第54話 ヨハンとマルコ

「わたしがニムバスの封印を解いてしまったことは、何故わかったのですか?」


 俺の問いに、アスピリオス王は深くうなずいた。


「我が国の魔導師たちが、ニムバスが解き放たれたことを感知したのだ」


「そんなものを感知出来るのですか?」


「それほど巨大なエネルギーだったのだろう」


「ああ、確かに……レベル一万越えだし……」


「それにもう一人、レベル一万越えがいたはずだ」


「あ、エニグマ……やっぱエニグマも一万越えなのか……」


「巨大な二つのエネルギーに、もう一つ小ぶりではあるがレベル千越えの者がいた」


「小ぶり……」


「悪気があって言っているのではない。さすがにレベル一万越えが二人も揃っているところでは、小ぶりと称されるのも仕方あるまい」


 まあ確かにそうなんだけど……レベル千って、普通世界最強クラスなんだけどな……。


「そこで思いだした者たちがいたのだ。アルフレッド=テスターのこの書物の存在をな」


 ああ、そういうことか。


 まあそうだよな。


 いつ復活するかわからない以上は、ずっと意識し続けるなんて出来やしない。


 しかも千年経っている。誰も憶えていなくたって不思議じゃない。


 ていうかその魔導師、よく思い出したな。


 するとアスピリオス王が俺の心の内を読み透かしたかのように言った。


「その者たちは古文書を読むのが好きでな。それで憶えておったというわけだ」


「なるほど。よくわかりました。でも、わたしをよく敵だと認識しませんでしたね?王都に向かっているのは、その魔導師たちによって捕捉されているのでしょう?」


「はじめはわからなかった。だがレベル千越えならば対処は出来る。今王都には暁のルードをはじめ、レベル数百を数える者が数人おる。それに魔導師部隊もおる。総出で掛かれば負けはせぬよ」


 納得だ。隣に座るルードは、ひょうひょうとしているが相当の実力者だとわかっている。


 それに、はす向かいに座るマルス将軍も相当な手練れなのじゃないか?


 たぶんレベル百は優に越えていると思う。


 俺がちらとマルス将軍を見たからだろう。


 アスピリオス王がまたも俺の心を見透かしたように言った。


「マルスは軍人であり、冒険者ではないからランクは持っておらんが、お前のみ込んだとおり、レベル二百越えだ」


「やっぱり。マルス将軍、何気にやるんだな」


 するとマルスが苦笑いした。


「お前に言われてもな。お前の五分の一に過ぎん」


 マルスはそう謙遜すると、さらに言った。


「そういうわけで、お前のことを捕捉した魔導師たちは、その正体を見極めんと近づき、ジーク=テスター本人であると確認したというわけだ」


「近付いた?俺に?」


 するとアスピリオス王とマルス将軍が苦笑した。


 そして突然、アスピリオス王が奥の部屋に向かって呼びかけたのだった。


「入って参れ」


 すると奥の扉がスーッと音もなく開き、二人の男が部屋の中へと入ってきた。


 ……うん?どっかで見たような。


 男たちは静かに俺の座っているソファーのすぐ横に立つと、まずは陛下に深くお辞儀をした。


 そして俺に向き直ると、気安い感じで言ったのだった。


「やあ、昨日振りだね」


 昨日振り?

 

 あっ!思い出した!


「あの時レストランにいた二人組!隣のテーブルで、ルビノがテスター侯爵を叙任するっていう話をしていた二人だ!」

 

 すると二人組の内、年長と思われる者が愉快そうに口を開いた。


「そうそう。あの街でようやく君を視認出来てね。見たらテスター侯爵家のお坊ちゃんじゃないか。驚いてね。そこで思い出したんだよ。ニムバスの封印について書かれたその書物の存在を」


「じゃあテスター侯爵家の話をしたのは……」


 するともう一人が答えた。


「君が間違いなくジーク=テスター本人かどうかを確認したくてね。ちょっと芝居じみていたかと思うんだけど、テスター侯爵家の話をしてみたんだよ」


「そうだったのか……」


 すると年長者の方が背筋を伸ばして言った。


「改めて自己紹介させてもらうよ。僕はヨハン。こちらは弟のマルコ。共に王家に仕える魔導師さ」


 二人は笑みを浮かべて会釈した。


 俺も礼儀として返礼した。


「どうも、ジーク=テスターです。それにしても人が悪いなあ」


 すると兄のヨハンが言った。


「そうは言わないでくれよ。こちらとしてもドキドキだったんだから」


「なんでドキドキ?」


「だってそりゃあレベル千越え相手だからね。もし仮にジーク=テスターに化けているとかだったとしたら、恐怖だろ?」


「ああ、確かに。戦闘力はあまり高くなさそうだし」


「はっきり言うね。まあその通りだけど。でも一応王室御用達の魔導師だし、それなりには強いよ。それに古文書にも詳しいしね」


「そうみたいだね。おかげで助かったよ。あの小芝居のおかげで儀式に間に合ったしね」


 すると今度は変わって弟のマルコが答えた。


「だろ?感謝してくれよ。でも小芝居はよけいだよ」


 そう言うとその場に居た者たち、全員が笑った。


 そしてひとしきり笑い終えると、アスピリオス王が言ったのだった。


「ジークよ、この場のわたしを除いたこの五人で旅をせよ。そして必ずアルフレッド=テスターの封印を解き、ニムバスを再び封印するのだ」

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