主人公と全然関係のない敵対勢力同士のバトルとか好きな人用の小説

🌂 駆け落ちの令嬢

「こちらをご覧になって、コラエライ。妖刀ヤギガシラ。10000人以上の殿方の血を吸ってき名刀よ」

「叔母様A」

「やはり結婚するなら刀と相場が決まっていますでしょう？

であれば、その頂点に立つこの伝説の妖刀こそが、あなたのお相手にふさわしいと思うの。

御覧なさい、このずっしりとした重量感、惚れ惚れするような刀身…」

「叔母様A、せっかくですがわたくしは…」

「あら。嫌なの。

まあ確かにあなたの力なら、そこらの包丁刀でも十分よ？でもね、」

「そのお話、お待ちになって！！！」

大きな音と共にドアが開かれ、お客様がずかずかとお上がりになりました。

「叔母様B」

「ああコラエライ。刀なんかと結婚するのはもう時代遅れよ。わたくしがお勧めするのはこちら」

デンとテーブルの上に置かれたのは、メタリックなレーザー銃でございました。

「やはり古臭い武器なんかよりも、これからの時代は火器！

最新式のレーザー銃、 グランザッパーよ。御覧なさい、このずっしりとした重量感、スマートなフォルム…」

叔母様Aは嫌な顔をされます。

「あらいやだ、風情のないこと。それは殿方の技術を流用した品ではありませんか。

そこらの小娘ならともかく、格式ある我が一族にはふさわしくありません」

叔母様Bも、負けじとやり返します。

「そちらこそ。黴の生えた格式なんかにこだわっていては、

より熾烈となる殿方との闘いにはついていけませんわ」

火花を散らすお二人を手で制し、わたくしは申し上げます。

「叔母様B、せっかくですがわたくしは…」

「あら。嫌なの。

まあ確かにあなたの才能なら、そこらの豆鉄砲でも十分よ？だけど、」

「その話、お待ちなさい」

静かな音と共にドアが開かれ、お客様がしずしずとお上がりになりました。

その姿を見てわたくし達は、慌てて立ち上がります。

「これはこれは、長老…」

「お座りなさい」

長老様は優しくわたくし達にお声がけになると、空いている席の一つにお掛けになります。

そして威厳のある声でおっしゃいました。

「コラエライ、あなたも年頃です。皆がふさわしい相手を探してヤキモキするのも、無理からぬこと。

そこでわたくしが、あなたにふさわしい物をお持ちしました」

そういって、デンとテーブルに置かれたのは、古めかしくも趣のある軍旗でございます。

叔母様達は息をのまれました。

「これは…」

「そう、これは戦闘妖精のシンボル。歴代から戦場でわたくし達を鼓舞し続けた、軍旗です。

御覧なさい、このずっしりとした重量感、格調高い風格…」

叔母様Aがおずおずと口をお開きになりました。

「恐れながら、長老。確かにわたくし達戦闘妖精は、棒状のものであれば何とでも、結婚できます。

しかし、これは武器ですらありません。これでは殿方を屠ることは難しゅうございます。

もちろん、素晴らしい品であることは重々承知をしておりますが…」

「何を言います。コラエライの実力、才能、気品。どれをとってもわたくし達一族の最高傑作。

たとえ、そこらのお子様ランチに立っている旗であっても、十分でしょう」

叔母様たちは、動揺なさっているようでした。

「長老、いくらなんでもそれは…」

すると長老はクスクスと上品にお笑いになられました。

「失礼、少し言いすぎましたね。でもこちらをコラエライの夫にしたいのは、冗談ではないのですよ。

これから彼女は我が一族の頂点、つまり、全ての戦闘妖精を率いていく立場となります。

彼女が戦場で旗となり鼓舞すれば、一体どれだけの兵が勇気づけられるでしょうか？」

叔母様たちは、ハッとした顔をされました。

長老はコホンと咳払いをして、わたくしに体をお向けになられました。

「あなたにはわたくし達の王になってもらうつもりです。

コラエライ。この旗を、選んでくれますね？」

わたくしはお言葉を受け、深々と頭を下げて辞退を申し上げました。その場の空気が凍り付くのを感じます。

「理由を、言いなさい」

「心に決めた方がいます」

わたくしは、近くに置いていた雨傘をテーブルの上に置きました。

それは武器ですらない、白地に水玉模様が入った大きな雨傘にございます。

「わたくしは、こちらの傘と添い遂げます」

そうはっきりと申し上げました。

その場の皆さまのお顔色が、変わっていくのがわかりました。

長老は紙のように白く、叔母様たちは青く、そしてわたくしの顔は、恥じらいで真っ赤！

「その決意は固いのですか」

長老のお声は震えていました。長老のお言葉に背くことは、わたくし共の中では重罪。

場合によっては死罪となることもございます。

でも、わたくしは背筋を伸ばしお答えしました。

「はい」

長老は目をつぶり、少し考えていらっしゃるようでしたが

「今日は帰ります。あなたも一晩頭を冷やし、よくお考えなさい」

そう言い残し、お帰りになられました。

その後、叔母様達はわたくしに思い直すよう、たくさんのお言葉をかけて下さいました。

わたくしは頭を下げ、申し上げます。

「わたくしが浅はかでございました。自身の立場も弁えず、恥知らずにも我儘を…。

ただ、わたくしも、最後の心の整理がしとうございます。

どうか一晩、この傘と一緒にいさせていただけないでしょうか？」

叔母様達は静かに目を閉じ、

「あなたがそこまで言うのなら、思う通りにしなさい」

そういって下さいました。

ひょっとしたら叔母様達はわたくしの思惑も、胸に秘めた覚悟も、全てお気づきになっていたのかもしれません。

そしてわたくしはその晩、傘と一つになり、結ばれます。

夜の闇の中、屋敷を抜け出したわたくし達は、戦場へ向かいました。

わたくし達戦闘妖精は、闘い争うために産まれてきた存在。

荒れ狂う殿方達を屠ることが無上の喜び、そして戦場で華々しくちることが、本懐。

だから戦場で逝ったわたくしの親友、メヌエッタもきっと満足だったでしょう。

そう大人の皆さまは慰めてくださいました。

でも違います。それは違うのです。

ああ、可愛そうなメヌエッタ！

彼女は殿方を誰一人屠ることもなく、大型火器に特攻し、命を散らしました。

誰一人、屠ることなくです！！

彼女は暴れたりないのです。どれほど殿方の悲鳴を、あの子が楽しみにしていたか！

彼女がプレゼントしてくれた雨傘。

わたくしはそれと共に戦場を駆け抜け、無念に散ったあの子の分まで大暴れし、そして死のうと、そう心に誓いました。

ドンパチと音が鳴っている個所に、わたくしは踊りこみます。

「戦闘妖精だーーーーーーーっっっ！！！！！！」

殿方達が悲鳴を上げて火器を乱射されますので、わたくしは傘の中にお潜みいたします。

「傘！？なんで戦場に傘が！！！！」

「戦闘妖精は武器に擬態するんだ！！」

「だって傘だぞ！？武器じゃないだろう！！水玉模様だぞ！！囮か！？」

「知るか！いいから撃て、撃てえ！！！」

飛び交うは野太くも弱弱しいお声。

飛び散るは汗と血。逃げまどう殿方。

わたくしは目に入る方々を丁寧に屠っていきます。

柄で殴り、あるいは先端で貫き、もしくは傘の中へ引きずり込みます。

殿方達と激しくも楽しい時を過ごしていると、後方から強い殺気を感じました。わたくしは振り返ります。

「妖刀ヤギガシラ…」

そこにはかつてのわたくしの仲間達が立っていました。

「長老に背かれた罪、お償いなさいませ…」

彼女たちは、そうおっしゃいました。

あら！あら！あら！

わたくしの体は感動と悲しみで打ち震えておりました。長老がお放ちあそばされた、処刑人の皆さまでございます。

わたくしは向き直り、ご挨拶をいたしました。

「かつてのお友達を屠るのは、心が痛うございます…」

「同じ気持ちですわ…」

目に見えぬ火花が散り、そして同族との闘いが始まります。

「戦闘妖精が増えたぞーーーーッッッ」

「増援早く！！助けてくれえ！！！！！」

「このバケモノ共があああああ！！！！！」

殿方も交えた素敵な時間はしばらく続き、辛くもわたくしは勝利を納めます。大変素敵なお点前でした。

それからというもの、背後からはかつてのお仲間、前方からは殿方が、わたくしを苛烈に襲いました。

「水玉模様がきたぞーーーーッッッ」

「たすっ、たすっ、助けてくれえええええ！！！」

「撃て撃て撃てーーーーッッッ」

わたくしの体はボロボロとなり、もはや歩くこともままならない状態でございました。

傘もすっかり血に染まり、綺麗な水玉模様は見る影もありません。

わたくしは傘にすっかり潜み、静かに地面に横たわります。

「見えますかメヌエッタ、わたくし達が屠った殿方の死体の山よ。

お友達もたくさん、わたくし達を楽しませにいらっしゃいました。

もう、あなたは満足…？わたくしは……」

目の前がぼやけてまいりました。

それはわたくしの肉体が限界を迎えているためか、それとも涙のせいかもわかりませんでした。

脳裏に、かつてのメヌエッタの笑顔が浮かびます。

「もうすぐ誕生日でしょ？プレゼントだよ！あなたに似合うと思って」

「私はもう誕生日が来ちゃったから、戦場に行くの」

「絶対一緒に戦おうね！わたしそれまで生き残ってるから！！」

「じゃあね、約束よコラエライ」

「…最後の思い出の走馬燈が、あなたのことばかり。本当にわたくしったら…」

ひょいと傘を持ち上げられる感覚に気づいたわたくしは、思わずはしたない声を上げました。

「きゃっ」

持ち上げた主は、黒いスーツをお召しになられたお仲間に見えました。

黒い髪を長く伸ばした大柄な体躯で、随分と退屈そうな顔をなさっていらっしゃいます。

「わたくしを、屠りに来られたのですね…」

わたくしが覚悟を決めると、そのお方はあっさりと否定されます。

「違います。私はあなたを回収しに来ました」

そう言って彼女は、「なんで私が説明しなくちゃならないんだ」と言った風に、口をへの字にお曲げになられました。

「戦闘妖精コラエライさん。

あなたにはこれから、こちらの用意した戦士と殺し合いをしてもらいます。

同意しますか？」

そうおっしゃっられたのでわたくしは、はしたなくも大きな声でお返事をしてしまいます。

「勿論！！」

わたくしも、メヌエッタも、まだまだ暴れ足りません。

了