第208話 ノーム・エルフリーデ対辺境伯

「ハアッ!!」


 ノーム・エルフリーデに突撃していく一騎の騎兵。

 それはドラゴンスケイルを身に纏った辺境伯ルクレツィアその人だった。

 辺境伯単騎で敵に戦いを挑むなど、どこからどう見ても正気ではない。

 実際、血相を変えながら後方から軍も追いついてくる。


「引くな!踏みとどまれ!戦え!戦え!!

 我らの領土にこれ以上敵を踏み込ませるな!!我ら精鋭たる辺境伯軍の実力を見せる時は今ぞ!!」


 普段のおっとり間延びした口調と異なり、ルクレツィアは剣を抜き放ちながら叫ぶ。

 戦闘になると普段の口調では待ち合わない事があるので、戦いの際はこの口調になるらしい。

 剣を手に馬を駆りながらこちらへと突っ込んでくる辺境伯を前に、ノーム・エルフリーデはそれをせせら笑うように、自分の金属の鋭い爪のある前足を横凪に振るう。


「ハッ!!」


 そのタイミングを見計らい、ルクレツィアは乗っていた馬の鞍に脚を乗せ、跳躍してその爪を回避する。

 そして、そのまま空に跳躍したルクレツィアは、ノーム・エルフリーデの腕に着地し、そのまま腕を足場にしながら疾走する。


 邪魔だ、といわんばかりに腕を振り払うノーム・エルフリーデだが、ルクレツィアはそれより先に腕から飛び降りながら、手にした剣を振るう。


「ハアッ!!」


 マスケット銃の弾丸すら弾き返す装甲に通常の剣が通用するはずもない。

 せせら笑いを浮かべるように、ノーム・エルフリーデはその一撃を回避すらしない。

 だが、ルクレツィアのその刃は、ノーム・エルフリーデの結界と魔導金属で作られた装甲をいとも容易く切り裂く。


「!!?」


 そう、これはただの剣ではない。

 竜の骨同士を擦り合わせて少しずつ剣の形に整えて作られた『竜骨剣』である。

 竜骨剣の刃は、魔導金属の装甲をいとも容易く紙のように切り裂いていく。


 慌てたノーム・エルフリーデは腕を振るってルクレツィアを叩き落とそうとするが、彼女はまるで張り付くようにノーム・エルフリーデの懐に飛び込んだまま、舞うように装甲を切り裂いていく。


 確かにノーム・エルフリーデの爪の一撃は強力ではあるが、懐に飛び込まれてしまっては上手くルクレツィアを捉える事ができず、爪はひたすら空回りするだけである。


その状況にノーム・エルフリーデは苛ついたよいたように咆哮した。









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