第13話「女神様とぼっちのお弁当②」
「私が好きなのは——コレです」
「ん?」
お弁当を食べつつ美桜は僕にちょこちょこと好物の画像を提示してくる。どれだけ僕にお弁当を作ってほしいのやら。
美桜が提示した画像の先には、艶やかな色をし黒豆や黒胡麻がいい感じに味を引き立てているであろう、見事なまでのお赤飯だった。
「……これを、作るのか?」
「作ってください。何なら私も手伝いますが?」
「いや。それだと今日と変わらなくなるぞ?」
「はっ! ……そうですね。ではなるべく手を出さないように気をつけます」
「色んな誤解を招きそうな言葉を使うのやめようか」
美桜は何のことですかと訊ねるかのように首を傾げるが、反応が予想の範疇だった僕は敢えてそこに付け入れるようなことはしなかった。
世間ずれというより、これに関しては言葉の綾だろう。
深く考えずにぽろっと出た言葉だろうし、僕がそれを掘り起こすことはしてはならないことだ。
なので——スルーすることが大事なのだ。
「けど、ウチには黒胡麻どころかお赤飯に使う具材すらないぞ?」
「でしたら、放課後買いに行きましょう」
「……本気か?」
「何がですか?」
キョトンとした表情で美桜が訊ねてくる。
昨日の眠る前のこともあって、なるべく美桜と関わるようにしていくつもりではいる。まずは昼休みからというのに美桜も肯定してくれていた。
多少のことであれば受け入れるつもりだし、なるべく美桜のわがままには付き合ってやりたいというのが本音だ。
……けれど、まさかここまでハードな要求をされるとは前代未聞だ。
学校外というのは意外にも学校内よりも目立ってしまう。ウチが学校と距離があるとはいっても、買い出しをする際にはどうしたって人と出くわす羽目になる。
美桜はただでさえ目立つ存在だ。
学校内でもあれだけ目立つというのに、学校外でのことだなんて……考えたくもない。
「……美桜。お前、自分がどういう人間かって自覚したことは?」
「失礼ですね。湊君は私のことをモデルか何かと勘違いしていませんか?」
「いや……だって」
人一倍綺麗な容姿、形整った輪郭。そして、くりっとした栗色の可愛らしい瞳。
どれもが僕には見慣れた風貌だが、周りは違う。
放課後に買い物に行くということは少なからず、僕も同行することになるだろう。
美桜は否定していたが、どうしたって『モデル』にしか見えない。
「湊君の悲観っぷりは
「誰のせいだと……」
「まぁ、今すぐに何とかしてくださいというのも無理でしょうから、今回は私の方が何とかひと工夫してみることにします」
「え、いいのか?」
まさかの提案に驚いた僕の反応に美桜は「はい」と軽く頷いた。
けれど、少し申し訳ないとも思ってしまった。
美桜は僕に何でもしてくれる。お弁当のこともそうだし、今日のお昼を食べる場所だってそう。学校内でも目立つことがない場所を選んでくれた。
特に付けられているような気配も、雑種を見るかのような視線も感じない。
いつもの昼休みであれば感じられていた気配たち——きっと、美桜が僕に気を使ってくれているのだろう。
でなければ、こんな偶然が起きるわけがない。
校舎に女神様が戻られればまた周囲の視線が鋭くなることだろう。
メールも極力避けたい。
……だったら、僕はこの優しすぎる幼馴染に、何をしてあげられる?
「工夫って言ったって、何する気だ?」
「そうですね。施しようは色々ありますが……やはり、変装でしょうか?」
それこそモデルがしそうな騙し方だな。
東京なんて都会な場所を歩けば、一躍スターにでもなったかのような視線が
「一言に変装と言ってもわかりませんし、放課後になったら、少しお出掛けしましょう」
「えっ? 買い物するんじゃないのか?」
「昨日持ってきた服などを合わせても、少しインパクトに欠けるんですよ。湊君の隣に堂々といれるような変装にしなくては!」
いやいやいや! それ何する気ですか!?
こんな平凡学生の隣に素の女神様がいるだけでいびられるというのに、僕の隣に居るための創意工夫って何する気だよ!
僕は美桜に「待って!」と強めのストップをかける。
「どうしました?」
「どうしました、じゃない! ……美桜、一応訊くが、お前は何を加えるつもりだ?」
「そうですね。春ですから薄めもののワンピースに羽織る用のレースシャツ。それから靴の方を持ってきていないのでその調達を——」
「それ以上の創意工夫はしなくていい! 僕を殺す気か!」
……優しいのはいいけど、やっぱり、僕が居てやらないと変な方向に進みそうだなこいつ。
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