第207話 竜機《ノーム・エルフリーデ》

 辺境伯領域、つまり竜皇国と魔導帝国の境界線を踏み越えて、ずしんすしんと大地を踏み鳴らし、森の木々をかぎ分けながら、一体、いや一機の金属で構築された地竜が出現する。


 全長10m、全高3mほどのその金属の光沢を持っている機械の竜は、四つん這いのまま大地を踏みしめながら構うことなく辺境伯領土へと侵攻していく。

 これは太古に開発された対竜魔導兵器を発掘し、それを修理して搭乗できるようにした竜機ノーム・エルフリーデである。

 これは空中戦用のシルフィードタイプではなく、地上戦用の地竜を改造したノームタイプだ。

 順調に侵攻を続けていたノーム・エルフリーデだが、陣地外周部に存在する対地上竜機用のドラゴン・トゥース代わりの複数の岩に阻まれ、一端侵攻を中断する。


「構え!撃てーッ!!」


 その瞬間、まだ未完成の陣地に潜んでいた兵士たちがマスケット銃やクロスボウ、弓矢などを一斉にノーム・エルフリーデに打ち込んでいく。

 マスケット銃は金属鎧すら貫通する威力がある。いかに金属に包まれた竜機であろうと装甲は貫通するだろう、と思っていた彼らだが、薄い光に覆われた装甲はそれら全ての銃弾を弾き返していた。


 それなら、と彼らが持ち出していたのは大砲、カノン砲である。

 陣地防衛を行う際に、敵の進入路を把握して集中砲火を仕掛けられるように計算して配置されたそのカノン砲は、移動など時間のかかる事はせずにすぐさま装填すれば敵に撃てるようになっている。


「撃てーっ!!」


 それと同時に、ノーム・エルフリーデにカノン砲の砲撃が降り注ぐ。

 いかに装甲が結界で守られているとはいえ、直撃を食らえば一たまりもあるまい。

 だが、竜機は四つん這いから二足歩行へと形態を変え、足止めのドラゴントゥース代わりの岩を両手で抱えると、それを持ち上げて、カノン砲の砲兵部隊へと投げつける。


「うわーっ!退避!退避ー!!」


 その投げつけた岩が砲兵部隊の側にまで着弾するとは、さすがに元がドラゴンなだけあるという事だろうか。

 さらに、二足歩行形態になったノーム・エルフリーデは口部をカシュン、と開いて展開すると、そこから魔力の光が収束し、ブレス代わりに魔力の吐息が放たれ、ドラゴントゥースの岩ごと周囲の陣地を粉砕し、吹き飛ばしていく。

 竜機は竜の脳髄が結晶化したカーバンクルを頭脳ユニットと採用しているため、疑似的ならば竜語魔術を使用できるのである。

 この魔力のブレスも、それを応用したものだ。


まるで勝ち誇ったかのように、天空に向かって口を開き、魔力のブレスを吐く竜機。

どうやら、パイロットはよほど調子に乗っているらしい。

そんな竜機に対して、まるで疾風のように馬に跨った何かが襲い掛かっていった。

 

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