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扉を開けるといつもの景色ではなく地平線まで続く水平式エスカレーターが続いていたんだけども、俺はこんなこと慣れっこなのでそのまま乗ったのね。


俺は登校中なぜか、100パーセント何かしらに邪魔される宿命を背負っているからね。もう何が起こっても驚かない自信はあったんだ。


扉を開けるとジャングルだったこともあるし、星間戦争の最前線だったこともある。

そんな中でもなんとか登校して今のところ皆勤賞なのは、ちょっと誇ってもいいんじゃないかなって思ってるよ。


そうは言っても動く歩道なんて滅多に使うことがないもんだから、ちょっとテンションは上がっちゃったね、ムーンウォークごっことか全力で逆走とか何かしら遊んでみたかったけどさすがにそれは我慢。今年からもう高校生だし今は登校中なんだから。


そいで俺は、いつも登校中にだけ見える光輝く道しるべ、「黄金の街道」を辿って動く歩道を進んでいった。

どこまで行っても学校どころか建物すらない、見渡す限り地平線まで動く歩道だけど構やしない。

この光る道を辿ってさえいれば、俺はいつだって学校に着くんだから。


で、ふと気づくと、俺と並んで二人組が歩いているのに気付いたんだ。

男と女。


前にも見たことある顔だった。


男は黒いスマートなスーツ、首元から首吊りに使うみたいな荒縄をぶら下げている。悪趣味なネクタイだね!

女も同じ服を着ていて「こんなの全然つまらないわ」みたいな表情をして、口をへの字に曲げている。あと身長がデカくてなかなか迫力がある。


男の方が挨拶もなしに俺にホイッて感じでものを投げ渡したんで、俺は反射的に受け取ってしまった。

で、手の中をみたらそれは普通のスマホなわけ。


「なんすかこれ」って俺は聞いた。


そしたら男はこう答えたんだ。


「登校中に、二人組が君を殺しにかかってくる。

君が相手を殺さない限りそれは終わらない」


俺はきょとんとしたよ。二人組?でもそれって別に、いつもと大して変わらなくない?


で、このスマホはなんなわけ?再度俺が尋ねたのね。

そしたら男は、それは“端末”だって答えたの。わからないことはそれに訊けってさ。


「殺しにかかって来るって」


俺は尋ねた。


「あんた達が?」


男はゆっくり首を振った。まあ確かにそんな感じじゃなさそう。

女の方はあくびをしていてまるで緊張感がないんだもの。


「相手と同じく君も二人組だ。今回は顔合わせだから、戦闘はない。

親交を深めてもいいし、気に入らなければ殴り合ってもいいぜ。

まあ、仲良くした方がいいとは思うけどな」


そういって男が視線をよそに向けると、かなり遠くから、1人の女がこっちを見てるのに気づいた。


西洋人で瞳の色は青い、キンパツのお姉さんだ。髪は肩口まで伸ばしていて、なんだかカッコいい毛先をしている。

テンション低めにジッとこちらを見ているそのお顔は、まあ美人だと思うんだけど、俺はめちゃくちゃ警戒したね。


なにしろこれだけ離れていてもわかるくらい、血の臭いを漂わせてたもんで。


白いボカっとしたワンピースなんだけど、スカートにめっちゃ血しぶきもついてるし。裸足だし。

極めつけには片手に頭蓋骨持ってるし。


「なんで骨?」って俺が思わずつぶやいた。

オカルトマニアの不思議ちゃんかな?

そしたら手元のスマホ、じゃなくて“端末”とやらが、機械音声でペラペラと教えてくれた。


「あれは、彼女の“端末”です。

端末は、その持ち主の文化や指向に合わせて、姿を変えます」


そいであの女はヤバい奴だって、ますます確信することになったのね。悲しいことだけどさ。

そしたら男が説明を続けたの。


「彼女は『世界最強の足の裏』だ」


突然わからん単語を喋ったんで、俺は聞き間違いかと思ったよ。


「お前の対戦相手は、『殺人嫌いの殺人鬼』と『やまんばちゃん』。それが俺が伝えるべき情報の全部だ。

あとは端末を使うなり足の裏と話すなり、自由にしてくれ。

コミュニケーションと環境適応能力も、実力の内だからな」


若い女を足の裏呼ばわりした男は、言いたいことだけ言って、女と共にスッと姿を消した。手品師みたいなやつだね。


俺は気を取り直して女に何か話しかけてみようかと歩み寄ったのよ。勇気を出してね。

(あ、ちなみにこの間もずーっと、俺は歩き続けてるよ?登場人物みんな歩き続けてるからね、今回。)

そしたら俺が近づいた分だけ、女は離れていくの。反発する磁石みたいにさ。もうバッチバチ警戒されてる。

だもんで、俺は内心ちょっと傷つきながらも諦めて、端末に訊いたの。


「あの女、なに?」


「彼女は、世界最強の足の裏です。彼女は軍人です。コードネームは、『戦場のグランドフィナーレ』です」


「なにそれ、本名は?」


「情報がありません」


「あしのうらって?」


「情報がありません」


「おっぱいのサイズは?」


「情報がありません」


「今日の1時間目の物理のテストの問題教えて」


「情報がありません」


なんの役にも立たないでやんの。


そいでまあここにいてもしゃあないってんで、俺は女を無視して黄金の街道を急いだんだ。


なんでって?


1時間目から苦手な物理テストだからさ、早めに行って見直ししときたいだろ。

ああ、もちろん遅刻はしなかったよ。






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