プロローグ (2)

 裏手の扉から厨房へ入ると、同じギルドメンバーのパウロが、調理の真っ最中だった。


「おぅ、レオ」

「うっす」

「お前、今度は何したんだよ」

「わっかんねぇ」


 笑いながら質問してくるパウロに、笑って答える。

 刻まれたピーマンにタマネギ、それにベーコン。炒めながらケチャップと混ざって、好い香りがする。


「なに、ナポリタン?」

「おうよ!大量の肉団子つきだ」

「さっすがだね!」


 パウロは、ギルドメンバーではあるが、主に俺たちの飯を担当してくれている。なので外注依頼なんかは、ほぼ受けていない。

 面倒臭くなくて羨ましいっちゃ羨ましいが、ここから出られないのも俺にとっちゃ地獄だしな。


「レオーーーッ!」


 んんだよ、まじで・・・

 はい、はい。レオはここにいますですよぉ。


「んだよ爺、発情期で」


 ボオォォンッ!!!


 厨房を出るなり、おそらく炎系の魔法が俺の顔面に炸裂した。最後まで言わせてもくれないのかよ、まじかよ・・・

 こう見えて「マスター」の称号は伊達じゃない。

 ギルド「 OCTAVE 」

 オクターヴってのは、この爺の影に潜んでいる馬の名前だ。未だかつてお目にかかったことはないが、なんでも凄い馬らしい。ギルドのシンボルにもなっている。

 そしてこの爺・・・って、それどころじゃねぇな。

 顔が焼けるように熱いし、髪の毛が焼け焦げてる臭いがする。加減しろや、まじで・・・


「レオッ!」

「だから、なんなんだよ!」


 バシッ!

 ぴょんっと軽くジャンプをしたかと思うと、アンチョビー並みに爆発した頭めがけて御自慢の杖を振り下ろす。

 だから痛ぇっつうの。ダメだ。今日は何ひとつ避けれねぇわ・・・


「気も抜けとるのぉ。お気に入りのブルーの髪の毛が爆発した気分はどうじゃ。修行が足りんわ!」

「爺・・・用件」

「そうじゃ! お前、この国の姫様に何をした!」

「え?」

「何をしたと聞いておる!」

「知らねぇよ、なんの話だよ」

「城から、お呼びがかかっちょる!」

「ん?」

「ほれ。ロヒブランコ城から直々に、お前を名指しで召喚状が届いておる」

「城っ?」


 受け取った手紙は、すでに爺の手によって開封されているが、やたらと高級そうな紙質。それに、おそらく城の紋章らしき封蝋ふうろうが捺されている。

 んん・・・勝手に開封すんなや。


「で、何をしたんじゃ。姫様から直々じゃぞ。しかもよりによってお前じゃ!」

「ひでぇ言い方」

「とにかく行ってこい」

「パウロが飯」


 ヒュッ!


 杖先から飛び出した炎は、真っ直ぐ目の前まで飛んでくると、急に右手側へ大きく弧を描いた。

 ひょっとして・・・と軌道を追いかけていると、その先には俺のお尻が・・・


 ボンッ!


「熱っ! ぅおい! 爺、てめぇ!」


 睨みをきかせて、杖の先にすでに準備されている炎の塊が、どんどん大きくなっていくのが見える。

 やべぇ、本気だわチクショー・・・


「わぁった! わぁったから! 尻は狙うなよ! いきます、いってきますっ!」


 昼間っから暇をもて余し、酒を酌み交わしているギルドメンバーがケラケラ笑ってやがる。

 やたらとスースーするし、叩くとペチペチ鳴ってるし。うん、キュッと締まってて、なかなかいい尻してるよね、俺。


「レオッ」

「あ?」

「着替えてから行くんじゃぞ」


 やっぱ破けてたわ・・・

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