ボクが真夜中まで待たなくちゃいけない理由(KAC202210)

つとむュー

ボクが真夜中まで待たなくちゃいけない理由

「ムハハハハハ、地獄に堕ちろ!」


 世界を滅ぼしてやる。

 ボクのこと馬鹿にした報いを受けるといい。

 そんな強い意志を持って、ボクはボタンを押す――


「ちょっと待った―!!!」

「なんじゃ!?」


 直前で秘書に止められた。

 彼女はボタンを押そうとするボクの手を、がっちり押さえている。


「今はまだ夜です。ボタンを押すのは真夜中までお待ち下さい!」

「なんでじゃ!? ボクは今押したいんじゃ!」

「だってそのボタンで歴史を変えようとしているんでしょ?」


 その言葉ではっと我に返る。

 秘書はボクがやろうとしていること、その重大性をちゃんと理解している。

 だったら、話を聞いてあげてもいいんじゃないか――と。


「その通りじゃ」

「だったら日付が重要なんです」


 日付?

 それがどう重要なんじゃ?


「この間、どこかの長が言っておりました。十二月七日を思い出せリメンバー、と」


 十二月七日?

 それって、何か歴史的な日だったっけ?


「ほら、やっぱりピンと来ないでしょ? なぜなら当事者にとっては十二月八日だったからなんです」


 ふむふむ。

 つまり、時間を選ばないと日付が変わっちゃうってことなのか?


「あの爆弾の日も同じです。八月六日や九日を忘れるなノーモアって言っても、相手はポカンなのです。だって当事者にとっては八月五日や八日だったのですから」

「ならどうすればいいんじゃ!?」

「だからさっき言った通りですよ。真夜中まで待ちましょ」

「イヤじゃイヤじゃ。ボクは今、ボタンを押したいんじゃ!」

「だって歴史を変えるボタンなんでしょ?」


 そうだ、このボタンは世界を変える。

 だったら、ちゃんと人々に覚えてもらえるような歴史になるべきなんだ。


「わかったよ……いじわる……」

「いじわるって、この場所にお城を建てたのは魔王様じゃないですか? フィジーやトンガのような南の島がいいって言うから」

「わかった、わかったよ。もういじめないでよぅ。真夜中まで起きてるから……」


 こうしてボクは待った。歴史が世界のどこでも同じ日付で刻まれる真夜中まで。

 そして眠い目をこすりながらボタンを押したんだ。

 勇者への宣戦布告のボタンを。


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