🦍💫 VS 🐛🌂 2/6😭

📻


ザーザー。


定期放送です、各選手の殺人スコアをお伝えします。


🦍:0人

💫:18人

🐛:3人

🌂:62人


以上です。


勇者と魔王が交戦中です。

勇者の魔法「獣ヶ原ぶん投げるタイプの友情」の爆発にはご注意ください。


魔法少女が3rdステージに移行しました。

既に大きく人型を逸脱した、歪なシルエットをしています。

視界の端に触れるだけで、錯乱の恐れがあります。

遭遇した場合は極力足元だけを見ながら、ただちにその場を離れて下さい。


ピ、ザーーー


🐶


恐ろしい、とにかく恐ろしいのだ。


戦場であれば、いつでも勇敢に敵と“ 噛み違える ”覚悟はできていた。

どんな強大な相手であっても、仲間と一緒な恐れなどなかった。


しかし“あれ”は違う。あの、言葉にできない名状しがたいおぞましいものは。

あれは別世界の生き物だ!!!


かつて勇敢な戦士としてコボルト共をまとめていたドーベルマン顔の隊長は、

鼻水と小便を垂れ流しながらよろよろと逃げ回っている。

後ろから聞こえてくる音。

死にゆく仲間の絶望に塗りつぶされた悲鳴と、この世のものではない×××××の奇妙な叫びが、彼から正気を奪っていく。


逃亡を続けながらも、隊長は妙なことに気づく。

仲間たちの悲鳴が、後ろからでなく逃げる先からも聞こえてくるようになったのだ。


彼が幻聴を疑った時、曲がり角から現れたのは、整った顔立ちの小柄な女だった。

上品だがどこか作り物のごとく非現実的な相貌。

人間じゃない。魔物とも違う。たとえるなら、妖精のような印象だった。


「先程から」


女の放つ不思議な雰囲気に、思わず彼は足を止める。


「そちらから、沢山の殿方が走っていらっしゃいます。

どなた様も悲壮なお顔をして。

まるで、この世の終わりか何かから、お逃げになっているかのように…」


彼はパクパクと口を開き、伝えようとする。

向こう側からやってくる物のことを、説明しようとする。

だけど何も言葉が出てこない。

あの意味不明の×××××を、どう形容したらいいというのだ。


すると女の子は微笑んで


「いいのです。今から直接拝見しに参りますので…あなたはもう、おやすみなさいませ」


手に持った水玉模様の大きな雨傘を、ゆっくりと振り上げた。


🐛


「あれじゃあ、まるでいじめだよ!!!!!」


チーソンの頭の上で、コエダメが激昂する。

2人は突如乱入してきた謎のゴリラに助けられた形で、全力で逃亡している最中だった。


あの眼差しからして、間違いなくあのゴリラが“伝説の勇者”だろう


「あの子がなにをしたっていうんだよ!!!

勝手に家に上がり込まれて、仲間を殺されて。殴られて蹴られて…。

あの子、泣いてたよ?!

あの涙を見て、何も感じなかったっていうの?!」


チーソンは、申し訳なさそうに口を開いた。


「もちろん、殺すつもりなんなかったんだ。

ただ魔王ってどれくらい強いんだろうって、確認しときたくって。

…ごめんね、急に暴れちゃって」


もちろんこれは明確な嘘で、ちーそんは端から殺意満々だった。


「約束して!もうあの子に手は出さないって!!!」


「それは出来ないよ、あの子は必ず殺す」


チーソンは、冷たい口調で断言する。


「?!…どうして?」


「自分から喧嘩を売ったんだ。勝てそうにないからって、逃げるわけにはいかないよ。ちゃんと最後まで責任を持たないと」


落ち着いた表情をしているが完全に頭に血が昇っているのが、相棒のコエダメには分かる。

コボルト達を殺めたその時から、チーソンの内にある触れてはいけないスイッチが切り替わってしまったかのような、底知れなさを感じるのだ。


「それは、相手が“魔王”だから、じゃなくて…?」

コエダメの問いに

「違うよ、相手が“強い”からだ」

チーソンは答える。


沸々と湧き立つ狂気の香り、道理もへったくれもない。しかし有無を言わさない迫力があった。

気迫で蟲を屈服させる、それはゾワップラーの初歩技術だ。

チーソンがこうなってしまうと、コエダメはいつも何も言えなくなってしまう。


「…ごめんね?」


ややあってチーソンが申し訳なさそうないつもの顔をする。

まるで、「冗談だよ」と言い出しそうな雰囲気だ。

もちろんこれが冗談でないことを、コエダメはよく分かっている。


💫


ティティが開始数秒でこうも見事に変態してしまったのには、もちろん理由がある。


暗く湿った石造りの城の中、これはティティが大好きだった絵本の中にあった風景だ。

恐ろしい老婆が住む魔法の城。

寝る前に、よくねだられて読み聞かせた物語だ。


主人公の少年が城に忍び込むシーンになると、ティティは布団をひっかぶり僕の手を握った。

その様子が可愛らしくて、つい、もっと恐がるように、熱を入れて読んでしまう。

擬音を喉の奥で鳴らし、吹き込む風の音もしっかり再現。

緩急をつけた迫力のある語り口、白眉は魔女の登場シーン。

ティティが夜中にトイレに行けなくておねしょをした時は、深い達成感を覚えたものだ…。


急にそんな場所に移転されたティティは、作り物であるはずの恐ろしい舞台を目の当たりにし、即変態してしまった─という経緯だ。

僕はどうやら、トラウマを植え付ける才があるようだった。


………なんてアホなんだ、僕は。

いや、正確には僕は仮想人格だから責任はないんだけど。


ティティは、完全なパニック状態に陥っている。


逃げまどうコボルト達を片っ端から引っ掴み、強く抱きしめては「まことちゃんじゃない」と絶望を繰り返すティティ。

悲しいかな体のない僕は、彼女の手を握ることも、抱きしめてやることもできない。

ただ声をかけ続けることが精一杯なのだ。


ああ、ゴリラ。

早く姿を見せてほしい。

そしてティティを、ワイルドに抱きしめてほしい。

また一匹、哀れなコボルトの悲鳴が上がる。


ふと、一つの考えが頭をよぎる。

ひょっとして、ティティは今のままの方が安全なんじゃないか?


しかしすぐに思い直す。

あまり目立つと、「魔王」が来てしまうかもしれない。

端末として自分に与えられた情報は、魔王“涙目のオロチマリア”の、恐ろしいまでの強さだ。


それに、仮にも魔王と名のつく強大な存在に、×××××の精神汚染なんて通じるわけもないだろう。


🌂


「なるほど。では勇者と方は、正義の味方なのでいらっしゃいますね?」


「ゲームとか漫画とかだと、そんなイメージだけど…。

剣も魔法も使えるオールマイティーなリーダー!みたいな」


「まあ!魔法も使われるんですか。その方は」


「…でもそれはフィクションの話ですが…」


「では、魔法少女という方も、やはり魔法をお使いに…?」


「名前に入っているんだから、きっと使うんだと思います。

僕たちも『虫』だし、お姉さんもその傘と駆け落ちしたんですよね?

結構安直なネーミングが付けられるみたいだから」


チーソンは答えながら、「ね、コエダメ」と相棒に同意を求める。

わかんない…、と眠そうに返された。


「魔法少女は一般的には、どんな魔法を使うのでしょうか?」


「人助けとか、自分の恋の成就に使ったり。空想の中のお話なんですけど…。

そして普段は普通の女の子なんだけど、魔法を使う時にはフリフリのかわいい衣装に変身するんです!」


「まあ素敵!」


「それがすごくかわいい服だから、僕もコエダメも大ファンで!

毎週日曜日の朝は欠かさず見ていました。嫌がる友達も引っ張って一緒に」


「お話をお伺いすると、とても殺し合いをするような人種ではないように思われますが…」


「『駆け落ちの令嬢』もふつー闘わないでしょ…」


ボソボソと力なく突っ込むコエダメ。


「ただ、一つだけ言えることは、魔法少女は変身前は普通の女の子ということです。

だから変身する前に殺せばいいんです!」


「なるほど、単純明快ですわ!」


コエダメは何かを言おうとして、そして黙った。


「それにしても楽しみですわ、そのかわいらしい衣装というのが。

我々戦闘妖精も戦場での衣装は、大変こだわりますので!」


─コラエライはチーソンとの会話の回想を終える。

そして珍しく


「……ずいぶん」


彼女としては本当に珍しく、愚痴のような言葉を呟いた。


「ずいぶん…、お話が違いますわ…チーソン殿…」


彼女の瞳には、依然として闘争の炎が宿っている。

しかし、その足元はがくがくと震えていた。


それは、彼女がいつも襲われる武者震いではない。純粋な恐怖からの震えである。


戦闘妖精コラエライの眼前には、なんとも名状しがたい、恐ろしい化け物が蠢いている。

端末が静かに伝える。


「同志コラエライ。『魔法少女』です」


×××××は、この世のものではない難解な発音で叫ぶ。


「^^ ^^^    ^^と^^ ^^^こと^^    ^^ゃん^  ^^^^^  ^^^!!!!!!!」


🥺

けたたましい爆音と荒れ狂う爆風の中を、泣きながら走っている魔王がいる。

世界を支配する十二魔王が一角、魔王序列第三位『涙目のオロチマリア』その人である。


くどいようだが念のため。


彼女は大きな音が大嫌い。すごくビックリするからだ。


先程から、ゴリラは巧妙にこちらから間合いをとり、手あたり次第に近くの兵士をこちらに投げつけてきていた。


投げられた兵士がどこかに当たると、轟音と爆風が起こり、ピカピカと眩しい光が放たれる。

ただ、奇妙なことに、投げられた兵士達は、一才ダメージがないように見えるのだ。

味わったことのない状況にオロチマリアもパニックに陥っている。


ゴリラの勇者。

序列第十位『生真面目なヒューポクライテ』を破った勇者に間違いないだろう。

これを逃してしまうと『口うるさきチャチュガバチョ』(序列四位)に、めちゃくちゃ怒られてしまうだろう。

先程自分をボコボコに攻撃してきた(全然痛くなかったけど)男の子にはすごく傷ついたけれど、それはひとまず後回しだ。


『必殺技その1』をすればすぐに終わりそうだけど無差別範囲攻撃だから、兵士のみんなにも当たっちゃうんだよな〜。

大丈夫かなあ〜、でもいざって時の為に避難訓練とかしてるしなあ〜…。


我ながら、小回りの利かない必殺技ばかりで嫌になる。


その時。


逃げ回るゴリラがこちらに向かって妙な物体を投げつけてきた。

大きな質量を持った、なんともおぞましく名状しがたい…。


その姿を視界に入れ、オロチマリアの足がピタと止まる。

そしてみるみるその顔が、恐怖で染まっていく。


「うわあああああああああッッッ?????!!!!!」


なに、これ!!!!?????

この…、何??????!!!!!!


“それ”はオロチマリアに直撃し、轟音と大爆発を起こした。


この時、彼女は根源的恐怖により小便を漏らす。

しかしそれは特級の秘密事項である。

なぜなら彼女は、世界を支配する十二魔王が一角。


魔王序列第三位『涙目のオロチマリア』なのだから。















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