第14話「ぼっちとの、いつも通りじゃない学校」

 逃げも隠れも出来ない学校内へと足を踏み入れる。


 すると、その場にいた大勢の生徒がたった今学校内のアスファルトの地面を踏んだに注目の視線を向けた。


 それもそのはずだ。


 彼らの目線の先には、この学校一の美少女であると噂の女神様こと、真城美桜。そしてその隣には——村瀬伊月という、今年の1年生の中でも女子に人気が高い陽キャが並んでいるのだから、注目するのは当然だった。


 美桜は校章の入った白いブレザーと赤リボンを着け、スカート丈は膝上程度。今どきここまで完璧に制服を着こなす女子高生というのも珍しい話だ。


 一方伊月は、今日からブレザー無しでもオーケーという校則によってブレザーは着ていない。だが、男子にしては少し小柄な体型を活かした少し着崩したスタイルだ。ネクタイは第1ボタンの辺りまで緩め、裾も少し捲っている。


 この正反対の2人が並んで歩けば、そりゃギャラリーも増えることだろう。


「いやぁ〜。真城さんと一緒ってだけでここまで注目を浴びるとはな〜! こりゃ、あいつが怯えるのも納得だわ」


「……不本意です」


「ありゃ、そんなにオレと一緒は嫌だったか?」


「……そうかもしれません。ですが、これも湊君のためですから我慢します」


「我慢するぐらいなら断ってもよかった気もするけどな。……なぁ。真城さんて、どうしてそこまでしてあいつと一緒に居たいんだ? オレが言ったって知ったらあいつ怒るからあまり言わないようにしてたけど……この際だから聞いとこうと思ってさ」


「……拒否権無しですか」


「いや、そこまで根を詰めた話なら、わざわざ訊いたりしないけど」


「……理由なんて、そんなもの要りますか?」


「………………。と、いうと?」


「私は、湊君のことが誰よりも大事でかけがえない存在です。それを失わないためなら、私はどんなことだってします。道を踏み外さない程度で」


「そりゃそうであってくれ。……何年だっけ? お前らが出会って」


「もうすぐで9年です」


「だいぶ拗れてんねぇー……——」


「何か言いましたか?」


「いや別に。何もねぇよ」


 校門に入った途端、異質な空気に変貌した2人。

 そんな2人の様子を静かに後ろから見守るのは、陰キャ組みの僕と鈴菜さんである。


「それにしてもあの図スゴいな……違和感が無さすぎる」


「最早私達が近づく両分でもないですね……。別次元です」


 別次元の話を描いてる人が別次元のこと語ってる。不思議だけど説得力がありすぎる。


 やっぱりアレだな。

 その道のプロに訊くのが1番という言葉があるが、まさにその通りだということだ。


 ……それにしてもだ。


 いくらお互いに興味や好奇心が無いにしても、遠くから見ていると何の違和感も抱かない。まるで本物の恋人のようにさえ思えてしまう。今ならわかる、周囲の気持ち。


 率先してああいうことをしたいと考える男子達には共感し兼ねるが。


「にしたって、何話してんだろうな」


「話の根底が合わなさそうですよね……真城さんと伊月君って」


「同じ『モテる』でも、あいつらは進んでモテてるのかそうでないかの違いがあるからな。そこは変えようが無いし、何より伊月は鈴菜さん一筋だしな」


「そっ——そんなこと、ない……と思う」


 鈴菜さんは歯切れが悪そうにそう返答する。その表情は照れと同時に曇がかっていた。


 自信が持てないのだろう。

 自分とは正反対の性格の人間が『幼馴染』で『恋人』なんて、周りに知られれば白い目で見られる恐れがあるだろうし。


 鈴菜さんの心境は理解出来ないが、関係性だったら僕にもわかる。

 それに……今の僕に突きつけられている現状は、そういうことだからな。


「……あ、校舎に入った。じゃあ行こ、鈴菜さん」


「う、うん……」


 2人が校舎内に入ったタイミングを見計らって、僕達は校門を潜る。


 戦略通り、人気は2人が引きつけたお陰でほぼほぼもぬけの殻——完全な無人にはなりはしないが、大勢が僕達を見るより数倍マシだ。


 僕が校門を潜ろうとした途端、鈴菜さんが僕の制服の裾を思いっきり掴んだ。


「す、鈴菜さん?」


「ご、ごめんなさい……! その……迷惑なのはわかってるんですけど、どうしても、いつも以上に嫌な空気がしてて」


 場の空気が汚染されているのだろうか。ただでさえ人の気配、目線配りが敏感な彼女がここまで震えているところは初めて見た。どれだけの目線がこれから僕に注がれることになるのか……想像しただけでも寒気がする。


「わかった。……でも、裾を掴むのはやめてもらってもいいか? 後で伊月に叱られる」


「ご、ごめんなさい……っ!!」


 鈴菜さんは臆病で、すぐに他人に縋り付いてしまうが、それでも先程注目を浴びていた伊月の立派なカノジョなのだ。


 一見面倒そうに思える鈴菜さんだが、世の中にはそんな連中ばかりじゃない。

 1番身近に居て、1番守ってあげたい存在——伊月にとって鈴菜さんとは、それだけ大事な存在だということだ。


 だからこそだ……こんな風に縋り付かれたら理由やら動機やらを満遍なく訊かれる。いや、問いただされるの間違いか……。


「さ、行こうか」


「は、はい……」


 さて——女神様の誕生日から早1週間。


 今年は休日が重なった影響もあってあれから学校はなかったのだが、クラスメイト達の反応は如何なものか。

 そう思いながら、今日も僕は学校へと足を踏み入れた。

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