第4話

4.

2555年4月2日(水) AM5:00 東北星系 惑星青森 拠点 十和田 居住スペース


ビー!ビー!ビー!

緊急招集のアラートがインプラントを介して、直接視覚と聴覚に働きかけ、覚醒を強制的に促す。

先日、頭に爆弾を取り付けるという、古臭いアニメのような改造手術を受けた後、疲れ果てた俺達は割り当てられた居室にて睡眠をとっていた。

昨日の今日だ、いくら何でも敵の方もそこまで迅速には動けまい、そう思っていたのだが、そのあては外れだったようだ。

隣のベッドを見ると、いつもはクールであまり表情を変えないコウメが眉間に皺をよせながら同じくベッドから身を起こしている。

拠点の個室は二人向けが多く設定されている、これは戦争参加者はその大半が、パートナーであるA級アンドロイドと一緒に参加しているからだ。

寝間着がわりにしていたTシャツとパンツを脱ぎ捨て、モスグリーンのハイネックレオタードにM1ジャンパーを着こむ。コウメも同じ服装だ。

廊下に出るとちょうとヨウヘイとサキも身支度を終えて部屋から出てきたところだった。

ヨウヘイはいつもの黒いTシャツにジャケット、迷彩ズボンといった王道のミリタリースタイルで、サキはネイビーブルーのサテンのトップスにホットパンツといういで立ちだ。

遥か昔、生まれた時の体から容姿を一切変更できなかった時代は、体のラインを必要以上に強調するファッションは破廉恥であるとされていたらしいが、容姿はおろか、性別まで自由にできる今の時代では体のラインを際立たせるファッションが主流だ。

4人そろってブリーフィングルームに入る。俺達はだいぶ早かった方らしい、ブリーフィングルームにはまだ数名しか人がいない。

部屋に備え付けられているフードプリンタを使い、コーヒーを生成する。フードプリンタは食べ物や飲み物であればなんでも作る事ができるが、このような場所にあるフードプリンタにはTPOにあわせて制限がされている。この部屋のフードプリンタは画面に表示されている飲み物以外は生成不可能のようだ。

コーヒーの味は酸味より苦みの方が強いブレンドだ、酸味が強いブレンドの方が好きな俺は少しだけ顔をしかめた。

そうしている間にもぞろぞろと人がブリーフィングルームにやってきて、最終的には30人近い人数となった。

そしてまるでタイミングを見計らったかのように、管理者がブリーフィングルームに入室してきた。

あいも変わらずひっつめ髪に眼鏡、時代がかったリクルートスーツだ。

管理者から作戦要綱と書かれたデータがインプラントに送られてきた。

ウィンドウを半透過モードにして、視界の脇に移動させ、俺達がこの作戦で関わる部分を強調表示するようインプラントに指示を送る。

「皆様お休み中の中、急な緊急招集を発令させた事をお許しください。早急に対処しなければならない問題が発生いたしました。」

立体投射型ディスプレイに惑星青森の民間人居住区であるメガロシティ青森とその周辺が映し出される。

「先日の攻撃はこの拠点、十和田を含む惑星青森内に存在する拠点6か所およびその周辺に展開する兵器群を目標とした軌道上爆撃が行われました。

それらの行動により、不明勢力は軍事施設、兵器群を攻撃の主目標としていると判断しておりましたが、先ほど敵艦隊より上陸部隊がメガロシティ青森に向けて発進したことを確認いたしました。

現在敵勢力はメガロシティ青森から南50km先の地点で集合、再編成を行っている最中です。

現在メガロシティ青森でもB級アンドロイド以下を緊急招集、敵の侵攻に備え防衛線を構築中ですが、メガロシティ単体の防衛能力ではそう長くは持ちこたえる事はできないでしょう。

偵察ドローンの映像によると敵はサイボーグ化歩兵を中心とし、それらの支援を目的とした我々の認識で言えば戦闘車両に近い地上兵器および、エアーシップに近い武装した航空兵器で構成されています。

サイボーグ兵士達の背格好に大きなばらつきがみられることから、敵は多種族による連合軍であるようです。」

偵察機からの空撮映像がズームアップされ、表示される。

俺達傭兵部隊のAFも趣味丸出し、アー〇ド・コア的なロボロボしいAFから、武〇神姫のような美少女型までバリエーション豊かだが、表示されるサイボーグ兵士達の姿にはそんな趣味的な要素は一切ない。どちらかというと一定の規格で作られた装備をむりやり取り付けられているように見える。

「どのような形であっても我々は日本人類ならびにA級アンドロイドの血を流させるわけにはまいりません。現在惑星青森の住民を避難させるための救助艦隊および、敵艦隊に対しての攻撃艦隊を編成中です。

敵がどのような理由で軍事施設から民間施設へ攻撃対象をシフトしたのか、不明点は多々ありますが、今は民間人の生命を守るのが先決です。皆様の健闘を期待します。」

ブリーフィングが終わるとブリーフィングルームにいた全員が皆一様に駆け足でパイロットスーツに着替えるべく更衣室へ走る。

俺達も同様に駆け足で更衣室に向かう。

先ほどのブリーフィングでは個々の部隊への指示は一切されていなかったが、それはインプラントに送られた作戦要綱にすべて書いてあり、先ほどのブリーフィングが行われている間に、俺達がブリーフィング終了後にやるべき事をチェック済みだからだ。

今回の作戦も簡単だ、メガロシティ青森を攻撃する敵勢力を全て殲滅する。ただそれだけだ。

ブリーフィングルームのある建物を出て、その脇に停めてある構内移動用カートに乗り込み、俺達が乗るエアーシップのハンガーへ向かう。

ふと横を見るとドロイド兵達がエアーシップに積み込まれているのが見えた。

金属製の円柱に人工筋肉の手足がついた、いつ見ても機能性優先の酷い見た目だ。

居住性の悪さに対して一切の文句の言わない彼らは、ハンガーに胴体が固定されると、手足を胴体に格納し、より効率よく運べる形になって積み込まれる。

人間大のサイズである敵サイボーグ兵の相手は彼らドロイド兵の担当であり、俺達の目標は敵戦闘車両と敵航空兵器の破壊だ。

エアーシップ搭載用のハンガーに固定された愛機のコクピットに乗り込む。

アルファ小隊の全員がコクピットに乗り込んだのを確認すると、ハンガーがエアーシップのコンテナ内へ移動し、そのままコンテナのハッチが閉まる。

俺達を乗せたエアーシップはメガロシティ青森へ侵攻する敵戦力を殲滅するべく、作戦区域へ出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る