第47話 突撃
「それでは両者、中央へ!」
裁定者の声が闘技場内に響き渡ると、周りを取り囲む簡易スタンドから大歓声が降って湧いた。
この闘技場は軍事演習場内に設けられており、普段は一般に開放されることはないが、このように決闘が行われる際には使用され、この闘技場だけは一般の入場も許可されることがあった。
俺は簡易スタンドを埋め尽くす大観衆を眺めながらゆっくりと歩き、舞台中央へと進んだ。
目の前には、俺の顔を親の敵のように睨み付けるルビノがいる。
その腰には細身のレイピアをぶら下げている。
ダークナイトは闇の力を纏った剣で戦うことが多いと聞いている。
ちなみに俺は手ぶらだ。
武闘神の称号があるので剣はもちろんむちゃくちゃ使えるが、たぶん刀を合わせた途端、たたき折ってしまいそうだから持ってこなかった。
剣を折った途端に、そこまで!とか止められたらかなわないからな。
するとルビノが怒りからかワナワナと身体を震わせながら、口を開いた。
「よく逃げずにここへ来たな。俺はてっきりどこぞに逃げ隠れするものと思っていたぞ。この役立たずのクラス無しが!」
ふん、まだクラス無しがどうとか言ってやがる。
でもまあ、一応礼儀として相手してやるか。
「お前こそよく逃げずに来たな。たかがダークナイトの分際で」
ルビノのクラスは上級職のダークナイトだ。
だが今の俺にとっては、恐るるに足りずだ。
その気持ちが表に出たのか、俺は思わずニヤリと笑ってしまった。
するとルビノが馬鹿にされたとでも思ったのか、さらにワナワナと震えながら怒りの形相で言った。
「たかがだと?お前なんかクラス無しだろうが!」
俺は肩をすぼめて言い返した。
「クラスとかどうでもいいんだよ。お前、ドラゴンキラーの称号がどれだけのものかわからないのか?」
するとルビノが鼻でせせら笑った。
「ふん、どうせ別の高ランクパーティーを雇って、ドラゴンを瀕死の状態にさせておいてから、お前がとどめを刺すっていう卑怯な手を使ったんだろ?お前の手口はダスティたちから聞いているぞ。馬鹿めが!」
「あのさあ、その手口で百匹もドラゴンを倒せると本気で思っているのか?」
「ふん、どうせ何か裏のやり方か何かがあるのだろうよ!」
ルビノは吐き捨てるように言った。
「あっそ。まあそう思うなら勝手にしな。どうせ痛い目見るのはそっちだからな」
「何を!貴様なんかにこのダークナイトの俺様がやられるものか!必ず貴様をあの世に送ってやる!」
ちっ!
何があの世に送ってやるだ。
本当だったら俺もお前をあの世に送ってやりたいところなんだぜ。
でも国王陛下に止められちまっているからな。
命だけは取らないでおいてやるよ。
その時、裁定者が俺たちの会話が途切れたのを確認し、言った。
「両者、準備はよいか?」
俺もルビノも無言でうなずいた。
すると裁定者が大きく息を吸い込み、周囲に向かって大音声で張り上げた。
「それではこれより決闘を開始する!ルールは簡単、武器を使おうが、魔法を駆使しようが一向に構わん。ただし一対一で正々堂々と戦うこと。助太刀の類いは許されん!双方共によいな!」
裁定者は最後の方は両セコンドに向かって言った。
俺の陣営は大いにうなずいたようだが、ルビノの陣営は何やら不敵に笑っていた。
怪しいな。何かやる気か?
だがなんでもいいさ。お前等が何をやってこようが、俺はビクともしない。
正々堂々、戦ってやるさ。
「それでは両者、一旦下がられよ」
俺は言われるがまま、前を向いたまま後ろに下がっていった。
対するルビノも同様だ。俺の顔をしつこく睨み付けている。
そして両者の間隔が十メートルほども開いたとき、裁定者が右手を高々と挙げた。
俺はそこでピタッと立ち止まり、集中力を高めた。
ルビノも同じだ。
裁定者は俺たちの顔を交互に見ると、ゆっくりと口を開いたのだった。
「それでは、はじめ!」
ついに闘いのゴングが鳴った!
ルビノが腰をかがめて剣を抜き放ち、早速臨戦態勢に入る。
「このダークナイトの力を思い知れ!」
ルビノが言うや、剣を持った右手から黒い靄のようなものが突如として噴き上がった。
靄は右手からゆっくりと剣の柄、次いで鍔を黒く染めたかと思うと、徐々に刀身へと移っていった。
へえ、これがダークナイトの闇の力か。
俺は微動だにせず、靄が刀身をすべて黒く塗りつぶすのを見守っていた。
すると、俺が何もせずにただボーッと見ているのに気付いたルビノが、怒りの形相で言ったのだった。
「貴様、やる気があるのか!」
俺は軽く首を横に倒し、笑顔を浮かべて言ってやった。
「やる気はあるよ。ただ、ダークナイトっていうのがどんなものなのか見てやろうと思ってさ」
「なんだとっ!余裕ぶりおって……吠え面かかせてやる!」
ルビノは後ろ足で闘技場の石床を力強く蹴り、一気に突進を仕掛けて俺との距離を瞬時に詰めてきた。
だが俺も瞬時に後ろに飛び退り、ルビノの闇の力を纏った横殴りの渾身の斬撃を難なく躱した。
「ちっ!」
ルビノはまさか躱されると思っていなかったのか、驚きと共に悔しさの滲んだ舌打ちをした。
俺はルビノから五メートルほどの距離を取って、笑顔を見せた。
「なかなかやるじゃん」
ルビノは怒りに顔を紅潮させながら、再び石床を蹴って突進を仕掛けてきた。
俺は今度は後ろではなく、右へ飛んだ。
軽く石床を蹴るだけで、五メートルは飛べる。
俺はまたもルビノの渾身の斬撃を、余裕の顔で躱した。
だがルビノは諦めず、方向転換して俺を追ってきた。
俺は軽いステップを踏むようにして飛び、ルビノの繰り出す斬撃を次々に躱していった。
それが二分ほども続いたろうか、ルビノの息が上がった。
もの凄い量の汗が顔面をしとどに濡らし、肩を激しく上下させて荒く息をするようになった。
「もう限界か?」
俺が首をコキコキと左右に何度も倒しながら余裕の表情で言うと、ルビノの顔は最高潮に赤く染め上げられた。
「……貴様……絶対……ぶち殺す……」
ルビノは息が上がっているため、途切れ途切れになりながら呪詛の言葉を吐いた。
そして大きく息を吸い込むとピタリと呼吸を止め、ルビノにとっておそらく最後の突撃を敢行するのであった。
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