真夜中に出会った不思議な女の子
仁志隆生
真夜中に出会った不思議な女の子
寒さも和らいだある日の真夜中。
静かな住宅街の中をふらつきながら歩く俺。
「久しぶりの飲み会だったもんだから、つい飲みすぎた。う……」
吐き気がしたので電柱の下で蹲った。
「う……ん?」
誰かが俺の背中を擦ってくれてる?
顔を上げてみると、ショートカットで眼鏡をかけている、女子高生くらいかなって女の子がいた。
「大丈夫? お水飲む?」
そう言って彼女はミネラルウォーターのペットボトルを差し出した。
「あ、ありがと」
俺はそれを受け取り、ゆっくり半分程飲んだ後で一息ついた。
その後俺はしばらくそこに屈んでいたが、彼女はじっと俺を見つめていた。
ってこのままじゃこの子、ずっと帰らないかも。
「あ、ほんとありがとね。俺はもう大丈夫だから、君も早く家に帰りなさい」
俺はちょっと無理して立ち上がって言ったのだが、
「ううん、家まで着いていく」
彼女は頭を振ってそんな事を言った。
「あのね、もう真夜中なんだから」
「パパ、酔っぱらって階段から落ちて……わたしが生まれる前に死んじゃった」
「え?」
「だから着いていく。死なせない」
彼女の目が少し潤んでいた。
……ああ、俺と自分の父親がダブったのか。
それで同じ目に合わないように、か。
「うん、気をつけるから心配しないで。さ」
「ダメ、絶対着いていく。ママが泣いちゃうもん」
その目から涙が流れ、頬をつたっていた。
……よほど重ね合わてるんだな。
だが俺には奥さんどころか彼女すら、生まれてこの方いないよ。
とは言わなかった。
「けど着いていくって言ってもね、君が帰るの遅くなるだろ」
「いいの、すぐ帰れるから。さ、行こ」
そう言って彼女は俺の手を取った。
道を歩いている間、彼女はずっと俺の手を握っていた。
時折俺を見るその顔はどこか嬉しそうだった。
もしかするとこの子の父親って今の俺くらいだったのかも。
だからかな?
それから十分程で、何事もなく自宅であるアパートの前に着いた。
「ありがとね。もう大丈夫だから」
「部屋は二階なんでしょ。ドアの前まで行く」
彼女は俺の手を握ったまま言う。
ってあれ? 俺、部屋が二階だって言ったっけ?
まだ酔いは覚めてないし、覚えてないだけかな?
そして、部屋の前に着いた。
「よかった。ちゃんと帰ってくれた」
ちょっと目を潤ませて嬉しそうに言う彼女。
これで気が済んだかな。
「ありがとね。さてと、君んちってほんとにすぐ帰れる距離なの? もしあれならタクシー呼ぶけど」
「いい。それよりちゃんとママを口説いてね。なかなか告白できなくて悩んでるんだから」
「は?」
「というか、毎日顔合わせてるんだから気づけ。鈍感」
「あの、何言ってるの?」
「そしてわたしを生まれさせてね……パパ」
彼女はそう言った後……消えた。
まるで最初から誰もいなかったかのように。
「……えと、え?」
なんだったんだ、今のは?
酔い過ぎて幻覚でも見てたのか?
と思ったが、さっき貰ったペットボトルが上着のポケットに。
えっと、俺の事をパパって、もしかしてあの子は未来から来た?
いやそんな訳ない。じゃあ何なんだ?
てか毎日顔合わせてる女性なんて一人しかいないが……アレはないだろ。
……。
❀❀❀
「とまあ、こんな事があったんだ」
彼女は何も言わない。
まあ信じられんわなと思った時、彼女が話しだした。
「ずっと前にね、不思議な夢を見たことがあるの」
「ん? どんな夢?」
「夢の中であなたは亡くなってた。酔って階段から落ちて、頭を打ったとかで」
「え?」
「そして私は、あなたのお墓の前でずっと泣いていたの。で、気がつくとあなたが今言ったような女の子がそこにいて『わたしが助けに行く』って言ったの。そして夢はそこで覚めたわ」
「そ、そうなの?」
「ええ。もしかするとあれって夢じゃなくて、本当の事だったのかも……」
彼女がそう言った。
そうか、あの子がそれを変えに来てくれたのか。
「ところで、誰がアレなの?」
彼女が俺を睨む。
「うっ……だって俺より六つも上だし、あの時は毎日怒鳴られてたし」
「そりゃあなたに早く一人前になってほしかったからよ」
「さいでっか。まあその御蔭でなれましたよ。課長」
「もう、家でそう呼ばないでよ。この子が真似したらどうするの?」
そう言って彼女は自分のお腹を擦った。
「え?」
「ふふ、また会えるわね」
「あ、ああ……え」
彼女の後ろに、満面の笑みを浮かべたあの子がいたような気がした。
真夜中に出会った不思議な女の子 仁志隆生 @ryuseienbu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
見た覚えのないもの/仁志隆生
★12 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます