの横で注文されたパンケーキを焼き始めた。クマの形に生地を細く流して少し焼いてから生地を丸く伸ばして焼く。ひっくり返すと綺麗なクマの顔が焼きあがっていた。全部の盛り付けをマスターの淹れる飲み物と同じタイミングで作り上げる。
「はいおまたせー、まずこっちがパンケーキで…… これが飲み物ね」
「ありがとー、うわこれ可愛い! クマじゃん!アヤちが作ったの?」
ボーカルの子がスマホを取り出して写真を撮り始める。他の子も「可愛い」や「きれいに作れてる」など口々に言い写真を撮っていた。
「冷めないうちにね、ごゆっくり~」
小牧は持ってきた商品を置いて席を後にする。4人は食べながら新曲の話や、若が賞をとった絵の話などをしながらゆっくりと過ごして帰って行った。
彼女たち4人は閉店間際に帰ったためそれが本日最後のお客さんとなった。扉の札をCLOSEに変えて店の掃き掃除を始める。マスターは小牧に掃き掃除の手を止めるように言う。
「小牧ちゃん、これあまったからよかったら飲んで、あとこれは僕の焼いたパンケーキね。材料余ってたし、たまにはいいでしょ?」
そう言って白鳥のラテアートと兎の絵が描いてあるパンケーキが目の前に置かれた。
「毎回賄いないし、シフト終わっても手伝ってくれてその分は大丈夫だっていうし…… たまにはお礼しないとって思ってね!」
彼はニコニコしながらほうきを持って裏へもっていった。食べ終わると東条は、
「じゃあ今日はこれでお仕事終わりだから帰っていいよ! また明日もよろしくね!」
こうして今日の私の働くカフェの1日は終了した。
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