第230話 降伏

《シルフ1!応答してくださいシルフ1!!》


 ついにシルフ1すら応答が途絶えてしまった中、たった一機だけ残されたシルフ4は完全にパニックに陥っていた。

 レーダーレドームが存在している分、この機体は空中戦においては圧倒的に不利である。この状態で竜に襲われたら瞬時に迎撃されてしまうだろう。

 パニックになった彼の思念は機体の制御にも悪影響を与え、機体は細やかにガタガタと震えて墜落するように高度を下げていく。


 そして、シルフ隊を迎撃したアーテルたちも距離を取っていたシルフ4を発見して撃墜するために近づいていくが、そのまともに飛行もできていない状況に呆れ声を上げる。


《なんじゃありゃ。勝手に自滅しとるぞ。適当に一撃当てただけでいけそうじゃな。よし、やるか。》


 そのシルフ4に対して、アーテルは飛行しながら周囲に数個の漆黒の魔力球を展開し、そこからの魔力レーザーの照射で一気に撃墜するべく狙いを定める。

 だが、その瞬間、向こうの機体からこちらの魔導回線に対して通信が入る。


《つ、繋がった!こ、降伏!そちらに対して降伏します。》


その彼の言葉に激高したのは、今まさに撃たんとしていたアーテルだった。


《はぁ!?降伏って何じゃ!?戦って死ぬか生きるか戦場ではそれだけじゃろ!?

 妾たちの同族の死骸を改造しておいて操ってしかもそういう中途半端な事するの妾大嫌いじゃ!!今すぐ撃墜してやるわ!!》


彼女の発言は竜としての視点からであってある意味では正しい。

だが、降伏した敵を慈悲もなく葬ったとなれば、皆死に物狂いで戦ってくるだろう。そうなれば、こちらの負担も増すだけだ。

(まあ、この世界での捕虜の権利は実にアレだが)


《いや、ストップ。降伏してきた者たちを全て命を奪っていては向こうも玉砕覚悟の作戦をバンバン組んでくることになる。

 ここは降伏を受け入れよう。幸い、天蓋結界のお陰で竜都には被害出ていないようだし。》


 それに、そちらも戦いに敗れてこちらに従ったでしょ?と言われてしまってはぐうの音も出ない。そのリュフトヒェンの言葉に、アーテルは渋々嫌々ながらも従うことにした。


《はん、散々景気よく爆撃しておいていざとなったら降伏とか随分都合がいいのぅ。

 この程度の嫌味など山ほど言われるだろうから覚悟しておくがいい。》


むかついたのに撃墜できなかった腹いせに、アーテルは嫌味をシルフ4へと叩きつけるが、向こうからの返事はなかった。

こうして、この戦いは幕を閉じる形になった。

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