🦍💫 VS 🐛🌂 3/6😵

🐛


「うわっ…、瞳孔開いてる…」


頭の上でコエダメが呟く。

足元のあちこちには、コボルト兵がゴロゴロと倒れている。

死んでいるのか、まだ息はあるのか。どちらにしてもそれらは一様に魂の抜けたような顔をしている。


そしてその奥側に、コラエライが何かとてつもなく恐ろしいものと対峙しているのがわかる。


異界にあってまるで弱みを見せない、戦が為に生きる誇り高き戦闘妖精。

その希望と闘気に満ちた瞳は今や色褪せ、口の中でなにやらブツブツと、意味のなさない言葉を呟いている。


僕が駆け付けた時には、おねえさんは完全に正気を失っているのが分かった。

戦士としての矜持だけが、彼女を奮い立たせているのだろう。そして─


眼前にそびえたつ、世にもおぞましい“それ”。


『決して直視してはいけない』


なんの説明もなくとも、ラジオが執拗に警告を繰り返した“魔法少女”であることを僕は理解する。


僕は、自分が震えているのに気づく。

ヤツの粘つく息遣い、体温、おぞましい腐臭。

僕は決してそいつを直視しない、いや、出来ない。

そんなことをすれば、僕の精神はダメになってしまう。それが本能で分かる。

あの気丈なコラエライおねえさんでさえ、ああなってしまう相手だ。


僕は足元を見つめながら、なおも立ちはだかろうとする彼女に駆け寄った。


「おねえさん!!」


「うぅ…メヌエッタ…?」


うわ言のように呟く彼女の鳩尾に、僕は渾身の一撃を放ち。


「グエッッッッ」


綺麗に決まり、苦しそうに足元に崩れ、呻く。


「う…、チーソン、殿…」

「そうです、僕です!」


言いながら、うずくまるコラエライの股間に


「グエッッッッ!!!!!」今度は蹴りを入れる。


「ちょ!!!股間はやり過ぎだよ!!!」

「そうだね、コエダメ」


慌てるコエダメに相槌を打ちつつ、僕は少しだけ彼女の様子を見る。

よし、完全に沈黙したみたいだ!


ドスッッッッ


念の為もう一発蹴りを入れておこう!


「錯乱してる味方には大人しくなってもらうのが一番なんだ」

僕はコエダメに趣旨を伝える。決して金玉を潰された意趣返しとかじゃないんだ。


「だとしても最後の一発、要るッッッ??!!」

「そうだね、コエダメ」


僕が急いでおねえさんを担ぐと、×××××は我関せずという様子でモゾモゾと蠢いている。

まるで何かを探すかのように、倒れたコボルト達を体に取り込んでは吐き出してを繰り返している。


目的は分からないけれど、こちらとやり合う気はなさそうだ。僕たちは一目散に逃げだした。


「なーんかアニメと違ったねえ、魔法少女」

コエダメが呑気に言う。

「…そうだね、コエダメ」


チーソンは、ちらりと目に入れてしまったおぞましい姿を、なるべく頭から離そうとする。

しかしそのイメージは悪夢のようにまとわりつき、なお一層吐き気が沸いて来るのだった。


💫


端末である、柊誠の仮想人格は考える。


端末は、敵側の戦士の情報はほとんど与えられない。

しかし逆に味方側のことは、ある程度把握している。

能力の内容、出自、行動原理等々。(無論、端末ごとに、ある程度の性能差はあるが)


なので当然、ゴリラの魔法。「獣ヶ原ぶん投げるタイプの友情」についても知っていた。


ゴリラの出身世界では、稀に「魔法」の素質を持つ者が現れる。

魔族を討つことを目的とした、世界法則の当て嵌まらない理不尽な力。

魔族勢はそれらの持ち主を勇者と呼び、最大限の警戒をする。


ゴリラもその勇者の一人であった。


ゴリラの魔法「獣ヶ原ぶん投げるタイプの友情」は、投げつけた生物を大爆発させる効果を持つ。

一見野蛮な攻撃魔法のように見えるが、この能力の真価は別にあった。


一つ目。

投げられた者の肉体は一時的に超強化される。そのため、自身の爆発によりダメージを食らうことがない。


二つ目。

投げられたものはしばらくの間、超大な安心感、万能感を感じるらしい。

そして多かれ少なかれ、ゴリラに対しポジティブな感情を抱くのだという。


一見攻撃的な能力に見えるが、実はフィジカルとメンタル。

その両面から味方を守る、強力な「補助魔法」なのだ。


知ってはいたのだが─

出会い頭に変態化したティティを躊躇なくぶん投げたのにはさすがに驚いた。


ティティは「獣ヶ原ぶん投げるタイプの友情」の恩恵により、全身を包み込まれるようにゴリラの温もりを感じ、魔王と激しく衝突をした後に、人間の体に戻っていく。


でも問答無用で四歳の女の子をぶん投げるのはどうなのだ。

しかも敵に。それも魔王に向かって。


投げつけられた魔王の方は逆に、×××××のおぞましさをとんでもない形で体験させられ、気を失ってしまった。

3rdステージの変態はそれほどまでに恐ろしい姿かたちをしているのだ…が…

よもや×××××のおぞましさが、魔王にすら通ずるものだとは思わなかった。

よく見るとおもらししている。

脱糞もしてるかも知れない。


一見、本能のまま行動しただけのようにも見えるが、攻守を兼ねた適切な状況判断と言えなくもない。

このゴリラ、どこまで計算に入れてるんだ?

ただ、誠の目からも、以前にも増してゴリラが頼もしく映るのだった。


ゴリラは体液にまみれて泣きじゃくっているティティをひょいと拾い上げ、倒れている魔王を睨みつけた。


誠は把握している。


ゴリラが決闘に参加する際に求めた条件。それは魔王との邂逅。

謎に包まれた十二魔王全てと接敵し、叩き潰す。それがゴリラの使命だった。

そしてどこの馬の骨とも知れぬ決闘者よりも優先すべき宿敵が、今目の前に横たわっている。


するとその時、

「オロチマリアちゃんから離れろ!!!」


急に上がった声の方を向くと、一匹のコボルト兵が震えながら構えているのが見える。

コボルト兵。

えらく弱い連中だけど、一丁前の忠義は持ち合わせているらしい。


その声を皮切りに、あちこちからコボルト兵が顔を出して、ワンワンと騒ぎだした。


「そうだそうだ!これ以上暴れるってんなら容赦はしねえぞ!」

「ガブリと噛みついてやる!」

「この城から出ていけえ!!こわいぞ!!」

「あの、サインください!!」


ゴリラは白けた顔をすると、最後に声を上げたコボルトにサインをサラサラと書いた後、

(いや、さすがにゴリラがサインを書くわけがない。あくまでそんな雰囲気の眼差しをしただけだ)

あっさりと魔王を背にして、ノソノソと歩き出した。


コボルト達も吠えるばかりで、ゴリラを追おうとはしない。

よっぽどティティが恐かったのか、それともゴリラのカリスマ性に圧倒されたのか。


何にしても、ティティと僕の敵は魔王でもコボルトでもない。

「強虫」と「駆け落ちの令嬢」だけなのだ。

これ以上ここでことを構えても、お互い何も得はしない。


ただ、先程の接触で大きな収穫はあった。


決闘相手は二人がかりであったとしても、変態したティティには全く歯が立たないということだ。

力の差は思ったより大きい。


ゴリラのたしなめるような視線に気づく。

眼差しは、こう言っている。


「妹にこれ以上辛い思いをさせるな」


それはゴリラの言う通りだ。(何も言っていない)

でも。

だからと言ってゴリラに全てを委ねていいのか?

誠は自問する。


🐛


「同志コエダメ。あなたの仰る通り、直に相手を殺す必要はございません」


コラエライの端末は続ける。


「勝利条件は相手の死亡。理由は問いませんわ。

事故死でも仲間割れでも寿命によるものでも。

とにかく相手が死んだときに生き残っていれば、勝利でございます」


「ほらあ!」


コエダメが得意げに声を上げるが、2人の反応はすこぶる悪かった。


「なんだか当たり前のことのように聞こえますわ」

「そりゃ生き残った方が勝ちだよ。コエダメ」


コエダメは、体を震わせる。

どうもこのナメクジ、喜怒哀楽を体の震えで表現する癖があるようだ。


「だからさあ!魔法少女めっちゃ強かったじゃん!」


「うん」「はい」


「魔王もものすごく強かったでしょ!」


「かなり」「そうなんですか?」


「だから、ほっといたら勝手に潰しあってくれて、オレたちは何もしなくても終わるかもってこと!」


コラエライが戸惑いがちに口を挟む。


「その─、魔王様は、“あれ”に匹敵するほど、お強いのでしょうか?」


チーソンは頷く。


「魔王は規格外に強かったです。僕とコエダメが全力を出しても、全くノーダメージでした」


「まあ!」

なぜか嬉しそうに眼を輝かせるコラエライ。

「左様でございましたか!であれば確かに、魔法少女様と渡り合えそうですね!」


「…はい」


チーソンは頷き、続けた。


「だから何としても、僕らが先に見つけ出して殺さないと」


「なんでそうなるの???」


「ええ、熟考が必要ですわ」


「だから!なんでそうなるの??!」


コエダメが吠える。


「コエダメ殿が体を螺旋状に変形させて、相手の肉に食い込むというのは如何でしょう」


「いやだよきもいよこっちの身にもなってよ!!!」


吠えに吠える。


「だから!魔王はもう諦めて…!」


「ご安心ください、コエダメ殿」


コラエライは優し気に、コエダメを諭す。


「我々を敵に回したのであれば、如何な相手でも屠り去ってみせますわ」


彼女の瞳には、蒼き炎が静かに燃えていた。


「だから、敵じゃないの!!!オレ達が勝手に家に上がり込んで、勝手にケンカ売ってるだけなの!!!魔王に罪はないの!!!お願いわかってッッッ??!!」


🥺

目が覚めると、たくさんのわんこ…もといコボルト兵達が覗き込んでおり、心配そうに話しかけてくる。


「オロチマリアちゃん、大丈夫?」

「ケガはなかった?こわかったねえ」

「侵入者は俺たちが追い払ったぞ!ほめて」

「おしっこ臭いね、漏らしちゃった?シャワー浴びてきたら?」

「おい、デリカシーがないぞ」

わんわんきゃんきゃん。


オロチマリアは顔から火が出そうになる。

彼女の魔王としての威厳は、もはや地に落ちていた。

そんなものが元々あったのかは、ともかくとして。


かろうじて涙をこらえた彼女は、キリっとした表情のまま

「お風呂入ってきます。替えの下着の用意を」と言い、


シャワーを浴びながら、号泣した。


「う、う、う。あの、侵入者の人達…」


恨めし気に、壁の一点を見つめてながら声を漏らす。


「もう怒っちゃいました…。絶対に殺します…。ゴリラも男の子も怪物も傘の人とやらも、みんなみんなみんなみんな!!!」


📻


ピピザザーー。


定期放送です、各選手の殺人スコアをお伝えします。


🦍:0体

💫:26体

🐛:5体

🌂:89体


以上です。


魔法少女の変態は解除されました。

魔法少女を怖がらせないよう、細心の注意を払ってください。

また、魔王の温度感が上昇しています。

接触は避け、ただちにエリア外へ避難して下さい。


ザ、ピーーーーーーー

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