第8話

8.

2555年4月2日(水) AM11:00 関東星系 惑星日本 日本軍参謀本部 参謀長執務室


ユミコの要求を満たすため、エミはユミコが座っていたソファーに座り、その膝の上にユミコが座る。頭頂部と両手に感じられるおっぱいのやわらかさにユミコはご満悦だ。

しかし、一見幼女が年上のお姉さんに無邪気に甘えているように見えるが、エミとタケルは同い年で125歳、ユミコは25歳だ。

明確に男女が分かれ、年齢差が大きな問題となった古代と違い、今は性別も年齢も関係ない時代だ。タケルはエミと結婚してから100年以上、エミ以外の人間と体を重ねた事は無いが、たとえ結婚していたとしても伴侶以外とも気軽にセックスするのが今の普通であり、自分のような人間は少数派なのも自覚していた。しかしそれでもタケルはそれを口にするのを我慢できなかった。

「言っておくが、それ以上は無しだからな。エミは僕の妻なんだ。」

ユミコは一瞬きょとんとした顔をした後、そのタケルの顔を見てにやける。

「本当に参謀長とエミさんって仲良しさんだよね」

ユミコはエミの体の柔らかさを全身で楽しみつつ二人の仲をはやし立てる。

「でもちょっと羨ましいな…参謀長とエミさんって結婚してもう100年以上になるんでしょ?私もそう思える人と出会いたいな…」

「そう焦らなくても、いつかいい人に出会えるよ。」

「そうかなあ~?あ、参謀長、新装備の方も急いで目を通してね、午前中に決裁できないと、艦船の改装と新装備の配備が遅れて、19時予定の出発時刻に間に合わなくなっちゃうよ。」

つい資料を読むのを忘れて二人の様子に見惚れていたタケルにユミコは急いで決裁するよう催促する。

タケルは我に返り、急いで新装備の項目に注目する。

「量子通信ではなく、敵が使用していた超光速通信を使ったドロイドユニットか…よくこんな短時間で用意できたね。」

「量子通信が実用化されている時点で、使われることのない技術ではあったけど、一応こちら側でも研究は続けられていたからね。相手に乗っ取られない範囲で、もうちょっと技術レベルを下げたかったけど、この短時間ではこれが限界かな。ドロイドの運用も中央システムは一切介さず、攻撃艦隊のコンピューターネットワークのみで運用できるようにしてあるよ。計算上は3隻残っていれば、今回運用する予定のドロイドユニットは100%の稼働率で運用できるよ。それと次の項目の新装備、これが私一押しの一番の目玉だよ。」

そうユミコに促され、大きな期待を持って次の項目を開く。開いた瞬間、タケルは何とも言いようのない生理的な嫌悪感を覚え、思わず顔をしかめる。

その新装備には戦闘ユニットの名前とは到底思えない名前がつけられていた。

ユニット名、洗濯場の魔物改。

円盤状の金属製の本体にはタコのごとく人工筋肉で作られた8本の触手が生えており、その触手の先には人間の手がついている。本体には武器を装着するためのハードポイントが取り付けられ、生身の人間であればバターのごとく切り裂いてしまう、超振動波ナイフとニードルガンが装備されている。確かに見た目のグロテスクさにさえ目をつぶれば心強い戦力になるのは間違いないだろう。

タケルはこみ上げる生理的嫌悪感を理性でどうにかねじ込み、ユミコが一番の目玉だと言い張る新装備について質問する。

「これは確かに強そうだけど…これはユミコが一から考案したの?そうだとしたら改の文字が少し気になるんだけど…」

「これは私が一から考案したものじゃないよ、2229年、日本がまだ地球にあった時代の外交官が使用していた船に配備されていた洗濯ユニットを戦闘用に改造したの。でも不思議だよね、洗濯設備としてもすごく優秀なのに採用例はその1例しかないんだよ。」

タケルは思わずいくら性能が良くてもこの見た目が問題なのではと反論したくなったが、それを我慢した。

今必要なのは作戦を確実に遂行するために必要な機材を、艦隊の出発時刻までにそろえる事なのだ。それが例え見た目のグロテスクさが原因で日の目を見なかった洗濯ユニットの改造品であってもだ。

タケルは黙って全ての新装備の承認欄にサインをした。ただし洗濯場の魔物改については梱包パッケージに著しく精神に不調をきたす恐れありと注意書きをする事と備考欄に書き込み、せめてこれを取り扱う兵士が心の準備をしてから開けることを祈るのであった。

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