第51話 暁のルード
「ぐっ!……やはり……お主、ニムバスからその魔剣を授かったというのか?」
授かったっていうか……。何て説明すれば……。
まあいいか。面倒臭いし。
「まあそんなところ」
「ぐふっ!……」
レジルは俺の回答によほど衝撃を受けたのか、血反吐を吐き出した。
いや、いくら何でも俺の返答で内臓がやられるわけがない。
単にさっき斬った鼻から出た血が口腔内に溜まっていただけか。
ま、ようはタイミングだね。
そんなどうでもいいようなことを考えていると、レジルが焦った様子でつぶやいた。
「なんてことだ……せっかく……くそっ!」
どうやら戦意喪失しているらしいな。
なら……。
「おい、お前、その身体から抜け出たら見逃してやっても良いぞ」
レジルが懐疑的な目を俺に向ける。
「本当だ。俺は別段、お前を退治するつもりでここにいるわけじゃない。単に偶然出くわしただけだ」
「本当だろうな?」
「ああ。ただし、聞きたいことがある」
再びレジルが懐疑的な眼差しで俺を見つめる。
「……なんだ?」
「何故お前は召喚されたんだ?普通お前みたいなでかぶつを召喚なんて出来ないだろう」
するとレジルが俺の顔を見つめ、様子を探りながら答えた。
「俺固有の魔方陣があれば出来ることだ」
「固有の魔方陣……それさえ展開出来れば召喚できると?」
「そうだ。どうやって手に入れたのかは知らんがな」
魔方陣……。確かに魔方陣が光り輝いた後にこいつは現れた。
あの魔方陣はルビノが展開したのか?
いや、ルビノはバーサーカー状態だった。
ならばベノンか?
だがベノンはこいつが召喚されると、慌てふためいていた。
じゃあ誰が?
いや、闘いの前にベノンたちがにやついていたのが気になる。
ならばやはりベノンたちが魔方陣を展開したのでは?
ただし、召喚したレジルが思っていたよりもあまりにも巨大だったため、慌てふためいたのだとしたら?
その線が妥当か……。
となると、ベノンたちは誰かに騙された?
ちっ!何かもやっとするな。
もしかしたらベノンがダンジョンで俺を亡き者にしようとしたのも、関係あるか?
たぶん……ある。
おそらくベノンの背後に黒幕がいる。
そいつが何らかの理由で俺を亡き者にしたがっているんだ。
なるほどね。そういうことか。
「いいだろう。消え失せろ。その身体を本来の持ち主に返せ」
俺が吐き捨てるように言うと、レジルはゆっくりとうなずいた。
すると、少しずつ巨大なレジルの身体が収縮しはじめた。
と同時に身体から黒い靄が湧き出す。
そうしてゆっくりと静かにレジルは小さくなっていき、ついにはルビノの姿が現れだした。
「ちっ!こいつを助けたかったわけじゃないんだけどな……」
俺はルビノの嫌みったらしいむかつく顔立ちを見て、思わず吐き捨てるように言った。
するとルビノの口がゆっくりと開いた。
「これでいいのだな?ジーク=テスターよ」
「ああ。とっとと消えろよ。ぶちのめすぞ」
「わかった。では、さらばだ」
レジルと思われる意識がスーッと消えたようだ。
途端にルビノの身体がぐしゃんと石床の上に崩れ落ちた。
「ぐ……うぅ……」
ルビノのうめき声が響く。
どうやら元通りになったらしい。
不本意だ。大いに不本意だ。
俺は正気のこいつをぶちのめしたかったのに。
ああ、腹立たしい。
その時、俺の左手側から、突然声が上がった。
「勝者、ジーク=テスター!」
え?
俺が左を向くと、裁定者が高々と右手を挙げて、俺の勝利を宣言していた。
裁定者……まだいたんだ。
「ええと……どうも」
俺はなんとも言えない気分だったため、うまく言葉が出なかった。
すると裁定者がゆっくりと俺に歩み寄ってきた。
「お見事でした」
「ああ、どうも。ていうか、よく逃げずにいましたね?」
「ええ。こう見えてもわたし、Sランク冒険者ですので」
Sランク。こりゃ驚いた。
なるほど、だったら逃げずにいられるか。
「お名前伺ってもいいですか?」
「もちろん!わたしはルードと申します」
ルード!暁のルードか!
俺でも知っている、世界最強クラスの冒険者だ。
俺が驚き、言葉を紡げないで居ると、先にルードが口を開いた。
「驚きましたよ。レベル千を超えているとか」
しまった。陛下に隠せって言われてたのに。
「あ……いや、それは……」
だがルードは笑みを浮かべて、さらに言ったのだった。
「それならわたしよりも強いですね」
「いやあ……それは……どうでしょう……」
するとルードが大きく口を開けて、大いに笑った。
「大丈夫ですよ、心配しなくても。国王陛下から能力を隠せと言われているのでしょう?そのことは陛下からわたしも聞いています」
なんだ~。それならそうと、早く言ってよ~。
焦っちゃったじゃないか。
するとまたも俺より先にルードが言った。
「何はともあれ、陛下の元へ参りましょう。それは聞いてますよね?」
「あ、はい。闘いが終わったら参内するようにと言われています」
「はい。では参りましょう」
ルードはそう言うと、さっと踵を返して歩き出した。
俺は思わずそこで、ぐしゃっとつぶれて寝ているルビノに一瞥をくれた。
ふん、どうせまた俺にちょっかいかけてくるだろうけど、その時こそは思う存分ぶちのめしてやるぜ。
俺はフンッと鼻息荒く首を振ると、暁のルードの後を追って闘技場を後にするのだった。
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