真夜中の殺戮者
赤城ハル
第1話
水を顔にかけられて、目覚めさせられた。
どうやら俺は気絶させられていたらしい。
コンクリート剥き出しの暗い部屋。どこかの廃ビルだろうか。ひび割れた窓から満月が窺える。
俺は椅子に座らされ、体と四肢を縄で縛られていた。
身じろいだ時、両腕両足に縄とは違う鋭い痛みが走る。
彼らに襲われ、骨折でもしたのだろうか。
それだけではない。息が苦しい。肋骨をやられたのかもしれない。
そして目鼻と口も痛い。鼻で呼吸が出来ず、口呼吸をする。呼吸の
男達の一人が俺に近付き、俺の濡れた前髪を掴み上げる。
そしていきり声を放つ。唾が顔にかかり、不快である。
リーダーが俺を馬鹿にして、周りの金魚のフンは笑う。
言い返したくても口が痛くて言葉が出ない。
リーダーは俺に何か言わせようと質問したり、俺を怒らせるような単語をぶつける。
俺が何も言わないのでリーダーはとうとう啖呵を切る。
と、そこへドアが開き、若い女が現れた。
体のラインが分かる白いセーターとスリットが大きく開いたスカートを穿いていた。
男達は訝しんだ。
誰だ?
知り合いか?
情婦か?
男達はリーダーへ指示を仰ぐように顔を向ける。
リーダーは立ち上がり、女に歩み寄る。そして女を小馬鹿にするような声をかける。その態度はいやらしく、女を値踏みするような視線、味わおうとするように舌なめずりする。
そのリーダーの態度や発言からどうやらこの女は間抜けな
リーダーが手を伸ばせば女に触れるいう距離に来た、女の方から一気に距離を詰めてきたのだ。
そしてリーダーの頭が首から弾かれるように飛んだ。
頭はコロコロと床を転がり、俺の椅子の下で止まる。
女の手には漫画のような大きなナイフが。そんなものを一体どこから出したのか?
一瞬の沈黙の後、男達は状況を理解して女に掴みかかる。
でも、誰も女を捕まえることはできない。
血を流す哀れな肉体が生まれるだけ。
男達は屈強な体をしていた。さらにパイプやバット、ナイフなどの得物を持っていた。けれど誰も女を捕まえることも倒すこともできない、
まさにそれは暴力的な強さだった。
全方位に目があるかのように、相手の攻撃を避け、大型の──まるで漫画に出てきそうなナイフで相手を豆腐のように切り裂いていく。
中には自分の手足がいつ切られたのかも知らない者もいた。
バランスを崩した時、男達は片足がないことに気付き。
拳や手に持つナイフに手応えがなかった時、男達は腕や手首がないことに気付く。
男の一人がその
しかし、女は俺の味方でもないし、女は俺の生死なんて気にも止めなかった。
男は諦め、俺から離れる。そして女に飛びつき、ナイフで切りつけようとする。
でも、ナイフの刃が女の体を触れることも傷つけることもなかった。
そしてとうとう、部屋の中の男達を切り刻んだ後、女は部屋を出る。どうやら逃げた残党を刈りに出かけたようだ。
三十分くらいしてか、女が部屋に戻ってきた。
月光が女の体を照らす。
女の体は返り血がなく、綺麗であった。
「ごめんなさいね。私は貴方を助けに来た味方ではないの」
と言って、ナイフを掲げる。
「最後に何か言うことはある?」
俺は首を振った。
真夜中の殺戮者 赤城ハル @akagi-haru
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