第295話 サマエル降臨の器
「撤退!撤退ー!!」
「早くこの帝都から逃げろ!ここにとどまったらミイラになるぞ!!」
レジスタンスたちや元兵士たちは、一斉に帝都から逃げ出す民衆たちの避難指示をしている。民衆たちには何が起こっているかよくわからない状況ではあるが、彼らも本能的にここにいると死んでしまうというのは察知しているのだろう。
もう統率が取れずに大混乱に陥っている中で、必死にレジスタンスたちが避難誘導を行っている状況である。
そんな中、彼らに攻撃を仕掛けるはずのレギオンたちはぴくりともせずに、皆恍惚と空を見上げている。
ここで”養分”として吸収されることが彼らの本懐だと本能的に察しているのだ。
だが、帝都全域を覆う逆五芒星の生命吸収の結界は、本来の10%も力を発揮していなかった。それは……。
「うおおおおお!我を無礼るなぁああ!!人間を大量に失ったら人間の輝きが見れないではないか!!バエル!貴様も何とかしろ!!」
それは内部にいるアスタロトの力だった。
本来、魔術で呼びかけられた以上、力を貸さねばならないのが魔術としてのルールではあるが、本人が機嫌が悪いときにはその限りではない。
むしろ逆に魔術に働きかけて、魔力式を阻害して大きく生命を奪い取る機能をまともに動かさなくしているのだ。
なぜここまで阻害しているかといえば、「大勢の人が死ねば、それだけ人間の輝きが見れなくなる」という単純な理由である。
生か死かのギリギリでこそ人間の輝きはより輝く。
だが、ただ死ぬだけでは輝きを見せるところではないではないか!というのが彼の考えである。
彼の逆干渉による魔術阻害によって、魔術起動は大きく遅れている。
『はぁ……。全く面倒な……。だがサマエルの思うがままになるのも癪だし、仕方ないか……。』
そう答えるのは、バアル神ではなく、悪魔バエルの化身である大蜘蛛だった。
彼もアスタロトと同様に、大魔術の阻害を行っているのだ。
『とはいえ、長くはもたんぞ。何らかの方法を……ん!?』
その瞬間。帝都の空がひび割れた。空間が砕け散り、そこから全長数十キロメルーの巨大な肉塊が姿を表す。
魔神竜サマエルの器である、混沌竜エキドナの細胞を培養した巨大な肉塊。
それがついに姿を表したのだ。
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