第229話 木の葉落とし

《シルフ4よりシルフ1へ!これ以上の戦闘継続は困難です!撤退を!》


《撤退は許可できない。繰り返す。撤退は許可できない。

 ……俺がやられたら君は降伏しろ。都市を爆撃したと言っても、全て天蓋結界によって防御されていてこの国の民衆には何も被害を与えていないはずだ。

 今なら降伏しても許されるだろう。いいな。これは命令だ。》


 それだけを言うと、彼は通信機能を切ってアーテルとリュフトヒェンへと対峙する。

 状況は変わって二対一か。戦闘訓練と連携は訓練で積んでいたが、何せ竜との直線戦闘など彼らにとっては初めてである。

 竜に対抗するための機体と言っても、実際に竜と対峙した事は数度しかない。

 あくまで民衆に安心を与える抑止力としての存在だったはずだ。

 それが、敵国に攻め入るとは……。いや軍人である以上考えても仕方ない。



 シルフ1とアーテルはお互いに旋回機動をとるが、その瞬間にシルフは低速度で相手を引き付けておき、90度バンクに近い旋回中に、ラダーを大きく操作する思念を竜機へと送り込む。

 それにより、急激な下側への横滑りが発生し、機体が急降下する。

 それによって獲得した運動エネルギーを生かして、90度バンク中のアーテルの後ろに回り込んで攻撃を仕掛けていく。

 旧日本海軍のゼロ戦が得意とした空中戦法、通称『木の葉落とし』である。

 シルフ1は独自にこの戦法を編み出してマスターしたのだ。

 しかし、これは軽量で操作性・運動性に優れたゼロ戦だからこそ行えた技

 失速状態からの姿勢制御は、当然軽量で操作性に優れた機体の方が有利である。

 いくら可変翼があるとはいえ、重い機体でこれを行うとは、やはりシルフ1は熟練パイロットなだけはある。


《んなっ!!機体が消えたぞ!どこに……後方!?何で!?魔術でも使ったのか!!》


 思わずパニックになったアーテルに対して、シルフ1は内臓された竜髄石(カーバンクル)の力によって竜語魔術を展開、アーテルと同様の魔力レーザーを展開し、彼女に向けて射出する。

そのレーザーは直撃こそしなかったものの、彼女をすれすれにかすめたり、鱗に命中して鱗を弾き飛ばしたし切り裂いたりする。


《あちちち!いてて!このクソが!!妾に傷を負わせるとは許さんぞ!!》


だが、それも直撃でない事に加え、鱗に防御されて軽傷にすぎない。

今度こそ直撃させる!と狙いを定めるシルフ1だったが、いかに歴戦の操縦士とはいえ、単騎で全方位を観測できるわけではない。

後ろではなく、下から急上昇しながらリュフトヒェンはシルフ1の腹へと襲い掛かる。


《!?》


《もらった!FOX2!!》


リュフトヒェンは周囲に存在する雷撃球から高電圧の雷撃をシルフ1へと叩きつけていく。何とか直撃こそ回避するものの、そこから発生した電磁界の急変による影響で金属線路に誘導される雷サージ、つまり、誘導雷が竜機へと襲い掛かる。

とっさに結界を張ろうとするが間に合わず誘導雷をまともに食らうシルフ1。

その雷撃によって、機体構造がショートしたシルフ1は、そのまま空中で爆発を起こした。

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