OGINGERS ー オジンジャーズ ー

大河 仁

プロローグ (1)

 青空が好きだ。季節はいつでもいい。でも強いて言うなら春か冬。透き通ってる感がいいね。

 どっちだろ? 冬? 鼻の奥にツンッとくるほど冷たい空気を吸い込んで見上げる空。うん、冬のほうが好きだな。最高だ。

 ふっと見上げた時。丁度、立ってる真上。首が痛くなるほどの真上。そう、これ。雲がないとベストだね。今日はちょっと邪魔。青って言うよりは、スカイブルーに近い感じ? なんかよく分かんねぇけど。

 夜空を見上げてる時は、星が散りばめられていて宇宙を感じやすい。けど俺は、この昼間の青宇宙あおぞらこそ、宇宙を感じられる。

 肉眼で星は確認できないけど、一点集中で青宇宙をずっと見つめてるとさ。その奥の奥。ずっと奥のほうに、なんだか吸い込まれそうでさ。いいよなぁ・・・

 行きたくはないけどね。行く方法なんて、あんのかな。あっても行かねぇけど。怖いもん。

「よいしょっと」

 ここは俺の特等席。ギルドの屋根。

 レンガ造りの三階建ての建物に、赤色っぽい瓦が敷き詰められている。どうやらこの町は、景観が統一されているらしく、どの建物も屋根が赤い。俺が生まれた時から何ひとつ変わらない。

 いいだけ頭上の空を堪能したら、そのまま仰向けに寝転がって、ゆっくり時間が経過するのを堪能する。

 路地を行き交う人々の話し声。馬車が走り抜けていく音。ちょっと先の商店街から聞こえてくる客引きの声や、赤ん坊の泣き声。それから、決まって頭の横で大きく口を開ける黒猫のアクビ。

 そんな賑やかな雰囲気も、慣れてしまえば子守歌のようで心地良いが、やはり時折訪れる静寂。そんな中、フワッと風が吹き出すと、またこれが最高なんだわ。


「おい! レオッ! レオッッッ!」


 ・・・賑やかになった。

 ちっ、じじいだ。まだお呼びがかからないらしい元気爆発な叫び声。ギルドマスターってのは、どこもあんな感じなのかね。

 せっかく気持ちよくなってきたとこなのに。ったく・・・

 大きく上半身を伸ばしながら、これまた大きなアクビをしていると、向かいの窓から、可愛らしいぼさぼさ頭のおチビちゃんが、ひょっこり顔を出す。

 俺の居場所を目視で確認できるのが、対面に並ぶ建物の三階。二階の窓からも見えるか・・・

 そして毎度のことだが、爺が大声をあげる時、俺がここにいるのを知っているのは、窓から楽しそうに覗きこんでるあの爆発頭のアンチョビーと、黒猫のコケだけ。


「アンチョビーー! レオを見とらんかぁ!」


 この流れもいつものこと。

 にかーっと口を左右に開けながら、爺に悟られないように上手く俺にアイコンタクトを送ってくる。こいつ、なかなかの曲者なんだ。

 人差し指を一本。口の前で立て、


「すまん黙っててくれ。スライムまんご馳走するからよ」


 そうジェスチャーを送る。

 さらに分かりやすく左右に大きく口を開き「にしし」と微笑むアンチョビー。


「見てないよー」


 サボってるつもりじゃねぇんだが、ことある毎に120G は高くつく。ガキにカモられるとはね。まぁ可愛いからいいけど・・・


「レオッ! レオーーーッ!」


 なんかしたっけかな?

 今日はしつこい。うるさすぎて落ち着かねぇ・・・

 仕方なく裏手へ回ってスッと飛び降り、何事だよ爺、発情期ですかコノヤロー! と愛の籠った言葉の1つでもかけてやることにした。

 でなきゃ、スライムまんの数が増えちまいそうだわ。

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