第286話 人間の怒りは恐ろしい
「……なるほど。状況は理解しました。非常に悪辣な手段ですが、効果的ではあります。」
偵察部隊から怪物軍の情報を得たセレスティーナはその情報を分析に入る。
初めてあの状況を見た偵察部隊は怒り狂っていたが、それでも必死にこらえて撤退して情報を持ち帰った偵察部隊には感謝しかない。
あの惨状を見て怒り狂わない人間の方がどうにかしている。
そのまま怒りに任せて突撃して瞬殺されるのが、一番最悪のパターンだった。
私情を押し殺して任務に徹した偵察部隊に報酬を上げてもいいぐらいである。
「それで~どうしますか?下劣な手段ですが、効果的であることは否めませんわ~。
人盾ごと弓矢で攻撃しろ、なんて命令はいくらわが軍でも従うかどうか~。」
今、彼女たちは占拠した村で休憩しながら休憩へと入っている。
もはや形振り構っていない敵軍は村を焼き払い、井戸の水に毒やらなにやらを混ぜる本格的な焦土作戦へと移行していた。
だが、いかに井戸に毒を入れようと大魔術師といえるセレスティーナの浄化の魔術の前ではいとも簡単に浄化され、生き残った村人には麦粥の食糧が与えられる。
生き残った村人たちが焦土作戦を仕掛けて全てを奪い去った自国の軍と、井戸を浄化させて飲み水を回復させて、麦粥を分け与えて仮だが、住処を作ってくれる敵国の軍にどちらに忠誠を誓うかはいうまでもない。
セレスティーナたちは、その村で近くの地理の情報を獲得して、簡易的な地図をみながら作戦会議を開いているのである。
「確かに、怪物軍が行っていることは悪辣で効果的な手段です。
ですが、欠点も存在します。それは『速度が極端に低下する』事です。」
そう、ただでさえ嫌がる女性たちを無理矢理歩かせているのだ。
その更新速度はアリが這いずるより遅いといっても過言ではない。
これは、兵は神速を貴ぶと言われている軍事行動にとっては致命的だった。
「戦争において速度こそ正義。速度が速い軍なら電撃作戦も可能だが、あいつらには無理です。そして、速度が遅いのならこちらが早く適切な戦地を見つけ出して、それを整えることができます。
そうですね。こちらがいいでしょう。先にこちらに回り込んで小細工を行っておきましょう。」
地図の一点を指で示しながら彼女はさらに言葉を放つ。
「そして、もう一つの欠点も存在します。それは『怒り』です。
人々の怒り、人間の怒りと憎悪は何より恐ろしい。それが大義名分を得た怒りならなおさらです。それを得た人間は凄まじい行動力を発揮します。」
「つまり、簡単に言いますと~?」
「怪物どもを根切りにします。一匹たりとも生かしません。同時にこの状況を竜皇国の内部にリアルタイムで幻影魔術で報道します。正義と大儀は我らにあり、です。
あいつらは、自分で自分自身の死刑執行書にサインしたも同じです。」
あっ、これ冷静に見えて完全にブチ切れるな。こわ、と辺境拍ルクレツィアは心の中で呟いた。
もっとも、それはルクレツィアも同様である。
軍との戦いで厄介なのは降伏者の扱いではあるが、こんなことをしておいて降伏しようとする怪物どもなど怒り狂った兵士によって殲滅させられるだろう。
そして、それを止める気はルクレツィアもなかった。
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