👣🏫 VS 👕👹 2/5
🏫
8時3分、無事登校完了!
今日は誰にも邪魔されなかったから、俺は気持ちよく席につく。
やっぱり平和が1番だね。
👣
急にどこかに移動させられたようだ。
フィーは辺りを注意深く見まわし、そこが昨日から過ごしていた座敷であることを確認する。
どこかに置いてきた筈の頭蓋骨が、足元から話しかけてくる。
「再開は明日の7時です」
それまでゆっくり休もう。
フィーは膝を抱えて胎児のように寝転がり、静かに目を閉じた。
👕
心臓がバクバクと鳴っている。
僕は冷や汗を流しながらため息をついた。
どうやら二人とも、まだ死んでいないようだった。
おひげちゃんが僕にすがりつき泣いている。
「びいびいのお顔が、潰れちゃっただよーーーーーッ!!!」
「…心配かけてごめんよ、僕は大丈夫だ」
僕はおひげちゃんの頭を撫でると、ずるりと殺人鬼の肉を脱ぎ捨てた。
おひげちゃんは飛び上がる。
「びいびい!生きてただが!?」
「それどころかケガひとつないんだな」
僕は立ち上がり、屈伸をしたり飛び跳ねたりして”元気”アピールをする。
今度はうれし泣きで騒いでいる彼女を見て、なんというか、ホッとする。
戻ってきたんだ。
「おひげちゃんは?体大丈夫?」
僕が問いかけにおひげちゃんは激しく首を振って答える。
激しすぎて縦だか横だか分かんないけど、なんか平気そうだった。
僕の肉を着る能力は、見かけ通りに服のようにぴったり着るわけではない。
子供の肉どころか、ウサギやネズミの肉でさえ、着ることが出来る。
仕組みはよくわからないが、肉の中の僕はある程度体の融通を利かすことが出来るのだ。
それを説明すると「はえー、便利な能力だやなあ~~~」
とおひげちゃんは素直に感心してくれた。
でも本当のところを言うと、さっきはかなり危なかった。
体の中心、ちょうど胸のあたりに縮こまっていたから、実際あのタイミングでの中断は間一髪だったのだ。
「あれはつまり、“皆勤賞”が学校に着いたってこと?」
僕の疑問に、手帳は「はい」と答える。
「皆勤賞の特殊ルールです。
彼が登校の為にドアを開けた所から始まり、学校の門をくぐった所で強制的に終了します。
皆勤賞を除く、各自戦士の体は、強制的に京都に送還されます」
つくづく、皆勤賞に都合のいいルールだ。
ていうか殺し合いなんて明らかな非常事態なのに、呑気に登校している場合か?“皆勤賞”に対する執着がすごすぎないか?彼の人間像がどうにも想像つかない。
「そうだ、おひげちゃん。足の裏の他に、皆勤賞は見た?」
訊いてはみたものの、僕はさほど期待していたなかった。
あの化け物の足の裏一人でも苦戦していたのだ。
更に敵が増えるのであれば、それこそ今生きてはいないだろうから。
だけど、おひげちゃんから帰ってきた答えは意外なものだった。
「挨拶?皆勤賞が?」
「うん、ぶっ飛ばそうとしたら、挨拶されただ。いい天気だな
って…。で、そのまま行っちまっただ」
わけがわからない。
僕らにお構いなしで普通に登校したり、あまつさえ挨拶なんて、これではまるで…。
僕は、端末たちに確認する。
「もしかして皆勤賞は、僕らと殺し合うつもりがない…?」
「そんなのわかんないだよ」
「不明です」
予想通りの答えだ。だけどその後、狐の端末は言葉を付け足した。
「ただ、みんな望んで連れてこられたわけじゃないだ。
参加する気がない奴もいるかも知れねえだな…」
突然フラッシュバックの様に、黒服の言葉を思い出す。
何を。やっても。いい。
待て待て待て。僕は思考を整理する。
把握しているルールを組み立て、最善の回答を探し出す。
再び端末たちに、ゆっくりと確認した。
「闘いの終了条件は、どちらかのチームの”両方”の死。これは間違いないな?」
「はい」「んだ」
「で、皆勤賞が登校すると、中断して次の日に持ち越される」
「そうです」「んだんだ」
僕は一テンポ置いて、確信を問う。
「じゃあ、誰も死なず皆勤賞がいつも通り登校を続けた場合、どうなる?」
端末達が静かになり、少しあけて手帳が答えた。
「……何も、起こりません」
おひげちゃんだけが首を傾げている。
「どういうことだか?」
「つまりだね、おひげちゃん。制限時間もない、ペナルティもない。
僕らがこのまま永遠に闘わなければ、平和な日常が続くんだよ。殺し合いなんてする必要は最初からないのさ。
そもそも皆勤賞には、僕らと闘う意志なんてないんだから」
きつねの端末が慌てて口を挟む。
「だども!それは…!」
「なんだい、きつね君。そうだね、君も向こう側だもんな。僕らが殺しあわないと困るわけだ?」
僕が睨むと、きつねはしゅんとした様子で俯いた。
おひげちゃんが優しくきつねを抱きかかえ、言った。
「びいびい、それは無理だあ」
「そうだね、わかっている。これを成功させるには、あの足の裏を懐柔しなきゃ」「無理だよ!」
おひげちゃんは僕の言葉を途中で遮った。
「あの姉さんは殺すしかないだ。あの人、もう人じゃないだ。獣でもないだ。鬼の臭いがしただ」
今まで見たことのない表情。頬が切れてしまいそうな、鋭い視線。
それはおひげちゃんが僕に初めて見せた、山姥としての顔なのかもしれなかった。
「殺すしかないだ、びいびい」
僕は黙ってうなずく。そう、ことはそう簡単にはいかない。
👣
思ったより深く眠っていたみたいで、真っ赤な西日を浴びて目を覚ます。
疲れているのかもしれない、山姥などを踏むのは初めての経験だったから、はしゃぎ回ってしまった。
今朝はトドメを差しきれなくて、とてもかわいそうなことをした。
そして、言われたことを思い出す。
「すごく臭うだ」
そんなに臭うのかな。密かに傷つく乙女心だがそれは表情には浮かばない。物憂げにため息を吐いて、またゴロリと横になる。
👕
僕らは温泉に漬かりながら、疲れを癒す。
「それにしてもおひげちゃん、ホントにケガ、大丈夫なの?」
割と絶体絶命に見えたんだけど。
僕の問いかけに、お湯の中で飛び跳ねたり屈伸したり、さっきの僕のポーズを真似して返すおひげちゃん。
ちゃぷんちゃぷんとお湯がはねる。
僕の心配をよそに、おひげちゃんはピンピンとしている様に見えた。
「人間と違って山姥はすぐ傷治るだ。ちょっと痛いけど、もう平気だよ。温泉にも漬かってるし」
温泉って便利だ…。山姥ってすごい…。
とにかく深く突っ込まず、話を進めていくことにする。
「それで、おひげちゃん。闘ってみた感じどうだった?次やったら勝てそうかな、足の裏とは」
「無理だあ」
即答。
確かに、あれは大分一方的だった。
満身創痍のおひげちゃんに、全く無傷の足の裏。
「あの姉さん、ぴょんぴょん飛び跳ねて全然攻撃当たらないだ…。一発もだよ。」
「そんなに落ち込むことはないさ。一発でもおひげちゃんの攻撃が当たれば、もうそれで勝ちみたいなものだからね」
僕が不意打ちの体当たりをした時、足の裏は軽く吹っ飛んだ。
もし当たったのがおひげちゃんの攻撃だったら、勝負が決まっていただろう。
彼女は恐らく、防御力は常人並みだ。
「だから、まず一撃を入れる。というか、それに全てをかける。実は勝算はあるんだ」
僕が自らの作戦を話すと、おひげちゃんは「ほえ~」とか「はああ」とか言って聞いてくれた。
正直どこまで理解できているのか、ちょっと不安だった。
「それでおひげちゃんには、確実に僕の一撃が入るように、
足の裏の動きを止めといてもらいたいんだけど」
「まかせるだ!とっておきの技があるだ!!」
「とっておきの技があるの?」
「あるだよ」
「…そのとっておきの技とやらは、どうして今日は使わなかったの?」
「んー、出すのに時間がかかるから、使えなかっただよ…」
今ひとつ歯切れが悪い返答だ。
「明日はその時間はとやらは、どうやって稼ぐのかな」
「だからびいびいにちょっと止めといてほしいだ」
「僕が止めといてって頼んでるんだけど!?」
かなり不安だった。
「それで、おひげちゃんのとっておきって?」
端末によると、山姥は火や風を噴くことが出来たり、体を大きくしたりもできるらしい。
「…秘密だよ」
おひげちゃんは目をそらしながら言った。
「秘密!?どうして?」
この後に及んで何を言い出すのか。秘密にするメリットが全く見当たらない。
「秘密は秘密だあ。この話、あんまりしたくないだ」
おひげちゃんはひそひそと声を潜める。
指を口に当てシーッとジェスチャーするが、当然ながら周りは僕らしかいない。
「爪を剥がされても歯を抜かれても言わないだ」
何気に恐いことを言っているのを聞こえないフリをした。
「これでも言わないか!」
僕はおひげちゃんを、渾身の力でくすぐる。
「あはははははは!!!いわ、いわ、言わないだ!!!!」
なかなか口を割らないおひげちゃんに僕も力が入る。くすぐりには自信があるのだ。
そしておひげちゃんが白目を剥いて泡を噴き出した時点で、僕は諦めた。
やりすぎた。僕はなんてことを。
…やりすぎたけども、ここまでしても言わない理由ってなんだ?
僕にばれることで、うまくいかなくなる作戦?
あるいは…。
しばらく考えてみたが何も思い当たらないので、もうやめることにする。
おひげちゃんを信じよう。
「びいびい、おらがとっておきを使ったらなあ」
「うん」
「全部メチャクチャになるで、逃げた方がいいだよ」
メチャクチャ不安だった。
🏫
俺が登校すると、闘いは中断するんだと。
再開は次の日の朝ってんで、じゃあその間みんなはどこでなにしているか訊いてみたら「温泉宿にいます」なんて言うもんだから俺は焦った。
これはズルい。ズルいなあ。
何故かって、俺は三度の飯より温泉が大好きだからね。
他の3人は温泉であったまってるってのに俺だけ除け者はズルくない?俺はそう詰め寄ったのね。
すると端末が「では」ってんで、俺の部屋のドアをその座敷に繋げてくれたから、どこでもドアみたいでまたテンションが上がる。
俺がいざ温泉!と元気よく部屋に乗り込むと、部屋の隅で体操座りで座ってる足の裏がいた。
暗い女だよね。ていうか同室かよ。
そいで俺の顔をチラッと見たんだけど、ノーリアクションでまた顔を下げたんで、もう俺も挨拶もなしにズカズカと上がり込んだの。
奥にはそれなりの露天風呂があって、俺はほうと息を吐いて感動する。
足の裏の視線を感じたけど無視して服を脱ぎ出したんだ。
だってそうだろ、なんで俺が女に気を使って、コソコソ隠れながら脱がなくちゃならないんだ?
「お前も後で入った方がいいよ。足の裏、血生臭いから」
そう声を掛けてから、金玉も隠さずに風呂に乗り込んだんだ。もちろんちゃんとかけ湯はする。
空にはもう月が出ていて、この上なくいい気分の俺は鼻歌なんか歌ってる。
すると裸の足の裏が普通に入ってきて大いに慌てた。
そうか、外人だから温泉の文化を知らんのか。基本男女は一緒には入らない。
どう声を掛けようかとまごまごしていたら、足の裏は俺の真似なのか、さっさと掛け湯をする。
そんでざぶりと湯舟につかってきた。金玉も隠さない。(たぶん無い)
ドキドキする。
ジロジロ見てはいけないんだけど、でもつい横目で盗み見てしまう。
月明かりに照らされた、美しい彼女の足の裏を。
それは、今までに見たどんな情景より俺の心に焼き付いたんだ。
で、なんかえらい寂しげな音が聞こえると思ったら鼻歌歌ってんの。
これも俺の真似かねえ、寂しい曲だなあ。
体が熱く感じるのは温泉のせいだけじゃなさそうだった。
俺は「じゃ、お先な」って早口で言って上がったら、彼女が口を開いた。
「フィーです」
初めて声を聞いたからやや驚いたけど、フィーというのが何なのかもわからない。
でもこのまま素っ裸でお話しするのは勘弁なので
「おっそうか。ほんじゃな足の裏」
って言ったっきり、さっさと引き上げた。
なんだか顔見るのも気恥ずかしかったしね。
👣
皆勤賞が去った後、フィーは小さく呟いた。
「フィーだというのに…」
そして寂しげな鼻歌が続く。
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