主人公と全然関係のない敵対勢力同士のバトルとか好きな人用の小説

魔王ちゃん、泣かないで🥺

🦍 伝説の勇者

12魔王が統べる魔王軍の台頭によって、長らく人類の平和は脅かされていた。

しかし、人類から希望の光が消えたわけではなかった。

年に一度「勇者」の意志を持つものが現れ、魔王軍に立ち向かうようになったのだ。

勇者は不思議な力「魔法」を駆使し、魔王軍に確実な打撃を与えていった。

魔王らはこれを強く警戒し、勇者の処理を最優先事項とし、全力で処理するようになっていた。

12魔王が1人「生真面目なヒューポクライテ」とその第一の部下は、

前線から送られてきた「勇者ニュース速報」で、今年の勇者の映像を眺めていた。

2人は深刻な表情で、互いの顔を見合わせた。

魔王ヒューポクライテは呻くように言った。

「ゴリラではないか」

一の部下は答える。

「ゴリラですね」

「私は勇者の映像を見せろといったのだ」

「ですから、今年の勇者はゴリラなんです」

「なんだそれは、どちらかというと人間というより魔物よりではないのか」

「いえ、ゴリラは野生動物なので、我々魔族よりということでは…」

「ゴリラでも勇者になれるのか」

「現になっちゃってますので…」

「で、我が軍はゴリラなんかに手こずってるのか」

「ゴリラなんかとおっしゃいますが、ただの人間よりよっぽど脅威かと」

「ああ、そうか。いや、それにしたってケモノだろう。頭とか悪いだろう」

「知的な目をしています」

「そういうことでなくて。なにか頭を使ってだね」

「毒でも盛りますか」

「いや、天下の魔王軍がそんなせこいことは」

「背に腹はかえられないでしょう、前線で犠牲になってる魔族達を考えてください。

ほら、泣いてますよ」

「ほんとだ。なさけないなあ、ゴリラなんぞに…」

「ゴリラなんぞとおっしゃいますが、ただ人間よりよっぽど恐ろしいかと」

「ああ、そうか。たしかにすごい迫力」

「ほら、牙なんてむいちゃってますよ」

「む、両手で胸を激しくたたき出したぞ！？」

「ドラミングという威嚇行為ですね、心優しいゴリラは争いを避けるため

暴力以外で自身の実力を見せるのです」

「なるほど、しかし相手は魔王軍の精鋭たちだ。そんなもので…」

「恐れをなして引いていますね」

「なさけないなあ」

「やはり毒を」

「でもなあ、勇者相手に毒殺って。士気も下がりそうで」

「では、こっそりやりましょう」

「ううむ、仕方ないか…」

「かしこまりました、さっそく毒入りのバナナを贈ってみます」

「うむ」

少しして

「どうなった？勇者の件は」

「ゴリラですか」

「いかにも、ゴリラのことだ」

「映像が届いております、ご覧に入れましょう」

「うん」

「あ、バナナに気づきましたね」

「…あのバナナ、すごい変な色をしてないか？」

「毒をたっぷり盛りましたんで」

「いや、どんな毒をもったらあんな変色するんだ。皮の色まで変わることってあるか？」

「ああ、あれはですね。前線の魔族が間違えて食べないように、色を塗ってわかりやすくしたんですね」

「わかるだろ、塗らんでも」

「おかげで犠牲者は5人で抑えられました」

「食ったのか？！わかるだろ！！」

「あー、ゴリラ、警戒してますね。あんな色に塗っちゃったもんだから」

「わが軍の兵士はゴリラ以下か？！」

「やはり野生の勘は恐ろしいものです」

「色のせいだよ！！」

「やっぱり、こっそりやったのがまずかったですね」

「むう、やはり毒殺はなかったな」

「正攻法で行きましょう」

しばらくして

「どうなった？例の」

「ゴリラですか」

「そう、ゴリラだ」

「快進撃が続いてるみたいで」

「おお、我が軍がか」

「いえ、ゴリラ軍が」

「ゴリラの方かよ！というか、ゴリラは単独で行動しているのではないのか！？」

「ええ、最初は一体だったんですが、どんどん仲間を増やしていって」

「ゴリラのか」

「いえ、人間の」

「人間？！人間がゴリラについて行ってるのか？」

「ええ、虐げられていた人間どもに、ゴリラがリーダーシップを発揮しまして」

「リーダーシップ」

「俺について来いと人々を」

「喋れるのか、ゴリラは」

「いえ、そんなような眼差しで」

「眼差しだけにすがってるのか、人間どもも相当悲惨な状況だったんだな…」

魔王は同情した。

「同情してる場合じゃないですよ。

事実ゴリラはリーダーとなって人々を導いているんですから。

この映像をご覧ください」

「ゴリラが周りの人間を我が軍に投げつけているが」

「恐ろしい攻撃です」

「これがリーダーシップ？」

「恐ろしいリーダーシップです」

「ふざけているのか？」

「ゴリラは真面目です」

「いや、貴様が」

「私も真面目ですよ！この攻撃、めちゃくちゃ恐ろしいんですよ！

いいですか？！真面目な話です！！」

一の部下の目が血走っているので、魔王はやや引く。

「わかった、説明しろ」

「はっ、申し上げます！

ゴリラに投げられた人間は、ゴリラ魔法の力で強化されます」

「ゴリラ魔法」

「強化された人間はどのような砲弾よりも強固に我が軍の壁を突破し、そして着弾と共に大爆発を起こすのです」

「なるほど、特攻か。カミカゼの精神だな？」

「いえ、ほんとに恐ろしいのはこれからです。投げられた人間は死にません。ピンピンしています！」

「大爆発を起こしてるのにか」

「その大爆発に耐えうるほどの強化が施されるのです！ゴリラ魔法によって！！」

魔王は呻く。

もはやゴリラ魔法という聞きなれない言葉に突っ込む心の余裕もなかった。

「それで終わりではありません。

一度投げられた人間はしばらく強化が続きますので、

その勢いのままこちらの陣で大暴れをします！」

「たかが人間の1人や2人投げ込まれたところで」

「お忘れですか？その人間は、大爆発に耐えるほど強固な肉体を持っているんですよ！」

「ううむ…」

「ゴリラ魔法によって！」

「それは付け足さなくてよい」

「我々はこの恐ろしい魔法を「獣ヶ原（ぶん投げるタイプの友情）」と名付けました！」

「誰だ名付けたのは、ルビまで振って」

「ゴリラの方も、なんとでも好きに呼べ、と」

「喋れるのか」

「そういう眼差しをしたもので」

「どういう眼差しだ」

「かくなる上は、魔王様」

「うむ、攻略の糸口は人間にある」

「というと…」

「投げる人間がいなければ恐るるに足りん。スパイを使いゴリラの悪い噂を流すのだ！」

「悪い噂」

「うむ、ゴリラに不信感が芽生えれば、そうそう体を預ける気にはなるまい」

「さすがにございます」

「…なにか言いたそうだな」

「いえ」

「毒殺よりも更にセコい手を使ってとか、そんなことを思っているのであろう」

「そんなそんな」

「魔王なんだから直接行って倒してくればいいと思ってるのであろう！」

「それは結構前から思ってました」

「仕方ないだろう！魔王は魔王城から動いてはいけないのだ！そういう決まりであるから！」

「そんな決まり守ってるの、ヒューポクライテ様くらいですよ！他の魔王様はもっと自由ですもん」

「よそはよそ、うちはうちだ！ルールを破ることは許さん！」

「生真面目でいらっしゃる」

「とにかくスパイの件、頼んだぞ」

「御意に」

さらにしばらくして

「どうだ」

「ゴリラですね」

「ゴリラだ」

「こちらから人間に化けれる魔族を何人か用意して潜り込ませましたが、ぜんっぜん駄目でした」

「なんと」

「とにかくゴリラのカリスマ性が半端ないそうで」

「カリスマ性」

「揺るぎない結束で結ばれているようでございます」

「厄介な」

「ゴリラながらあっぱれにございますね」

「数はどれくらいいるんだ、ゴリラ軍の」

「58人ですね」

「それだけか」

「少人数ながらも、ゴリラ魔法が効いているようでございます」

「投げるやつだな」

「獣ヶ原（ぶん投げるタイプの友情）です」

「それだ」

「それだけでなく、ゴリラの奴め新技を編み出したようで」

「この上更にか！」

「奴がドラミングをすると、その音を聞くだけで仲間がパワーアップする。

そのような魔法でございます」

「投げずともか、厄介な」

「現在魔王軍の中でも協議し募っているところでございます」

「むう、技への策か…」

「いえ、技名でございます」

「技名」

「はい、また我々でイカす名前をつけようと」

「殺すぞ貴様」

「私に言われてましても。

とにかくすごい人気でございまして」

「何が」

「ゴリラが」

「ゴリラがか？！」

「カリスマ性がすごいんです」

「ゴリラのか？！」

「表情も渋くてダンディーだと」

「ゴリラの話か？！」

「我が軍の中でも結構ファンがいまして」

「ゴリラだぞ？！」

「ワイルドでドキドキすると」

「ゴリラだからな？！」

「ヒューポクライテ様は真面目だけどつまらない」

「ドサクサに紛れて何いっておる！！」

「更に、言いにくいんですが」

「それ以上言いにくいことがあるのか？！」

「送り込んだスパイ、みんなゴリラ側に寝返っちゃって」

「おいマジか」

一か月後、人でもない魔族でもない、新勢力「ゴリラ勢」は一大センセーションを巻き起こす。

膨れ上がったゴリラ軍は一気にヒューポクライテ城に攻め込んだ。

ヒューポクライテも結構がんばったが、圧倒的物量の前には無力。とうとう敗れてしまったのだ。

調子にのったゴリラ軍はさらに他の魔王を攻め込もうと色めき立ったが、突然ゴリラが行方不明となり、

魔王「口うるさきチャチュガバチョ」の前に、しつこい説教の後皆殺しに

遭ってしまった。

了