第9話

9.

2555年4月2日(水) PM12:30 関東星系 惑星日本 日本軍 本部内 第6宇宙艦隊 提督執務室


第6艦隊提督、マサトは参謀本部により送られてきた艦隊編成表を読むと、こみ上げてきた怒りによって振り上げられた拳を自身の執務机に振り下ろした。

昼食後のお茶を入れていたミクがその音にびっくりして湯呑を落としてしまう。

「マサトどうしたの?そんなに怖い顔をして…ついさっきまでは攻撃艦隊の指揮を任命されてご機嫌だったじゃない。」

「どうもこうもない、俺は艦隊提督として我が艦隊の戦闘力向上に力を注いできた、なのに参謀本部は俺の艦隊を取り上げ、代わりに企業どもが作ったおもちゃを使って、異星人と戦えと言ってきている。これが屈辱でないというのなら何というんだ!!」

「でもその編成って参謀本部の主席分析官であるユミコちゃんが作ったものでしょ?彼女の提案が間違っていたことなんてほとんどないじゃない。」

「ほとんどだろ?先月の特攻ミサイル事件のような失敗を彼女だってしている。今回だって奇をてらいすぎて本質を見失ってしまったに違いない。」

「だとしても、そうだとしたらさすがに参謀長のタケルさんが承認しないんじゃない?そんなに納得できないのなら、参謀長に直接抗議すればいいでしょ。」

マサトはそう言われて改めてタケルの存在を思い出す。自身と同じように古式ゆかしい軍服に身を包んだ少年だ。初めて出会った時からその姿にシンパシーを感じ、すぐ仲良くなった。

今でもよく軍人の正しい在り方について熱く語り合いながら呑み明かす深い仲だ。

そんな彼が、何の理由もなくこんな編成を承認するわけがない。

そう思い立ち、マサトはタケルのインプラントにコールするのであった。


30分後、そこには意気消沈し、執務机に突っ伏すマサトの姿があった。

タケルにコールして事の真相を確認するも、この艦隊編成が、敵勢力を欺くための欺瞞工作を兼ねていること、その上でよほど酷い指揮をしない限りは確実に勝てる戦力であり、さらには敵勢力の情報を知るためにも今回の戦いに失敗は許されない、だからこそ提督の中で一番優秀である自分が選ばれたのだと伝えられた。

確かに頭を冷やして改めて艦隊装備、作戦要綱を見直すと、さすが天才と言われるだけはある、本当に無駄のない緻密な作戦だ。

しかし本質がいくら大真面目な作戦であっても、その本質を知らされない大衆からすれば、お祭り気分で敵と戦いに行く能天気集団としか見えないだろう。

そして失敗なんてしようものなら、自分を含め、参謀長であるタケルも世論の批判に晒され、今の立場を辞任せざるを得なくなるだろう。

タケルと話している間にも、ガレキングの製作者を名乗る男や、ガソバスターの製作者を名乗る二人の女性が、自分をパイロットにしろと記入済みの軍務登録と共に艦隊司令部に直訴してきた。

今回編成される艦隊に搭乗する人間は、自分とミク、そして白兵戦のプロフェッショナルと言われる歩兵科から派遣される傭兵達だけだ。

防止策があるとはいえ、人間が増えるほど量子通信技術が奪われる可能性は高くなる。

そんなリスクは犯せない。

自身がどうしてもパイロットとして乗り込むことができないことを理解した彼らはドロイド用に作られた、操縦プログラムを置いて立ち去って行った。

本来より予備戦力を多めにとってある作戦だ。ドロイド3体ぐらいロボットのパイロットとしてつかっても問題ないだろう。

そう考えたマサトは、艦船を改装している部署に連絡、このデータをプログラムしたドロイド兵をコクピットに座らせるよう指示するのであった。

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