第三部
第19話「女神様の休日 in 湊君との勉強」
「…………」
本日は休日。
そのため、私こと真城美桜はリビング内にぽつんと置かれたテーブルの前に座り、あるクラスメイトのプリントを睨みつけていました。
私が、小学生の頃からの幼馴染である、和泉湊君の家に居候基同居することになって、早くも1週間が経過しました。
私の目の前には、そんな幼馴染の彼があぐらをかいて座っています。
「……何にも言えませんね。ツッコミも出来ません」
「しなくていい。いつも通りの点数だから、気にしない方向で行こう」
「と、言われましても——」
私の目の前に置かれたプリント。
それは、こちらにいる湊君の昨日返却された小テストの答案用紙です。
私がこんなにも居た堪れないわけ。
それは決して、湊君の点数が悪かったわけでも、私より点数が高かったわけでもありません。寧ろその間——良くも悪くもない。普通の点数だからです。
「……10点満点の6点。……何も言えません」
「さっきも聞いたぞその言葉。っていうか、別に悪くはないからそれでよくない?」
「よくありません。良くも悪くもない点数だったために、叱ることも出来ないじゃないですか! 夢だったんですよ、湊君相手に説教するの!」
「どんな小さな夢持ってんだ! っていうか僕、叱られる選択肢しかないの? 良い点取ったら普通は褒めるのが当たり前なんじゃないの?」
「それはそうですが」
「なら、もっと褒めてくれ」
「褒めることは褒めますが、湊君の保護者としてはもう少し点数を上げてほしいと思うじゃないですか」
「いつ誰が誰の保護者になったんだ?」
これは、ノリに乗っておくのが筋というものなのでしょうか。
いえ、ですがいつもように湊君を困らせてしまう結果となってしまうかもしれません。
湊君曰く、まだまだ私の常識は“一般的ではない”とのことだそうですし。
色々と試行錯誤を繰り返し、私は1つの答えを導き出しました。
それは——、
「2週間前からでしょうか」
「真面目に考えた挙句に変な答えを導き出すな!」
どうやら、不正解の回答のようです。私もまだまだですね。
「ですが、どうしてこんなにも何の文句も付け難い点数なんですか?」
「別にそれはいいだろうが」
「それもそうだとは思いますが。昔の湊君は、私と成績を張り合うレベルだったはずです」
「さりげなく自分は優等生ですアピールするのやめろし」
お気に障ったらしく、湊君の頭に怒りマークが飛び出てきています。
また何か言ってしまったでしょうか。
ですが、ここはいつも通りに『思ったこと』を返事しましょう。
「私って、優等生なんですか?」
「え……突っ込むとこそこなの?」
はい、そこです。心の中で頷きます。
「てか、そんな肩書きが付いてる時点で察しろよ。第一、お前ってテストで何点取ったことある?」
「……100点以外取った覚えがありません」
「くそっ! それが優等生の台詞なの、よく覚えとけ!」
今サラッと舌打ちされた気がします。
ですが、湊君はいつものように私のことを『私』として見てくれている。優等生やら何やらと呼ばれていても、私に接してくれるあなたは、いつも優しいです。
今のも皮肉という意味ではそうかもしれませんが、嫌味ではありませんでした。
……やはり、湊君は優しいです。
「それで、どうしてですか?」
「急に話戻すなよ……」
「戻すも何も、これがそもそもの本題です。それで、どうしてですか?」
そもそも気がかりでもありました。
ぽろっと口に出したことではあったのですが、中学時代のあるひと時——湊君は小学生の頃とは比べ物にならないほど、成績が良かった時期がありました。
私も、当時の出来事はとても信じられませんでした。
私達が通っていた中学校では成績上位者は廊下に掲示されるのが主流であり、同時に伝統でもあったらしいのですが、その中で『和泉湊』と知り合いの名前が出ていたことに、私は非常に驚きました。
相当努力したのでしょう。
それも——1位である私に続いての2位になるほどに。
平均点を取れれば大満足。そう言っていた過去の彼が、本当に過去になったような気分でした。
……ですが、これは前章譚。
そう、これは過去の湊君。本気を出した結果故に起こったことでした。
それ即ち、目の前にいる湊君は過去の本気を忘れてしまった湊君だということです。
「……関係ないだろ、お前には」
「……その言い方はないですよ」
「……ごめん。つい」
「いいえ」
こんなやり取りは初めてではありません。
よほど言いたくない理由があるのか、湊君は今まで話してくれたことはありません。
一度も。そう、一度もです。
私が家出してきたことの詳細を説明していない私と同じです。
湊君を信用していないわけではないですが、相手を信用しているからこそ言えないことだってあります。話してしまったら……私の今の環境を守れません。
「——ですが、せめて良い点か悪い点かのどちらかを取ってください。何にも言えないじゃないですか!」
「話の観点を戻すな」
「戻すも何もですから。それに、知り合いが平均点辺りをウロウロしているなんて、恥ずかしくて言えないじゃないですか」
「言うって……誰に報告する気だよ」
「………………」
「考えてから発言しろし」
ですが、本当にどうしてあの時期だけ私の後を追っかけてきたかのような結果が出たのでしょうか。
偶々……という線も捨て難いですが、私の点数は常に満点に近いのに、果たしてそんな偶々があるのでしょうか。
湊君は何も話してくれません。今も昔も。
なので『話す必要がない』と判断したのなら、それでいいと思っている半面——モヤモヤしているのが半面。
……どうしてしまったのでしょうか、私は。
恋心かどうかがわからないこの気持ちの他に、悩みを増やさないでほしいものです。
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