第11話「女神様との帰り道」

 それからというもの、ちょくちょく休憩を挟みつつも公園という小さな施設で遊びまくった。この歳になってもまだまだだということを物語っている。


 途中、美桜が「滑り台登りたいです!」とか言い出したときには『何事!?』と思ったが、どうやら先に遊んでいた小学生達に便乗されてしまったらしい。恥ずかしいことこの上なかった。


 そして日は傾き……現在、夕暮れ時を迎えていた。


 誰かとこんなに遊ぶなんてこと、僕にも美桜にとっても初めてすぎて、体力と足腰が悲鳴をあげているのがわかった。


 今どきの高校生にしては体力が無さすぎるのだろうか……いやだって、基本的に運動はあまりしない方だからね、僕も美桜も。


 いつぞやでの体育での出来事は“奇跡”と呼ぶに相応しかったのだ。

 わかるだろ? 僕は、平凡な学生として高校生生活を送りたいだけなのだ。


「だいぶ遊んでしまいましたね。夕飯の仕込みとかも何もしてません」


「だな。……明日は筋肉痛かも」


「元スポーツ自慢が言う台詞ですか、それ?」


「……何年前の話をしてるんだよ」


 美桜の中では、まだ昔の僕は健在のようだ。

 確かに前まではスポーツも運動も大好きだったさ。——たった1つの野望のために、好きでいたかったさ。……前までは、だけどな。


「そういうお前はどうなんだよ。前々からスポーツとかあまり得意じゃないのは知ってるんだぞ」


「ゔっ……し、仕方ありません。一時ひとときの休息を取ることにします」


「そうしとけ。きっと明日になったらその選択が正解か不正解かがわかるからな」


「……意地でも休ませたいんですね」


「そういうわけじゃないけど……。無理はよくないってことは知ってるからな」


「素直じゃないですね。どうしてそんなに顔を逸らしてるんですか?」


「……僕の勝手だろうが」


「ふーん。そうですか……でしたら私も、好きにさせて頂きますね!」


「え、ちょ——──っ!?」


 そう言うと美桜は僕の顔をじーっと覗き込むようにして接近してくる。ち、近っ!!


 訳がわからず混乱する僕を後目に、美桜は構わずに退く僕に接近してきた。


「え、えぇっと……み、美桜さん?」


「本当は、どう思って言ってくれたんですか?」


「えっ……? い、いや、だからそれは——」


「それは?」


 だ、ダメだ……! こういうときの美桜は事情を全て暴露しない限り弄ぶタイプだ——!!


 弱み、というより『心配』したということを暴露する羽目になってしまう……。


 だからといって、このまま接近され続けるのも心臓に悪い。いっそのこと逃げてしまおうか……? いやダメだ。その場合は完全に詰む。


 僕が帰る先には、この女神様が居候しているのだから結局、打ち明けることしか選択肢が残っていないのだ。


「……すみません。心配してました」


「本当に素直になるのが苦手ですね。本性を曝け出しても、私は湊君のことを嫌いになったりなんてしませんよ?」


「……よくそんな自信満々に言えるな。お前にだって、僕の知らない部分があるだろ。その中からお前が嫌いな僕が出てくることだって——」


「——有り得ないです。幼馴染の私に、湊君の本性が何1つわからないとでも思いましたか? それに何より……あのとき声をかけてもらってから、私は湊君のことが好きです」


「〜〜〜〜〜〜〜っ!?」


 本心からの言葉か、それとも無意識のうちに吐いた言葉なのか。


 確かめる気にもならないほど僕は動揺を隠しきれなかった。



 ……好き、って。そんな簡単に口に出せる言葉じゃないだろうが! 人の理性試すなよっ!



 鏡が無ければ僕の今の様子なんてわかりっこないが、それでもわかる——顔が熱を持っていることが。


 この無自覚な女神様の言葉を、別の意味で捉えてしまいそうになる。

 好きというのは、恋愛感情でも、友情関係でも使う言葉だ。

 本人の意思はともかくとして、受け取る側からすればこれほどスリリングな言葉はない。


 ……一体どこまで僕を弄ぶつもりなんだよ。お前って奴は……!


 本気か。

 それともワザとか。


 それを確かめる術はない。今はまだ。

 だが、あの真城美桜が僕に『情』を抱いてくれているのは素直に嬉しかった。


 単純なのは僕の方だ。


「そうだ。湊君、今日の晩ご飯はどうしましょうか」


「………………」


「……湊君? どうしましたか?」


「な、何でもない! ……ば、晩ご飯だろ? し、仕込みとか何もやってないし、近くのお店にでも入る! そっちの方がいい!」


「何の話ですか?」


 ……本当に嫌だ。こんなところで自覚させないでほしい。


 今2人だけの空間に入ったなら、間違いなく僕は過呼吸に陥る。それぐらいに心臓が煩いのだ。



 夕暮れ時の、静かな帰り道。

 僕こと和泉湊は、この幼馴染への感情の変化に気がついた。



 ——少女漫画の代名詞かこれ! 絶対に美桜はヒロイン役にピッタリだと、そう思った。


「そういうお前はどうなんだよ。前々からスポーツとかあまり得意じゃないのは知ってるぞ」


「ゔっ……し、仕方ありません。一時の休息を取ることにします」


「そうしとけ。きっと明日になったらその選択が正解か不正解かがわかるからな」


「……意地でも休ませたいんですね」


「そういうわけじゃないけど……。無理は、よくないってことは知ってるから」

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