プロローグ (3)

「葵・・・」


「葵・・・」


「おい、コラッ!」


 後ろから頭を叩かれた。

 本的な物をクルッと丸めてポンッて感じ。だから実際には痛くもなんともないんだけど、こうゆう時、人間はだいたい咄嗟に口に出す言葉がある。


「あ、いったーーー」

「んな訳あるか」


 もう一度、ポンッと叩かれる。


「一本!」

「んもぉぉぉぉ」

「もぉって、それはこっちの台詞だバカちん。何回も呼んだんだぞ」

「むぅぅぅ、ごめんなさい。終わったの?」

「とっくにね。で、書けたの? 脚本」


 そう言って、スッとノートを手に取る彼女。

 北田 修。

「おさむ」ではなくて「しゅう」と読む。だとしても男性っぽい名前だが、歴とした女の子である。

 小学生時代からの親友で、唯一無二、私がスッと心を開くことが出来る心の友。

 劇場版のジャイアンって感じ。中身だけね。外見は全く違うよ。あの勇敢で仲間想いな剛田商店の長男。出逢った頃から、その女性版って感じ。

 私に、のび太っぽさはどこにもなく、あるとするなら眼鏡くらいかな。うん、のび太っぽさ。ないと思いたい・・・

 外見はと言うと「ミス・パーフェクト」

 サラサラしたロングヘアー。大きくて綺麗な瞳に二重瞼。羨ましいくらい長いまつ毛。スッと伸びた首筋、同じく手足。スタイル抜群で、腰の位置は私より高い。胸の大きさも丁度好い。

 ストレートにフックにボディブローを上下左右に打ち分けられ、さらにはローキックを何発も何発も。対戦相手が、もう立ってられないよ勘弁してくれよって泣きたくなるくらいパーフェクト。

 毎日アルバイトをこなしながらモデルを目指し、プロダクションに所属していて忙しいはず。それなのに、学生時代からの劇団研究会サークルを、未だにこうして大切にしてくれている。

 私は、そんな修が大好きなんだ。


「おい!」

「はい」

「これ小説だな?」


 数分間に渡る沈黙を破り、厳しい取り調べが始まってしまった。


「はい」

「脚本は?」

「いやぁ、それが・・・」


 ぽりぽりとこめかみの辺りを掻きながら苦笑い。

 物書きが好きで、趣味の範囲で小説を書いては、投稿サイトにチョロチョロ投稿している私。

 やりたくはなかったけど、修の一声で、学生時代から私が脚本を担当することになっている。

 でも実際は苦手で、書き始めるとついつい小説になってしまう。


「これはこれで面白そうではあるが・・・」

「そうでしょ!」


 ポコンッ!


「あ痛っ」

「それとこれとは、別なのじゃ」

「むぅ」

「これ、脚本に変換できないの?」

「んん、それがぁ。書き始めたんだけど、実はその続き、まだ降りてきてなくてさぁ。大まかな登場人物とかはイメージあるんだけど、まだ物語がねぇ」

「なるほど・・・」

「ファンタジーだし舞台化も、んん、どうかなぁ」

「・・・よし、触らせろ」


 そう言うと、後ろから抱きついてきて、私の胸を優しく触り始める修。


「おい、コラッ」

「相変わらず落ち着く好い胸じゃぞ」

「コラッ爺! 犯罪だぞ」

「合法じゃ」

「ひょっとして、ギルドマスター?」

「わかった?」

「アッハハハ。ギルマスをエロ爺にするなよ」

「いいじゃん、ッハハハハハハ」


 いつもこんな感じ。

 そして、修がこうして声をかけてきてくれるタイミングは、だいたい帰るぞって呼びにきてくれた時。だからこうしてじゃれ合ってると、次の流れも決まっている。


「おい御両人。いつまでやってんだ」

「はぁぁぁい」

「電気消して帰るぞぉ」

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