第46話 決闘

 大歓声が轟く中、俺は眼下のルビノと睨み合った。


 すると傍らのアスピリオス王が囁いた。


「決闘が終わり次第、王宮へ参内せよ。よいな?」


 王宮へ?


 俺がいぶかしい表情を浮かべていると、アスピリオス王が言った。


「お前に見せるものがある」


 俺に見せるもの……なんだろうか?


 まあ、なにはともあれ陛下が仰っているんだ。断わる理由はない。


「わかりました。参内いたします」


「うむ。ではな」


 アスピリオス王はそう言うと、さっと踵を返した。


「あ、決闘はご覧には……」


 するとアスピリオス王はスッと振り返り、言った。


「見るつもりはない」


「あ、そうですか」


 俺はほんの少しニヤッとしたらしい。


 アスピリオス王にすかさず咎められた。


「わたしが見ないからといって、やり過ぎるなよ。いいな?」


 アスピリオス王は俺に念を押すも、まだ足りないと思ったのか、先程の将軍を手招いた。


「マルス将軍、わたしに替わって決闘を見届け、ジークがやり過ぎないよう見張れ」


 マルス将軍は敬礼をしつつ、勢いよく返事した。


「ははっ!」


「そして決闘が終わり次第、ジークと共に参内せよ。よいな?」


「かしこまりましてございます!」


 アスピリオス王は最後にニヤリと俺に笑みを残し、悠然と去って行ったのだった。


 その背を見送るや、マルス将軍が怪訝な表情を浮かべながら言ったのだった。


「……そのレベルは一体……いや、それはともかく、ちゃんと手加減してくれよ?」


 俺は肩をすぼめながら答えた。


「了解。俺も陛下に怒られたくはないからね。でも、そこそこギッタンギッタンにするのはいいよね?」


 なんといってもルビノは仇敵だ。


 軽く殴って終わりってんじゃ、俺の気持ちが治まらない。


 するとマルス将軍がうなずいた。


「先程のやり取りを聞けば、ベノン親子はお前の命を狙った憎き敵だろうからな。そこそこのギッタンギッタンくらいなら構わないさ」


「お!話せるね?」


「まあな」


「よし、それならやる気が出てきたぜ!」


 俺はそう言うと、先程からずっと睨み付けてきているルビノを壇上から睨み返した。

 

 しばしの間睨み合うっていると、エドゥワルドがアリアスを伴って壇上に上がってきた。


「ジーク、大丈夫か?ドラゴンキラーの称号を得たということだが、どうやって?」


 俺はエドゥワルドに視線を移し、言った。


「……ああ、まあ……それは話すと長くなるな……後でちゃんと話すよ」


「わかった。だがルビノの奴はダークナイトだ。一応上級職だし、気をつけろよ」


 まったく問題ない。クラスとか、もうどうでもいいレベルだから。


 でもそれについては後だ。


「わかったよ。油断はしない」


 するとアリアスが心配げに俺を見つめた。


「お兄ちゃん、本当に大丈夫?」


「大丈夫だよ。ドラゴンキラーって凄いんだぜ?」


「うん。それはエドゥワルドに聞いた。でも……」


「大丈夫だって。何も心配いらないよ。お兄ちゃんを信じろ」


 アリアスは俺の力強い言葉でだいぶホッとした様子だった。


 俺は満足げにうなずくと、二人に向かって言ったのだった。


「決着をつけてくるよ」


 俺の言葉に二人はそれぞれの強さでうなずいた。

 

 エドゥワルドは力強く、アリアスは弱々しくもしっかりとうなずいてくれた。


 よし、ならばいざ決闘だ。


 ルビノよ、そこそこだけどギッタンギッタンにしてやるぜ!


 俺は眼下のルビノを睨み付け、気合いを入れるのであった。





「それではこれより、ジーク=テスターとルビノ=ベノンによる決闘を執り行う!」


 決闘の裁定者が、軍事演習場に詰めかけた大観衆に高らかに告げた。


「凄い数だな……」


 俺は演習場を埋め尽くす、数千人の観衆に対して呆れ気味に言った。


 すると俺のセコンドについたエドゥワルドが言う。


「みんな娯楽に飢えているのさ。決闘の噂を聞きつけて、庶民も大量に押しかけているんだ」


「俺は見世物かよ……」


「仕方がないだろう。決闘なんて、中々行われるものじゃないからな」


「まあ確かに。俺も決闘なんて見たことないし」


「だろ?しかもこれは国王陛下の裁定によって決まった決闘であり、我が国有数の大貴族の後継を決める闘いだ。皆が興奮して押しかけるのは当然だろう」


「まあいいや。見世物だろうとなんだろうと、俺はルビノをたたきのめせればそれでいいさ」


「その意気だ。だが決して油断するなよ?」


「わかってる」


 俺は力強くそう言うと、闘技場を挟んだ反対側に陣取るルビノ陣営を睨みつけた。


「ちっ!ルビノのセコンドにダスティとその一味が付いてやがる」


「お前を殺しかけた連中か」


「ああ。本当だったら、あいつらもボッコボコにしてやりたいんだけどな」


 するとエドゥワルドが俺の肩をしっかりと掴んだ。


「あいつらに手を出したらダメだぜ。それをやったら私闘になる。あの連中の裁定は後日だ。今回の決闘は、あくまでルビノとのテスター侯爵家をどちらが継ぐかという闘いなんだからな」


「わかってるさ。今は我慢だ。いずれあいつらとの決着は付けてやるけどな」


「それでいい」


 するとエドゥワルドと同じく俺のセコンドに付いてくれたマルス将軍が、言った。


「念を押すわけじゃないが、やりすぎるなよ?」


 俺は無言でうなずいた。


 マルス将軍はそれでも少し心配げであったが、静かに一歩後ろに下がった。


「じゃあがんばれよ」


 エドゥワルドも最後の言葉を俺に掛け、後ろに下がる。


 いよいよだ。いよいよ奴との決着だ。


 まだダスティたちや、ベノンは残っているが、ひとまずこいつをぶちのめして腹の虫を収めたい。


 俺はゆっくりと首を左右に振ってコキコキと音を鳴らしながら、闘技場の舞台に上ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る