👣🏫 VS 👕👹 5/5

🏫

マンションのベランダから見下ろす姿に見覚えがあったので、俺は声をかける。


「足の裏」


昨日のことがあるんで、気恥ずかしくて何を話せばいいのかわからない。

でもやっぱり挨拶は必要だよね。


ふと、足元の黄金の街道を見ると、どれも彼女を大きく避けてる。

まるであいつが危険物であるかのように。

やおらあいつが重力に身を任せ俺の方へ飛び降りてきたもんで、危ないなおいお前の足の裏って凶器なんだぜ。

慌てて身をかわす瞬間に、黄金の街道から標識が生える。


「W A R N I N G」


…おいおいおい、君、敵になっちゃったの!?


俺は慌てて黄金の街道の行方を確かめ、どれを選ぶか考えたんだ。

この道、ただ辿ってれば安全ってんじゃないんよ。ハズレの道もある。

間違うと、多分死ぬ。万能な力じゃないってわけ。


そいで同時に考えたわけよ、これはどういうことだろうってね。

まあ仲良しではないものの、一応黒服からは「仲間」って教えられていたもんで。

攻撃してくるってちょっと変じゃない?可能性として3つくらい思い浮かぶ。


1.足の裏は敵側に寝返った

ノー。敗北条件が死である以上、寝返りは考えづらいかな?


2.敵が足の裏に変装している

これもノー。足の裏の足の裏は、そうそう簡単に真似できるもんじゃない。

間違いなく、これは足の裏自身の足の裏だ。


3.足の裏は敗北、あるいは殺害されており、敵に操られている

イエス。この可能性が1番高そうだ


今までの「通学路の邪魔者」の中にも、自分は姿を見せず、人を操って危害を加える奴は何人かいたもんで。この仮説は実にしっくりきたね。


でもまあ、馬鹿正直に足の裏とやりあうこともないか。

黄金の街道も相手にするなと言わんばかりにやり過ごして進む道がほとんどだから。


もう無視しよーっと。


そんな俺の思惑をよそに奴はガンガン踏んでくるんだけど、これがまあ完全に素人の動きなもんで、道に沿ってひょいひょい避ける。

威力はヤバいけど当たらなきゃ意味ないね。このまま学校に行っちゃおう。


👕

最初の不意打ちが失敗して、僕は舌打ちをする。

まるで、足の裏から攻撃を受けるのを予測してたみたいな避け方だった。こいつらは仲間同士じゃなかったのか?


更に踏み付けを繰り返すけど、ひょいひょい軽くかわされて、さっさと前へ進んでしまう。


まずい。


今日中に決着をつけないと、僕はこの全身を襲う悪寒に殺されてしまうだろう。なんとしても彼を逃がすわけにはいかなかった。


で、あれば。

彼に動機を与えなければいけない。

戦う理由がなければ、彼は当然登校を優先する。

僕は皆勤賞に呼び掛ける。

足の裏の声で、呼び掛ける。


「おい!おい!

いいのかい、そのまま行ってしまって。

僕は離れたところから、こいつを操っている。

大事な相棒がどうなってもいいのかな!」


どうだ!?

さながら奇術師の如く、他人を操る“ てい ”だ。

奇をてらい過ぎているかもしれないが、腹の中から神が吐き出されるような戦いだ。騙されてくれることを願うしかない。


頼む、これで止まってくれ…!僕は神に祈った。

そして気づく。


神はさっき踏み潰されちまったんだ。


🏫

ああ、やっぱり操りか。


それにしても絵に描いたような悪役のセリフだね。

救うも何も、仲間のつもりもないんだけど、こっちはさ。

それに、


多分足の裏はもう死んでいる。


だって相手は殺人鬼なんだから。

殺人鬼が殺人できる状態で殺人しないんであればそれはもう殺人鬼でなくない?好き嫌いにかかわらずさ。


まあ種明かしすると、足の裏の胸元、べっとりと血濡れになってるんだよね。

心臓とかを貫かれたようにしか見えない。心臓刺されたら死ぬでしょ、人間だもの。


でもまあまあまあ、それは仕方ない。

ズンズンズンズン踏み鳴らす音が聞こえたってこたあ足の裏から喧嘩を売ったんだろう。

死ぬ方が悪いとまでは言わんけど、あいつの自業自得ってもんだ。


だからさあ、そのままスルーする気満々だったんだけど、見ちゃったんだよね。

奴が作った足形を。

それが、全然きれいじゃないの。オリジナルとは比べ物にならない。


そんで、昨日の温泉のことを思い出したんよ。

のぼせて熱っぽくなってドキドキして、風景の一つ一つが印象的に残ってる。

人生でもっとも美しい景色だった。


それがね、うまく言えないんだけど、汚されている感じがしたのよ。

大切なものを凌辱されているような、まるで失恋した時のような、ひどく切ない気持ちになったんだ。


これからあの偽物は、紛い物の足型を残し続けるのかなあ。

あの美しい足の裏が変態殺人鬼にいいようにされるんだなあ。


そんなこと、許されないよね。


だもんで、俺は足を止めて振り返り足の裏を、足の裏だったものを、見据える。


この死体をぐちゃぐちゃにしよう。

もう操ることが出来ないように、筋肉の筋から骨の1つ1つまで、丁寧に破壊し尽くそう。

死体を殴るなんて罰当たりだね、でももっと罰当たりな奴がどっか安全な所からこっちを見てるんだろう。

殺し合いに善も悪もないけれど、俺はどこかにいる誰かに向かって言ってやった。

幸い、ちょっとひと暴れしても、始業時間には間に合いそうだしね。


「お前さあ、邪悪だぜ」


ばらばらに伸びていた「黄金の街道」が一つに収束した。

もちろん目的地は世界最強の足の裏だ。


「W A R N I N G」


こいつを壊すまで学校には行けないね。


👕

皆勤賞が構えたため、僕は心中でガッツポーズをする。

だけど、問題はここからだ。。

今度は彼に勝たなくてはいけない。


足の裏は言うに及ばず、おひげちゃんにしても、そしてこの僕でさえ、闘う力を持っている。

彼にも何らかの奇妙な力が備わっているはずなのだ。

考えながらも、僕はガンガンと踏みつける。足の裏の肉の思念が、木霊みたいに僕の頭に流れ込んでくる。


もっともっと、踏んであげないと。私にはそれしか、して上げられることはないのだから。

あまりに強い思念に、僕の理性が持っていかれそうになるのを必死に堪える。


集中しろ!この世界最強の足の裏が一発でも当たれば、それで皆勤賞の肉も弾け飛ぶはずだ。


しかし焦れる気持ちとは裏腹に、どう踏み込んでも紙一重でかわされる。 

まるであらかじめ、こちらの行動がわかってるかのような、迷いのない動き。

これが皆勤賞の能力なのか!?

僕は既に、足の裏を当てることを完全に諦めていた。

闇雲に足の裏を振り回しながら、機を待つ。


ただただ皆勤賞は走り続ける。最初はハイになって見える幻覚かと思った。そして、徐々に気のせいでないことを確信する。

皆勤賞の体が黄金に輝き出し、どんどん加速していっている。


ただの一撃。

僕は一撃を当てればいい。

世界最強の足の裏は、もはや目くらましの囮だった。


片腕に巻き付けた、血を含んで重くなっている、おひげちゃんの着物の帯。

両手にはめている、殺人鬼の掌の肉。

この一撃必殺。「肉を切る能力」こそが、僕の本命だ…!


彼も仲間の体を傷つけるのは、本意ではないはず。

こちらを無力化する一撃を放ち、勝ちを確信した時。

「操縦者」の僕を​探そうと背を向けたときに、勝負をつける。


足の裏の心臓を貫いた時のように。


果たして、とうとう皆勤賞がこちらに狙いを定め、黄金に輝く拳を顔面に放つ。


来た!!


そしてその拳がヒットした瞬間、足の裏の顔面は四方にはじけ飛んだ。


「!?」


想定の遥か上を行く威力に、僕は驚愕する。

彼は人質を救いたいんじゃないのか!?


僕が己の読み違いに気づいたころには、もう遅かった。

彼の目的は、足の裏の救出ではない。

その破壊こそが、目的だったんだ。


すぐに追撃の2撃目がやってくる。片腕が吹き飛ぶ。

3撃目、腹に風穴が開き。

4撃目、体が上下で真っ二つになる。


🏫

そのままボコボコに黄金の拳を叩きつけるよ。

もうここまで加速して輝いてたら、紙みたいにちぎっては投げちぎっては投げ、やりたい放題。

俺は足の裏がミンチになるまで、存分に攻撃を続けたわけよ。


そいで、これでもういいかな?って思ってふと気づくと、足元にいつのまにか、ズタボロになった一人の男が転がってた。


あ、こいつ“殺人嫌いの殺人鬼”じゃん。


そいつは俺の攻撃に巻き込まれたのかな、全身から血を流して四肢はバラバラ。

残った方の片腕でボロボロになった布切れをビシャビシャと振り回してる。

錯乱してるんだろうね。

このまま何もしなければ、出血で死んじゃうんじゃないかな。苦しいだろうな。


こいつが操ってたのかな?それとも全然関係ないのかな?ど

もちろん俺は助けてなんかやんないけど、とどめも刺さない。

どうして俺がそんなことをしなくちゃならないんだ?

俺はにっこり笑って、殺人鬼に話しかけた。


「やあ、初めまして!今日はちょっと寒いけど、絶好の温泉日和だよな」


時間がギリギリなんで、それだけ言って俺は登校を続ける。

今夜も温泉に入れるのかなあ、なんて考えながらね。


👕

朦朧とした意識の中で、去り行く皆勤賞の背中に帯をふるい続ける。

やがてそれも無駄だと悟ると、僕は力なく横たわった。


激しい悪寒はやまない。

気づくと、恋人たちが僕の傍らに立っている。

ああ、僕を迎えに来てくれたのか。行こう、一緒に。


すると美しい恋人たちの顔が腐り落ち、恐ろしい髑髏に変貌する。

彼女らは僕の肉にくらいつき、暗く開いた眼窩から腐臭のする血の涙を流す。

痛い痛い、止めてくれ!どうしてそんなひどいことをするんだ。

あんなに愛し合ったじゃないか!?

彼女たちは僕の肉を引っ張りあい、醜く取り合った。


ああ、やっぱり僕の予感は当たるんだ。

僕は結局幸せになれなかった。

そして、おひげちゃんのことを思う。


最後にもう一度だけ、おひげちゃんに会いたかった。

そしてお礼を言いたかった。


でも僕は会えないだろう。

おひげちゃんは天国へ行くんだ。

そして僕の行き先は、どうやら違う場所みたいだから。


寒いなあ、とっても寒い。

助けて上げられなくてごめん。愛してるよ、おひげちゃん。


勝者 👣🏫

敗者 👕👹


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