第55話 旅へ

「この五人で……ですか」


 俺は一同を見回しながら言った。


 アスピリオス王は深くうなずいた。


「うむ。一人では難しいであろうからな。五人で力を合わせてこの任務を達成してくれ」


 Sランク級が二人も俺に同行するって……。


 アルフレッド=テスターの封印を解くのって、そんなに難しいことなのか?


「あの、アルフレッド=テスターが封印されているのは何処なのでしょうか?」


 するとこれまで明快であったアスピリオス王が、言い淀んだ。


 替わりにヨハンが、一つ咳払いをして俺の質問に答えた。


「それは判明していないんだ」


「え?なんで?」


「その書物には載っていないからさ」


「そんな馬鹿な!」


「馬鹿なと言いたくなる気持ちもわかるんだけど、それは写本なんだよ」


「写本……オリジナルは?」


「わからない。紛失したのか、それとも消失してしまったのか……ともかくその写本には記載漏れがあるというわけなんだ」


「それが、肝心のアルフレッド=テスターの封印場所というわけか」


「そう」

 

 ちょっと待ってくれよ。場所がわからないじゃ、動けないじゃないか。


「じゃあ何処へ向かえばいいかもわからない」


「そうだね。とりあえずはいくつかの候補地をしらみつぶしに探るしかない」


「候補地があるの?」


「ああ。アルフレッド=テスター所縁の地がいくつかある。誰だって封印されるとしたら、思い出の地を選ぶんじゃないかと思ってね」


「それ、ちょっと弱くない?」


 するとヨハンがあっさり認めた。


「弱いね。だけどそれ以外方法がない。闇雲に探し回ったって無理だし、なら所縁の地を訪ねる方がいくらかましだろ」


「この本に何かヒントはないの?」


「いくつか地名が出て来る。それが当面の行き先になるだろうね」


「いや、それ以外に……その何か示唆しているようなことは」


 ヨハンはマルコと顔を見合わせた。


 そして今度はマルコが言った。


「今のところはない。だけど、確かに僕らも疑問に思うところではあるんだ。何故写本を作る際に、肝心の封印場所を書き漏らしたのか。もしかしたらその写本は書き漏らしたのではなく、元のオリジナルにも書いていなかったのではないか。だとしたら、暗号のようにその中に隠して書き記されているのではないかとね」


 うん。その方が納得いく。


「この本が写本であるのは間違いないの?実はオリジナルだということは?」


「紙や本の製法から見て、写本で間違いないと思う」


「そうか……」


 だがそこで、俺は一つ疑問に思ったことがあった。

 それを素直に言ってみた。


「でも、それならなんでテスター侯爵家への申し送りを出来たの?だってみんなこの書物の事なんて、すっかり忘れていたんでしょ?」


 この俺の質問には、陛下が自ら答えてくれた。


「王家に古くから伝わる儀式の類いは、恐ろしいくらいに数限りなくあるのだ。そのために専門の儀典官が何十人もおり、それらを統べる儀典庁が存在するくらいにな。だがそこで働く儀典官たちも、その一つ一つの儀式が、元々なんのために始められたのかを知らずに執り行っていたりするのだ。テスター侯爵家への申し送りもその一つでな。この千年の間にそもそもの目的を見失いながらも、惰性で続けられていたに過ぎんのだよ」


 古い王家とはそういうものか。


 まあそうなんだろうな。だって千年だもんな。


 そりゃ途中で見失うのも仕方がないか。


「わかりました。では、そのアルフレッド=テスター所縁の地を訪ね、封印場所を探せばいいのですね?」


「うむ。この五人であれば達成できるものと思う。頼んだぞ」


 するとそれを合図にマルス将軍、暁のルードがスッと立ち上がった。


 俺も遅ればせながら立ち上がる。


 そして俺が立ち上がったのを確認するや、マルス将軍が言った。


「それでは陛下、行って参ります」


 マルス将軍が深々とお辞儀すると、暁のルード、ヨハンとマルコも深く頭を垂れた。


 俺も少しだけ遅れて頭を下げた。


「うむ。気をつけてな」


「はっ!」


 マルス将軍が威勢良く返事するや、くるっと踵を返した。


 そしてそのまま機敏な動きでもって出口へと向かった。


 その後に暁のルードも続いた。


 俺はちょっとだけ戸惑いながらもルードに続くと、その後にヨハンとマルコが続いた。


 そうして俺たち五人は陛下の密命を帯び、旅に出ることになるのであった。

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完結済『悪魔のなれの果て』 英雄の子孫だったはずがクラス無しと判定され、 失意の果てにダンジョンで出会った悪魔に魅入られてしまい、能力を分け与えられてしまったので、無双します。 マツヤマユタカ @torayanus

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