魔法が解けるのは真夜中だけ

華川とうふ

真夜中

 12時になると魔法が解けるから


 真夜中になると魔法が解ける。

 魔法が解けて欲しくない人もいるけれど、私は真夜中が待ち遠しかった。


 真夜中になると私は目覚めることができるから。

 硝子の棺を自分で持ち上げ、静かに伸びをする。

 深呼吸はしてはいけない。

 深呼吸したところで、リンゴの欠片は喉に引っかかったままだし、匂いだって何時も同じ。

 硝子の棺に私と一緒に敷き詰められた花々の香りが少々強すぎるのだ。

 香りというのはもっと優雅に控えめに漂うべき物なのに。

 まあ、私のことを死体だと思っている人たちにとってはいつ腐乱するかも分からない死体にせめて少しだけマシな匂いをと思っているのかもしれないけれど。

 あいにく魔法がかかっているおかげで私はリンゴを喉に詰まらせたまま眠っている。


 まったく、幸福なのか不幸なのか毒リンゴを喉に詰まらせたおかげで、私は半分死んで半分生きている状態だ。

 毒リンゴを完全に食べていてその毒で死んでいたらこうして目覚めることも無かっただろう。

 中途半端な状態だから、私はこうやって真夜中の魔法が解ける瞬間に目覚めることができる。


 毒リンゴで死んだと思われた私の死体は今、世界中を旅している。

 世界中で美しい生きた死体として見世物にされているのだ。

 いつか、私にぴったりな相手が現れたら、そのときは喉につまったリンゴの欠片をとってもらって目覚めよう。


 それまでは、まだ、世界で一番美しい少女として年も取らずに眠り続けるのだ。

 おやすみなさい。

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魔法が解けるのは真夜中だけ 華川とうふ @hayakawa5

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