🦍💫 VS 🐛🌂 1/6🥺

📻

ザ、ザー。


おどろおどろしい暗い空気が漂う湿地帯のほとり。

12魔王が一角“涙目のオロチマリア”が管理する魔王城が、今回の舞台です。


彼女の僕である犬型魔獣コボルトは、個々の実力は低いですが、犬の特性を色濃く持っています。

その組織力にご注意下さい。


オロチマリアは軍服に身を包み、頭に大きな角が2本生えた少女の姿をしています。

接近の際は緊急アラートを流しますので、慌てずに落ち着いての“避難”をお願いします。


ザザー。


🐛

「へえ。この犬っぽい人達、コボルトっていうんだ」


げえげえと吐いているコエダメの背中をさすりながら、チーソンは呑気な声を上げた。


「魔王とかいるんだね、恐いなあ。

それにしてもこのラジオ番組、便利だねえ」


「─何も……」


コエダメはえづきながら、言った。


「何も殺すことはなかったでしょ!問答無用で!それも3人も!!」


2人の足元には、首が変な方向に曲がった死体が3つ、転がっている。

チーソンが「作ったもの」だ。


「これでオレもヒトゴロシだぁ…。

人の道を、外れてしまったあ………」


チーソンが、嘆くコエダメの体にそっと手を置き、慰める。


「ううん。この人たち人間じゃないから。顔がほら、犬じゃない」


「言葉喋ってたもん!!」


ややあって、ようやく吐き気がおさまったコエダメを頭に載せて、2人は歩き出した。


「とにかく、あのお姉さんを探さないと。

あの人戦闘狂だから、無駄に暴れ回ってケガしてないといいんだけど……」


「人のこと言えんの?!いや、言えないね!!」


「ごめんって。なるべく不要な闘いは避けるから…」


「でも、おねえちゃんの実力なら心配はないと思うよ。

強かったもん、すごく」


コエダメは、チーソンと闘っている時のコラエライを思い出す。

実質二体一にも関わらず、彼女は一歩も引いていなかった。


「いやいや、犬って群れたら恐いんだよ?

さっきだって不意打ちで1匹ずつだったからなんとかなったけど、

統率が取れてる奴らが10匹も20匹も出てきたら、さすがのお姉さんでもかなり危険だと思う…」


首から掛けている胸元のラジオが、番組を流し始めた。


📻

ザーザー。


定期放送です、各選手の“殺人スコア”をお伝えします。


🦍:0人

💫:8人

🐛:3人

🌂:21人


以上です。


なお、魔法少女が2ndステージに移行。

2ndステージに移行しております。

シルエットは人型がベースですが、やや逸脱しています。

遭遇の際は決して刺激をせず、目と耳を塞ぎ、速やかに避難して下さい。


ザザ、ピー…


🐛


「…心配する必要はなかったかな?あはは」


ラジオの音声を聞いて、チーソンは乾いた笑い声を上げる。

21人。チーソンの7倍だ。


「…でも、魔法少女の『2ndステージ』っての、なんのことだろうね?

なんか避難を推奨されてるけど戦っちゃダメなのかな?

対魔法少女戦は昨日話した“必勝法”があるから正々堂々と戦うつもりはないんだけど、そもそも外見の説明も意味わからないし………コエダメ?」


黙って小刻みに震えているコエダメに気づき、声をかけるチーソン。

すると、蚊の鳴くような声で


「…、殺人って、言った…」

と呟いた。


「え」


「各選手の“ 殺人スコア ”って言ったよ?!

人じゃないなんて、嘘じゃんか!!

やっぱり人間を殺しちゃったんだあ!!!!」


そう言って、泣き崩れた。


「人の道を外れてしまったよおおおおおーーーーッッッ!!!」


「大丈夫大丈夫、そもそも君は人間じゃ無いでしょ…」

間で含めるように、チーソンはゆっくりと諭した。


🥺

小柄な体躯に不釣り合いな厳めしい軍服に身を包んだ少女。

大きな目に涙をいっぱいに溜めて、12魔王が一角。

序列第三位『涙目のオロチマリア』は、ぽてぽてと歩いている。


侵入者であるゴリラと傘と、何だかよくわからないやつ。

城主として、それを見つけ出さなくてはならない。

しかし、オロチマリアはこういったことが大の苦手であった。


なぜなら彼女は極度の人見知り。


問答無用で襲って来てくれたらいいけど、もし万が一、話しかけられでもしたら…。

暗闇の向こうから、今に未知の相手が飛び出して来て、親しげに握手を求めてくるのではないか??

そうなったら、果たして魔王の威厳を保つことが出来るだろうか??


さっきからぐるぐると、そのことばかりを考えているオロチマリアである。

彼女の緊張の糸は、限界まで張り詰めていた。


その時


暗闇の向こうから

「ビーッ!ビーッ!ビーッ!」と聞くものを動揺させる、けたたましい不吉な音が鳴り響いた。

飛び上がるオロチマリア。

大魔王は、ビックリネタにも弱いのだ!


続いて聞こえる


「魔王です!魔王です!魔王が接近していま─」


ブツリ。


音が中途半端に途絶え、不気味な静寂が訪れる。


魔王?魔王って?!

魔王がこっちに来てる?????!!!!!!!

あ、でも魔王ってウチだ…。


激しい混乱に固まっていると、暗闇の中から何かがこちらに近づいてくる。

恐る恐る、といった様子でビクビク顔を見せたのは、まだ幼い顔つきの可憐な美少女であった。


少女はオロチマリアの少し離れた位置で立ち止まり、上目遣いで言った。


「…あのぅ、魔王様でいらっしゃいますか…?」


オロチマリアの警戒心が、一気に氷解した。

そしてちょっといい気分になる。

彼女にとって「様」付けで呼ばれることは、実に久しいことだったからだ。


しかし、人見知りが解けたわけでもなく、ただ黙ってコクコクと頷く。

年下って、どう接していいのかわかんない。


美少女は、一歩一歩ゆっくりと近づきながら、言葉を続ける。


「あのう、僕、魔王様にお願いがあって…」


僕?よくよく聞くと、少年の声。

…あれ?男の子??

オロチマリアが首を傾げた時、子供が小さく


「ぁ…」


と声を漏らし、目を見開いて背後の空間を見あげた。


「??」


オロチマリアも、釣られて視線を後ろに移す。


遠方に、なにかいる。


ゴリラだ。

思わず二度見する。


混じりっけなしのゴリラである。


ゴリラ。

そう言えばヒューポクライテ君が、ゴリラにやられたと聞いた。

魔族間で指名手配になったけど、まだ見つかっていない…


「…………え、勇者?」


呟いた時、彼女の首元に衝撃が走った。


🐛

不意打ちとしては、完璧だった。


急にラジオからアラートが鳴り出したのにはビックリしたけど、なんとか油断をさせることが出来たし、偶然居合わせたゴリラも上手く使って視線誘導も成功した。


無警戒なところからの首元への蹴りも、殺すつもりで振り切った。

殺人は今までに経験のないことだったので、先程2、3回ほど“練習”をして、威力や角度に問題はないはずだった。


しかし、魔王は2、3歩後ろによろめいたのみで、ゲホゲホと咳き込んでいることを除けば、まるで。


まるでノーダメージに見えるのだ。


それでも、今更攻撃を止めるわけにはいかない。

チーソンは今度は大きく振りかぶり、魔王の顔面に向けコエダメを全力投球する。


コラエライにも使った「グランドデスマスク」(平面の地獄)。

相手の視界を奪い呼吸をも阻害する、対人最強の隠し技である。


「プペヘエッ」


顔面に不意を食らい、魔王は妙な悲鳴を上げる。


「コエダメ!!眼球を捻り潰してッッッ!!」


「そ、そんなグロいことできるかッッッ!!!」

コエダメが悲鳴のように返事を返す。


コエダメの全身を使った握力は、1トンに達する。

これは相手が人間であれば、頭蓋骨を粉々にできる数字である。


(…まあ、でも無理だよね。コエダメは優しいから…)

元よりチーソンも、そこまで期待していない。

他人に期待しない性格なのだ。


張り付いたコエダメを外そうと、必死に顔に手をやる魔王。

チーソンは無防備な鳩尾を狙い、また蹴りを1発放つ。

しかし苦痛に顔を歪めたのは、攻撃をしたチーソンの方であった。

まるで金属の塊を蹴ったような衝撃が、彼の爪先に伝わる。


そして、魔王は。

魔王は今度は一歩も引かなかった。

まるで何事もなかったかのように、顔面を手探りし、


「バツン」


聞いたことのないような音を立てて、コエダメを素手で引き剥がした。

そして─


「う、う、う、」


手にしたコエダメをその場にポトリと落として


「うええええええええん!!!!っっっずおおおおおおおおお!!!!

きゅ、きゅ、急に、なにするんですかあ……ッッ……」


号泣だった。

チーソンを恨めしげに見つめながら、号泣している。


「……あ、」


チーソンは、足元に転がったコエダメを回収しながら、駆け寄る。


「あのっ、つい…!すみませんでした!!」


謝罪をしながら、魔王の顔面に掌底を叩き込む。


「ッべん!」

またしても妙な悲鳴を上げる、かわいそうな魔王。


同じタイミングで、背後からゴリラが投げつけてきたコボルト兵が、魔王に被弾し派手に爆発を起こす。


「うあああああ??!!」


悲痛な魔王の悲鳴が辺りに響く。

今日は彼女の厄日であった。

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