👣🏫 VS 👕👹 4/5🔥🔥🔥

🔥

「!!!!!????ッッッッッがあああああああ!!!???」


突如として頭頂部を襲う、謎の衝撃、激しい痛みと訳の分からない快感。

イチネン様は慌てて自らの頭を両手で押さえる。

しかし、無慈悲にも衝撃は続く。

今度は覆った手ごと。


ズシイイイイイイイイイイイイン


地響きと共に。


イチネン様は激しく混乱していた。


薄汚い山姥を懲らしめてやろうとしたのに、逆に飲み込まれてしまい、窮屈な胃の腑の中で復讐の機会をずっと狙っていた。

それがやっと外に出られたと思ったら、その瞬間足蹴にされ、今は踏みつけられている。

たかが人間の小娘に、である。


痛みよりも謎の快感よりも、神としての矜持を傷つけられた怒りに、気が狂いそうだった。


(そうだ、これも全てあの山姥の娘のせいだ!!!)


凝縮された激しく燃え上がる怒りの炎は、全て山姥の娘に向けられる。

無礼にも体を這い上ってくる娘を手でたたき落とし、渾身の力を込めた拳で殴りつける。


「お前のせいだ!!!!!!」


頭の上で衝撃が続く。


「たかが山姥の分際で!!!!!!」


激しい痛みと衝撃を受けつつも。


「愚かな村人共を誑かしおって!!!!!!」


拳をふるい続ける。


「誰からも愛されず、利用されるだけの、哀れな山姥が!!!!!!」


繰り返される足の裏の猛撃に、体がどんどん縮んでいく。

もはやその巨躯はクマほどにも縮んでおり、文字通り風前の灯に見えた。


そして、横で腰を抜かしていた爺いが、何か叫びながら己に水をかけてくるのに気づいた。

イチネン様の表情は悲しみに歪んだ。


「…もう、わしを敬うものは、おらんのか…?」


信仰するものがいなければ、神はその身を保つことができない。

イチネン様は「消火」され、跡形もなく消え失せた。


👣

そして、その登頂にいたフィーは重力に任せ、娘の上に着地をする。


鳴り響く地響き。

既に神の拳を受けボロボロとなっていた娘の体は、バラバラにはじけ飛ぶ。


有無を言わさぬ絶命であった。


「ふう」


久々の骨のある踏み心地に、満足のため息をつくフィーである。

彼女にとっては理解の外の連続であったが、何にしてもこれで―――


その時、老人の手から飛んできた水が、フィーの心臓を貫いた。


👕

僕は屈みこみ、しっかりと足の裏を殺したことを確認する。

心臓を一突き。あれほど猛威を振るったバケモノの最期は、驚くほど呆気なかった。


そして、足元を見る。


ミンチとなったおひげちゃんの亡骸が、横たわっている。

その中の生首を拾い上げ僕は話しかける。


「山姥の傷は、すぐに治るんだろ…?」


おひげちゃんは答えてくれない。


「そうだ、温泉に入ろう。一緒に温泉に入ったら、こんなケガすぐに」

「びいびい!!」


きつねの端末が、大きな声を出した。


「……もう死んでるだよ」


わかりきった、ことを言う。

僕は全身を震わせ、声を上げ泣いた。


こんなに壊れてしまっては、もう着ることもできない。

もう、この子の肉の温もりを感じることもできない。

一緒に温泉に入ることも、笑ったり、ご飯を食べることもできない。


産まれて初めて、こんな僕を受け入れてくれた、優しい女の子。


おひげちゃん。


誰からも愛されない、だって?

こんなにかわいいあの子を、誰が愛さないというんだ。

少なくとも、僕はおひげちゃんを愛していた。世界中の誰よりも。


手に嵌めていた「殺人鬼の手」をはずし、そして醜い老人の体を脱ぎ捨てた。

僕は最初から、肉を着込んで頭のおかしいじいさんを操り、奇襲する機会を伺っていたのだ。


昨日、2つの実験をした。


肉は全身を着なくとも、部位のみで能力は使用できるのか。

僕はぐちゃぐちゃになった殺人鬼の死体から、手だけを取り外し、手袋のように嵌めてみた。

「どんな道具でも人の肉を切る能力」は、問題なく発動した。成功だ。


そして僕は、昨日水をぶっかけてきた老人のことを思い出す。

彼が使っていた放水機。

もしかして、それも道具として認識すれば、「水」で人の肉を切ることができるのではないか。

温泉についていた蛇口での実験であったが、こちらも成功した。


たとえば武器での攻撃であれば、足の裏は簡単に回避するだろう。

しかし、もしただの「水」であれば、足の裏は同じように警戒するだろうか?

僕がそう伝えたとき、おひげちゃんは目を輝かせて言った。


「はえーーー!なにかわからんけどすごいだ!!」

「おひげちゃん、なにかわからないと困るんだけど」

「とにかくおらは、足の裏を止めたらいいだな?」

「水に当たらないように気を付けてね?」

「大丈夫だあ。おら濡れても気にしないだ」

「切れるっていってるよね!?」


もうおひげちゃんは、動かない。


「びいびい、急ぐだ!皆勤賞が学校に着いちゃうだ!!おひげの仇を打つだよ!!!」


きつねの端末の上げる声が、何だかとても遠くに感じる。

こいつは何を言ってるんだ?


「黙れよ」


僕は、きつねの体を乱暴に掴む。

このまま絞め殺してやろうか。


「なぜ僕がそんなことをしなくちゃいけないんだ?

お前らのせいだ。

お前らのせいで、おひげちゃんは死んだんだ。

こんな、わけのわからない戦いに巻き込んで。

お前はおひげちゃんが死んでも、何も感じないってのか?」

「悲しいだよ…!く、苦しいだ…」

「悲しい?どの口が言うんだ。

なんにせよ、足の裏はいなくなったんだ。

これ以上訳の分からない殺し合いなんて、する理由はない。

仇だって?

皆勤賞を殺したら、おひげちゃんが戻ってくるとでもいうのかよ」


僕がそういうと、苦しそうにきつねが声を絞り出した。


「戻ってくるだ…!」


は?


「戻ってくるだよ…。戦いに勝利したら、負った損傷は修復されるだ…。

もちろん死んでいても問題ないだ。

勝ちさえすれば、おひげは生き返るだよ…!」

「生き返る、だって?嘘じゃないだろうな」


死人を生き返らせるなんてことが、可能なのだろうか?


「嘘じゃないだよ!でも、勝たなきゃなんねえだ!

おらもおひげが大好きだ…、だからびいびいには勝ってほしいだ!

後生だ…、おひげを助けてくんろぉ…!」


悲痛な声を上げるきつね。とても嘘をついているようには見えない。

どちらにせよ、僕に選択肢などなかった。

たとえ信じられないような言葉でも、1パーセントでも可能性があるなら、信じないわけにはいかなかった。

しかしその時


「!?」


突如襲われた悪寒に、僕は思わず膝を落とす。

なんだこれは、寝起きでもないのに!?

おひげちゃんを失った喪失感からか?悪寒はかつてないほどに強いものだ。


カンカンカンカン、不協和音が鳴り響く。

こちらに向かってくる鉄道に、身を投げ出したい衝動を、必死に抑える。


「…びいびい、どうしただか…?」


肉を着なければ…!

僕はきつねの言葉を無視し、地面を這いずりながら「世界最強の足の裏」の死体に近づき、そしてそれを着る。

ダメだ!悪寒は止まらない…!

足の裏の肉は非常に冷たく、よそよそしいものだったのだ。


おひげちゃんの肉が着たい…!僕は強く願った。

彼女の肉でないと、この悪寒は取り払えないような気がした。

他のどんな魅力的な肉でも、かつての恋人達でも、真に僕を理解してくれはしない。

本当の僕を受け入れてくれるのは、おひげちゃんだけなのだ。

僕は、少しでも温もりを得ようと、おひげちゃんの生首をかぶる。


瞬間―――、おひげちゃんの僅かな記憶が流れ込んできた。

皆勤賞の臭いの記憶、そして鋭敏な嗅覚を手に入れる。

わかる…!

皆勤賞の場所が、今の僕にはわかる。


早く、彼を殺さなければ。


相手がどんな実力者であっても、この「世界最強の足の裏」を持ってすれば、きっと勝つことが出来る。

僕は、自らを勇気づけるために、おひげちゃんの残骸から帯を探し出して、腕にくくりつける。


そして朦朧とした意識の中で、もはや勝利を収めるまでこの悪寒は止まらない予感がしていた。

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