第52話 参内
「陛下、お連れいたしました」
王の間に入るや、暁のルードが深く腰を折り、平伏しながら言った。
俺も少し遅れて深くお辞儀をした。
「うむ。大義であった」
王の間は陛下の私的な部屋であり、中にいるのは俺と暁のルード、そして陛下とその側に控えるマルス将軍の四人だけであった。
「そこに掛けよ」
陛下は王の間の奥にある向かい合ったソファーの手前側を、俺たちに指し示した。
俺とルードはうなずき合い、指し示された手前側のソファーに座った。
陛下もマルス将軍と共に、奥側のソファーに座った。
すると開口一番、陛下はルードに向かって言ったのだった。
「悪魔が召喚されたそうだな?」
ルードはかしこまって答えた。
「はい。よもやの事態でありましたが、こちらのジーク殿が上手く処理してくれました」
「そうか……」
アスピリオス王はそうつぶやくと、何か考え込んだ。
すると横に座ったマルス将軍が、見かねたように口を添えた。
「陛下、あの件、お話しされるとよろしいかと」
するとアスピリオス王は、はたと思い出したように言った。
「うむ、そうであった。ジークよ、お前に伝えておくことがあるのだ」
来た。なんだろうか。
「ジーク、お主の出現は予言されておったのだ」
予言?
俺は狐につままれたような顔になったと思う。
それくらい予想外なことだった。
「驚くのも無理はない。このことはここに居る者以外では数人しか知らぬことだからな」
いや、人数の問題じゃないんだけど。
予言なんてものがあることと、それをこの場の人たちが信じているらしいことが信じられないんだけど。
だが無論、そんなことはおくびにも出せない。
俺は神妙な顔つきをして、陛下の話の続きに耳を傾けた。
「予言には驚くべき力を持った者が現れると書いてあった」
それが俺ね。まあレベル千越えだから当然か。
ていうか書いてあったってことは、予言者がいるわけじゃなくて、予言の書とでも呼ぶべきものがあるってことか。
「そして、その驚くべき力とは……」
アスピリオス王はそこで一旦言葉を句切り、俺の眼をジッと見つめてから次なる言葉を紡いだのであった。
「悪魔の力だとな」
げっ!マジか。大当たりだ。
予言の書、恐るべし。
ここは一つ、何か言い訳でもしておいた方がいいのだろうか。
でも陛下には俺のステータス画面を見られているしな。
そこにははっきりと悪魔王の分身という称号名が書いてあったはずだ。
それを陛下が見逃しているはずがない。
ここは一つ、様子を見よう。
俺はここまでのことをマッハで考えると、押し黙った。
すると陛下が俺の顔をのぞき込むように見つめた。
「ジークよ、お主が如何にしてその力を得たか、話してもらおうか」
俺が如何にしてこの力を手に入れたかは、今は問うまいとか大聖堂では言ってなかったっけ?
あ、それはあの場ではってことか。
ううん、どうしようか。
まあ色々とバレていることだし、隠していてもしょうがないか。
俺は腹をくくると、ニムバスと出会った経緯を事細かに説明した。
陛下たちは俺の話に食い入るように聞き入った。
そして聞き終えるや、アスピリオス王は難しい顔をして顎に湛えた立派な髭をゆるやかに左手でさすったのだった。
「ふうむ、ニムバスか……」
俺はその言い方に違和感を持った。
「陛下はもしや、ニムバスという名に心当たりがあるのですか?」
俺の問いに、陛下は静かにうなずいた。
「ある。王家に伝わる伝承に、その名が記載されておる」
「王家の伝承にですか?そこには何と?」
「テスター侯爵家の祖であるアルフレッド=テスターの兄であり、悪魔に魅入られ、魔界に落ちた稀代の大魔導師であったようだ」
テスター侯爵家を築いた開祖アルフレッド=テスターに兄がいたなんて初耳だ。
しかもそれがあのニムバスだなんて。
俺が唖然としていると、陛下がさらに言った。
「ニムバスは魔界に落ちた後、しばらくして現世に舞い戻り、恐るべき災厄をもたらしたという」
恐るべき災厄……まずい。俺はそいつをまた解き放ってしまった。
おそらく俺の顔は青ざめてでもいたのだろう。
陛下が俺を安心させるように言った。
「ニムバスはこの世界に災厄をもたらしたが、お前の祖であるアルフレッドが立ち上がり、奴を封印した。おそらくそれがお前が行ったダンジョンだったのだろう」
弟であるアルフレッド=テスターが、兄であるニムバスを封印したのか。
「そしてその功をもって、アルフレッド=テスターは侯爵に叙任されたのだ」
そもそもは兄の不始末を弟が処理しただけに思えるけど……。
それほどニムバスのもたらした災厄がひどかったってことか。
やっぱりあいつ、ヤバい奴だったんだな。
そんなあいつを解き放った俺は……どうなる?
すると陛下が俺の顔を真っ正面から見つめながら言ったのだった。
「ジーク=テスターよ、お主にはニムバス=テスターを封印する義務がある。わかるな?」
……ああ。やっぱり来たか。
俺は、国王陛下からの死刑宣告にも似た聞きたくもない言葉を聞き、ガックリと首を落としたのだった。
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