第7話 超純水、私ら以外が使ったことなかったよね!

 桜、満開。

 工場駐車場の桜は「私を見て」とばかりに咲いている。美しさに見とれながらも、時の移ろいと終焉、輪廻に思いを寄せる。


 真子ちゃんは誠にメールを送る。

「超純水の研究を東君にやらせてみたい。いいかな?」


 工場内にはお父様が使用していた研究室があった。真子ちゃんはそこで超純水の研究を続けていた。そのことを知るのは警備の寅吉だけだった。

「寅、カギ」

「はい、お嬢様。今からですか?」

「そうよ。あんたいいわね。競馬ばっかりしてるんでしょ!」

「そんな~、この競馬新聞は英字新聞と間違いましてね……」

「そっちの方が怖いわ!じゃぁね」

「はい、もう固く固く行きます」

「だめだ。誠じゃなく寅に変わりたい!」



「最期の超純水を飲むのはどちらか?」

この命題は50年くらい保留のままだ。


 真子ちゃんは自分が飲むと決めている。

そして残りの人生は誠として生きる。それが誠への恩を返すことだと信じている。


 誠は真子ちゃんと同じことを言う。


 平行線は1度でも歩みよらないから交わることは永遠にない。


 『超純水』をもっと作れたら変身がもっと自由になるはずよ。でも解毒剤を飲んで誠が消えたら大変なことこの上ない。私と誠が分離してめいめいに生きていけるのが最高なんだけどな……


 私はお金(資産放棄している)がないけど家族がいてくれる。孫もいる。だから嘱託社員でも仕事頑張ろうと思える。


 一方、誠は資産家だ。もう一生遊んでも使い切ることはないお金を持つ。社長として富と名誉、男として欲しいものは全て手にした。仕事はやらざる負えないからやっているのだろう。かわいそうなことしてる。



「コンコン」

「来たわね。入って」

「失礼しま……凄い装置だ」

「東君、いらっしゃい!」

「沼田さん、工場内にこんな研究室があるなんて初めてしりました」

「だって誰も知らないもん。寅以外か!」

「どういうことなのか教えてください」

「いいわよ。その代わり3時間くらいかかる?」

「大丈夫です」

「それじゃあ……」

 


 3時間後

「なるほど。では超純水は真子さんと社長以外使ったことがないということですか?」


「はい、そうです」


「これだけ長い年月使用しても害がないことを鑑みるとお二人以外で使用してみる価値がありそうです」


「真子さんの特異体質なのか超純水の効用なのかもわかっていないのが現実ですよね。真子さんによるものであれば超純水はただの水の可能性もありますよ」


「なるほどね(こんな話す子だったけ)」


「工場で使用している純水と超純水がどう違うのかから始めさせてください」


「お願いします」


「あの、今、超純水はありますか?」


「あるわよ。いつも携帯してる」


「ちょっとだけ見せていただいてもよろしいですか?」


「いいわよ。はい」油断した!


彼はそれを手にすると蓋を開け飲み干した。


「何するの?」


「どうしても必要な実験なんです。真子さん、やさしいからやらしてくれないと思って……すいません」


東君の体は縮み始め、髪が伸び、胸が膨らみ女性へと変身した。


「ば~ば。久し振りぶりぶり。アハハ」


「あなた誰?いくつ?」


「牧よ。小3で交通事故で死んじゃたからね。今は23歳。東君と同じよ」


「牧?本当に牧?なの」


「そうよ。なんで死んじゃたかもわからなかったもんね!交通事故は!ば~ばが元気でうれし~」


 牧は長男の長女で小3の時に交通事故で亡くなった、真子ちゃんの初孫である。


「あ~あ~あ~」真子ちゃんは泣き続けた。


 東君が亡くなった初孫に変身し、超純水の謎は深まったが真子ちゃんは嬉しくて堪らなかった。







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