第21話

 冒険者たちの情報を元に進むと、僅か一時間ほどで目的地に到着した。


 少し開けた場所で荷物を下ろした後、テントを張ったり、水を確保したり、周囲の安全を確保したりと、騎士たちが色々と動いてくれている。


 これはすべて隊長の私の指示……ではなく、セレス様の指示である。


 我が儘姫という不名誉な称号を持っているが、とても仕事のできる女性だ。体格のいい騎士や年上の魔術師たちに臆することなく向かい合っていた。


 魔草を除去できれば、名ばかりの隊長がいてもいいというのがよくわかる。逆にいえば、しっかり魔草を除去せよ、と言われているように聞こえるが。


 そんな私とセレス様は、先に周辺を探索して魔草を探している。


「こんなに街に近い距離で野営するんですね」

「本当に何も聞かされていないのね」

「アレク様に、合同部隊の隊長を任せる、くらいしか言われてません」

「ああー。アレクは説明を省略する癖があるわね。ちゃんと聞かないと教えてくれないわよ」


 サラッとアレク様のことを教えられて、思わずキョトンとしてしまう。


「詳しいんですね」

「当たり前じゃない。本来、魔術師団の責任者はアレクで、その一つ下の立場が私なのよ。今まで嫌っていうほどそういう経験をしてきたわ」


 そういえば、セレス様は魔術師団の仮責任者って言ってたっけ。


 他の人が犬猿の仲と言っていたのは、日常的に言い争いをしている結果なんだろう。二人が同じ公爵家であることを考えると、どちらも意地を張って折れそうにないから。


 セレス様と魔草を探していると、それらしき薬草を一つだけ発見する。しっかりと確認するため、二人でしゃがみこんだ。


「で、これは魔草なの? ヒチリス草なの?」

「うーん……ヒチリス草っぽいですね」

「曖昧な言い方ね。魔草の専門家じゃなかったわけ?」

「薬師は薬草を扱う専門職です。たとえ魔草の専門家だったとしても、魔力照合検査で確認しなければ、基本的には断定できませんよ」


 早速、薬草に魔力を流して確認すると……、ぼわ~んと青く光った。


「ヒチリス草ですね。普通の薬草です」

「思っていた以上に厄介そうね。魔草の扱いには注意がいるし、疑わしいものをすべて処分したら、周辺のヒチリス草を枯らしてしまうわ」


 セレス様の言う通り、魔草の調査で一番厄介ともいえるのが、見た目ではわからないことだ。


 唯一の違いが根っこなので、見た目だけだと引き抜かないと判断できない。そんなことをしていたら、当然のようにヒチリス草不足に陥ってしまうだろう。


「しらみつぶしに魔力照合検査をやっていく、が無難な方法ですね」

「どこまで魔草が咲いているのかわからないのよ。日が暮れるとかいうレベルじゃないわ」

「魔術師の方が多くいらっしゃいますし、魔力照合検査を覚えてもらって、数の力で押し切るべきです」

「そう考えていたから、これだけの大人数で対処することになったんだけどねー……」


 不穏なことを言ったセレス様がヒチリス草に手をかざすと、僅かに青く光った。


 うまく扱えないみたいで、光り方が弱い。


「魔術師の魔力操作とは、扱いが異なるわ。本当に正しく検査できているのか、判断に困るわね」

「他の宮廷薬師を呼んだり、街の薬師を呼んだりするとか」

「残念ながら、許可が下りないわ。街の薬師には責任が重すぎるし、他の宮廷薬師は運動不足か年寄りばかりで足腰が持たないもの」


 なんですか、そのトンチンカンな理由は。真剣な顔で言われても、納得できませんよ。


「もしかして、私が宮廷薬師を代表してここに来た本当の理由って……」

「一理あるかもしれないわね」


 薬草菜園を管理して、足腰が強かったからですか! 動ける宮廷薬師が希少すぎますよ!


 どうりで隊長に担ぎ上げられたわけだ……と思っていると、ふと戦闘する音が聞こえてきて、ハッとした。


「言い忘れてたんですけど、魔草が生えると周辺の魔物が強くなる傾向にあるみたいです」

「知ってるわよ。だから、騎士団との合同部隊でここまで来ているの。現地で情報を整理しているのも、そういった影響よ」

「だんだん理解してきました。行き当たりばったりな状態で、私とセレス様で対処法を見つけなければならない、っていう感じなんですね」

「話が早くて助かるわ。さっ、早いこと魔草を見つけましょう」


 セレス様と立ち上がった瞬間、私は少し離れた場所にある二つ薬草を指で差す。


「あそこにあるのが魔草かと」

「見つけるのが早いわよ。でも、本当にあれが魔草なの? ヒチリス草と見た目がまったく同じじゃない。どうしてわかるのよ」

「なんとなくです。子供の頃から薬草を育てていた分、変な違和感を覚えるんだと思います」

「なるほどね。まあ、魔草があることを前提に来ているわけだし、敏感になっているのかもしれないわね」


 二人で一緒に薬草に近づき、すぐに魔力照合検査を行なう。すると、今度は赤く光った。


「魔草ですね」

「ふーん。本当に赤く反応するのね」

「ふふっ、そう言いたくなる気持ちはわかります。実際に反応しなかったらどうするんだろうって、私も思っていましたから」


 興味津々で魔力照合検査の反応を眺めるセレス様を見て、私は思わず笑ってしまった。


 薬師に必須の技能とはいえ、この国では魔草自体が珍しい。多くの薬師が疑問に思いながら生活しているのだ。


 本当に魔力照合検査は意味があるのか、ちゃんとできているのか、と。


 そんな何気ないことに共感していると、セレス様が呆気に取られたような顔で私を見た。


「あんた、笑えるのね」

「な、なんですか。突然」

「どっかの堅物男みたいに笑わない人種なのかと思っていたわ」

「聞こえたらどうするんですか。こんなところでアレク様の悪口は言わないでください」

「別にアレクのこととは言ってないわよ」


 嵌められた。セレス様はこういうタイプの人か。


 嬉しそうにニヤニヤしたセレス様が魔草に手をかざすと、少し弱いものの、ちゃんと赤く光った。


「あっ、私の魔力でも赤く反応するわ。なるほど、こういう仕組みね。じゃあ、こうしたら……っと。見なさい、黄色に光ったわよ! ふふーん、なんだったら紫にもできるわ!」


 急に夢中になり始めたセレス様は、魔力照合検査で遊び始め、色とりどりに魔草を光らせていく。


「セレス様も笑うんですね。無邪気な姿が子供っぽくて可愛いですよ」

「う、うるさいわね。ちょっと遊んでただけじゃないのよ、まったく」


 お茶目な人なんだなーと思うと同時に、いろんな色に輝くと魔草かどうか判断できなくなるので、「魔法を改造しないでください」と私は注意するのだった。

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