👣🏫 VS 👕👹 3/5🔥

👣

フィーは頭蓋骨に問う。


「高度のルールですが、今は何人が把握していますか?」


頭蓋骨は「3名」と答えた。


(なるほど、もうバレてるということですか)


落下時に目立つから、高度を変えるのはやめた方がいいだろう。

とはいえ、フィーはあまり心配もしていなかった。


もちろん、現時点で不安要素もある。

昨日踏み殺した謎の男。あれが「殺人嫌いの殺人鬼」なのか?

顔こそ分からないものの、頭蓋骨から口頭で事前にデータは確認済みである。

まず身長からしてまるで違うし、服装や身なり等もかけ離れたものだった。


とはいえ、明らかに殺意を剥きだしにしてきたあの男は、参加者であるとしか考えられない。


フィーにとってBBの使う不思議な能力は、完全に想像の外のものであった。

故に混乱は解けない。

敵は、まだ「二人」なのか。それとも、「一人」なのか。


だがどちらにせよ、勝ち戦に変わりはない。

彼女にとって敵とは、多数であり軍勢であり、そして蹴散らすものであった。

一人だろうと二人だろうと、それは些細な問題なのである。


彼女はまだ知らない。手負いの獣の恐ろしさを。


そして2日目の朝がやってくる。


👕

鳴り響くはずの轟音がいつまでたっても聞こえてこず、僕は焦った。

想定外だ。


昨日戦いを振り返って思い当たったルール。


「出現場所の高度は設定可」


これは手帳にも確認済みだ。


恐らく足の裏は出現場所を遥か上空に設定することで、僕らのおおよその場所を確認していた可能性が高い。

なので今回も、空から落ちてくるものと踏んでいた。着地時に発生する轟音。

それをもってして、足の裏の位置を確認する手はずだったのだ。


これではおひげちゃんは、足の裏の場所を特定することができない!


…といっても、僕に今できることはなにもない。

手はず通りに“約束の位置”で息を潜め、出番を待つことしか出来ない。

なんとかおひげちゃんが足の裏を見つけてここへ誘導してくれることを、祈るしかない状況…。

背中をたらりと冷や汗が垂れる。


昨日ぐちゃぐちゃに肉が損壊してしまったため、もうあの殺人鬼の格好は出来ない。

僕の素顔は恐らく相手ばれているはずだから、万に一つも足の裏との遭遇するわけにはいかない。

注意深く身を隠しながら進み、僕は約束の場所へ向かう。


不安要素ばかりの作戦だけど、今の僕たちがあの化け物を倒すには、それぐらいしか方法がないのだ。


👹

「おかしいだねえ…」


娘は首を傾げる。

昨日のびいびいの話では、足の裏は高いところから降ってくるから、その音でわかるはずだったのだけど…。

だが、音に頼らずとも、娘は位置を特定する力を持っている。


「昨日よりだいぶ臭いは薄くなっとるが、あの血の臭いは忘れないだあ」


血と戦場の臭い。山姥の嗅覚はひとの何千倍もあり、それで位置を特定することが出来る。


「とにかく足の裏を見つけて、約束の場所まで連れて行くだ」


足の裏の臭いに向かって、全速力で駆け出す。



👣

フィーはふと思いつき頭蓋骨に尋ねる。


「相手の生き残りの人数はわかりますか?」

「情報がない」


予想通りの答えである。

ま、いっか。

フィーは独り言ちた。


どちらにせよ、とりあえずのターゲットは“やまんばちゃん”。

恐ろしい身体能力こそあれ、動きは直線的で、手玉に取れるやりやすい相手だった。

2,3回ほど踏みつけたら、動かなくなりそうだ。

フィーはため息をつく。


「なんだかとっても簡単そう」


彼女は今、街の一番高い建物から、地上を見下ろしている。そして


「みーつけた」


戦場で鍛えた彼女の視力は、もはや常人離れしたものとなっている。

敵味方を問わず、眼前にある全ての人間の「頭」を「道」として把握せねばならなかった彼女にとって、たった一人を見つけ出すことなど造作もないことだった。


こちらに向かってまっすぐ駆けてくる娘。

行きかう車を吹っ飛ばし建物を飛び越えながら進むので、非常に目立っていた。


しかし、ふと彼女は違和感を覚える。

動きが直線すぎるのだ。


「向こうもこちらの位置に気づいている…?」

どうしてだろう、フィーは首を傾げる。ま、いっか。


タネはわからないけど、どの道一対一で手こずる相手でもないし。

娘が足の裏の射程範囲内に入ったので、フィーは建物から飛び上がり、重力に身を任せた。


👹

頭上からの風切り音。娘はこの音を知っている。

足の裏だ!!

あらかじめ位置を把握しているため、危なげなくかわす。


殺意のこもった足形をアスファルトに焼き付けて降り立ったのは、世界最強の足の裏。


娘は近くにあった車を足の裏に投げつけると、踵を返し一目散に引き返す。


(早くびいびいのところに連れてくだ!)


昨日は追いかける立場だったが、今日は逃げる立場である。

娘はフィーを巻いてしまわないように、意識してスピードを落としながら進む。

全速力の山姥の動きでは、ただの人間がついてこれるわけもない。


👣

飛んできた車を足の裏で受け流したフィーは、怪訝な顔をした。

向かってきたはずの彼女が一目散に逃げだしたからだ。

それも、ずいぶんスピードを控えているように見える。

まるで誘うような。というか、バレバレである。


「どう考えても罠…」


されどとて、罠にはめられるのは彼女にとって珍しいことではなかった。

むしろ狡猾な罠であるほど、それを踏み砕いた時の快感は強い。

蒸気地雷、集団での待ち伏せ、串刺しの落とし穴。

彼女はそれらを全て、足の裏一つで乗り切ってきた。


「ま、いっか」


強すぎるが故の警戒のなさ。

しかしその躊躇のなさこそが、彼女の有無を言わさぬ強さにも繋がっている。

むしろフィーはスピードを速め、娘に一撃を刻むため強く地面を踏み込んだ。


「!?」


瞬間、別方向からの殺気を感じ、急遽バックステップ。その場を離脱をする。

水しぶきがフィーの頬を濡らした。


やはり生き残りがいたか!?

慌ててそちらを見やると


「ぉ俺の家の前を、通るんでねぇぇぇぇ!!!!!」


水撒きのホースを掲げた老人が、フィーに向かって叫んだ。


水じじいである。


敵!?しかしまたしても、「殺人鬼」とは違った容姿!

そもそも敵であったなら、不意打ちに放水を使うだろうか?

無関係の民間人から水をかけられただけ?

これは警戒に値するのか!?


突如起こった乱入に、フィーの頭は激しく回転し現状を把握しようとする。

そして僅かに生まれる隙。

それをつき、娘からの奇襲が放たれる!


フィーは、前方から迫る高速の物体に気づき、反射的に足の裏で受け止める。

どのような攻撃であっても、この足の裏で受けきれなかったものはない。

その物体も、問題なく補足に成功した。補足には成功したが…


「…おらを足の裏で受けるたあ、どういうことじゃあ…!」


熱い。謎の物体はひどく熱く、そして、人の言葉を喋っている。

フィーは攻撃の正体を探ろうと、凝視する。


「こっの…、罰当たりものめがああああアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


絶叫と共に、物体はムクムクっと大きくなり、燃え上がる巨大な人型となる。


フィーは知る由もないがこの物体こそ、かつて一飲みにされ、娘の胃の腑に封じ込められた村の守り神。

イチネン様に他ならなかった!


「な、なんじゃこりゃあ…!」

その巨大さには水じじいも腰を抜かす。


娘は叫んだ。

「びいびい、今だあ!!!!」


👹

自らの胃の腑に収めていたイチネンさまを吐き出して、心持ちすっきりする娘であった。

いい具合に、イチネン様と足の裏が、闘う方向に進んでいる。


娘としても、このことはあらかじめBBには話しておきたかった。

しかし、腹の中のイチネン様にも話を聞かれてしまっては、失敗となる可能性も高い。

ぶっつけ本番とはなってしまったが、思いのほかうまくいき、安心する。


しかし、安心してばかりもいられない。

村人たちの加勢こそあれ、一度は娘に敗れたイチネン様である。

このまま足の裏と闘っても、勝てる見込みも薄い。

そしてどちらが生き残るにせよ、その後はこちらを狙ってくることは明白であった。


だからこその、びいびいの一撃である。

びいびいが事前に指定した約束の場所。それは2人の共通認識である、水をかけてくる奇妙な老人の家だった。

ここに足の裏を誘い出せば、びいびいが一撃で何とかしてくれる。何とかしてくれる、はずなのだが─


なんと、足の裏が高熱を発し燃え上がるイチネン様の巨体を、ひょいひょいと「歩いて」登り始めたのだ。


「あ、熱くないだか!?」


山姥である自分であっても、ひどい火傷を負わされたイチネン様の灼熱の肉体である。

それを平然と踏み締める足の裏は、まさに「世界最強」。

彼女にとってはたとえそれが神の体であっても、ただの道としか映らない。


「ちょこまかと…!」


イチネン様は払い落とそうと身をよじるが、まるで重力を感じさせない器用な

ステップを踏みながら、あっという間にもう肩口まで登ってしまっている。


ぽかんと呆気にとられる娘であったが、我に返り慌てる。

これでは、位置が高すぎてびいびいの一撃が届かないではないか!


「まずいだあ、なんとかしないと…!」


とはいえ、以前の戦いのように巨大化をするわけにもいかなかった。

体を大きくするということは、足の裏からすると「的」が大きくなるということ。今のイチネン様の様に、一方的に蹂躙されることは目に見えている。

これが、娘が昨日の戦いで巨大化しなかった理由でもある。


等身大のままの姿で、足の裏を地面に叩き落とすしかない。


娘は髭を逆立て、神の灼熱の体表に飛び付く。体が熱い、手足が焦げる臭いがする。しかしここで止めるわけにはいかない。


「おらがやるだ!!」


自らを鼓舞する様に絶叫し、爪を突き立て灼熱の体表を駆け上がる。

一方足の裏は、もう頭頂部まで登り切っていた。


「人間がああああ!!!神の頭を踏みつけるかあああああ!!!!」


激昂し、より激しく燃え上がるイチネン様の言葉を受けて、足の裏は妖しく笑う。


(なんて、踏み心地のありそうな体でしょう…)


そして少し飛び上がり、渾身の力を込めて神の天辺に足の裏を刻み付ける。

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