第36話 ディアボラリス
「まずい!まずいまずい!」
俺は馬に乗って駆け抜けながら、自らが置かれた最悪の状況を呪った。
すでに街は出て、街道を全速力で王都目指して駆けている。
だが王都までは、馬で二日の距離があった。
「くそっ!ここからじゃまだだいぶ遠い!どうしたってたった一日じゃ、王都まで行けやしない!」
俺はそれでも出来ることと言えば、今は馬を駆ることだけと言わんばかりに手綱をしごいた。
「何か方法はないか」
俺は必死になって頭を巡らし、考えた。
「エドゥワルドに何とか連絡して式を遅らせるとか出来ないだろうか……」
だが俺は馬の手綱を握りながら頭を振った。
「いや、エドゥワルドのことだ。きっと頑張って粘ってくれたはず。でもそれでもいつかは限界が来る。それが明日なんだ。ならば、ただ俺の無事を知らせたところで意味はない。俺が無事であることと同時に、侯爵家を継ぐ資格を持ち合わせていることを証明しなければいけないんだ。そのためには俺は王都にたどり着かなければならない。なんとしても儀式が終わる明日までに!」
俺は冷静に状況を分析し、答えを出した。
だがその答えは、今の俺には到底不可能なものだった。
物理的に遠い。
これを覆す方法はない。
残念ながら俺がどんなに馬を速く走らせたところで無理だ。
何をどうしたって、無理なものは無理だった。
いや、待てよ。
「ステータス!」
俺はいきなり手綱を引いて馬に急ブレーキをかけた。
そして馬がいななきながらその場に立ち止まるや、俺は飛び降りながらステータス画面を開いてみた。
そしてステータス画面が開くと同時に言ったのだった。
「魔法検索!」
するとステータス画面は瞬時に、魔法検索画面に切り替わった。
「何かないか?……通常よりも早く移動する手段は……」
俺は魔法検索画面を指で操り、この状況を打開する何らかの方法がないかと必死の思いで探った。
「あった!これならいけるかも!」
それは闇魔法の欄にあった。
それが少し心配ではあったものの、他に方法がないならやるしかない。
俺は決意を込めて空を見上げた。
そして現在の最悪の状況を打破するであろう魔法の名を、唱えたのだった。
「ディアボラリス!」
瞬間、俺の背中に強烈な痛みが走った。
それは肌が切り裂かれそうな程であり、俺は思わず口からうめき声を上げながら膝を屈して地面に這いつくばった。
「ぐっ!」
するとその瞬間、本当に俺の背中が裂けたらしい。
ビチッという嫌な音を立てて、背中が裂けたのだと思う。
そしてその傷口から、噴水の如き大量の血が噴き上がったのだった。
俺は四つん這いの姿勢から首を巡らし、勢いよく吹き上がる己の血を見た。
何だこれは?
俺はこんな魔法を望んでいたんじゃない。
俺が望んでいたのは……。
いや、待てよ……この形は……。
俺は噴水のように勢いよく吹き上がる血を、まじまじと見つめた。
これは……翼か?
そうか、これは血で出来た翼だ。
そう思った俺は、痛みに耐えながらも身体を起こした。
そしてゆっくりと膝に手をやりながら一気に立ち上がった。
「なるほどな。悪魔の翼は、血の翼かよ」
俺はひとしきり納得すると、肺腑の中の息を一気に吐き出した。
そして次に勢いよく空気を吸い込むや、心で念じたのだった。
飛べ!
すると吹き上がる血の翼がゆっくりとうねりはじめた。
そして辺りの空気と衝突しながら重低音を奏でる。
ブオ……ブオ……。
翼はゆっくりと揺れながら、次第に羽ばたきはじめた。
ブオン…ブオン…ブォンブォンブォンブォン。
街道の砂が宙を舞う。
道ばたの雑草が激しく揺れ動く。
先程まで乗っていた馬は、とうの昔に異変を察知して逃げていってしまっている。
ヴォンヴォンヴォンヴォン。
羽ばたきの回転数が上がり、周囲の風圧は凄まじいものとなった。
俺は必死に身体のバランスを取り、倒れないように踏ん張った。
「行っけーーーーー!!!」
その瞬間、俺の足が地面から離れた。
そしてゆっくり、静かに視線が上がっていく。
俺は変わりゆく視点に驚きながら、愉悦の笑みを浮かべた。
「凄い、本当に飛んでいる。これなら、間に合うかもしれない!」
俺は地上百メートルほどの高さまで一気に上がると、方向転換をして一躍王都を目指すのであった。
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