第196話 農地開拓と冒険者ギルド

 自分の領地であるアーテル領に戻り、自分の住処である洞窟内部で書類仕事を行っていたアーテルは、とある書類を抱えてその内容を口にしているアリアにあからさまに嫌な顔をした。


「冒険者ギルドの誘致ぃ~?何で妾がそんな事しなくちゃならんのじゃ?」


 人間形態になりながら、書類仕事を行っていた彼女は、がじがじと不愉快そうに手にしたペン頭をかじっている。それを見ると余程不機嫌なのだろう。

 いともあっさりとかじられたペンは真っ二つに折れ、彼女はそれを不愉快そうに見て放り投げ捨てる。

 後でまた新しいペンを買わなければいけない、とため息をつくアリアに対して、アーテルは言葉を放つ。


「大体冒険者ってアレじゃろ?妾たち竜族に襲いかかって宝物を強奪していくロクデナシのゴロツキどもじゃろ?

 嫌じゃ嫌じゃ!妾そんな奴らと関り合いになりたくない!!」


 椅子に座りながら、じたばたと手足を駄々っ子のようにじたばたと動かすアーテル。

 どうやら、彼女は冒険者に対して極めて強い偏見を持っているようである。

 まあ、竜の財宝を狙う冒険者たちと竜とでは天敵同士でもあるため、いい印象など持ちようもないのも確かである。


「大体、冒険者なんて側にいたら妾の洞窟に忍び込んで宝物を掠め取ろうとするじゃろうが。そんな奴ら近づけたくない。

 というか!そもそも軍隊蟻人どものために妾がそんな事をしてやる義理などない!」


 確かに彼女の言う事は正論である。

 セレスティーナは蟻人たちと契約をしたようだが、アーテルにとってそんな事は知った事ではない。彼女からしてみれば、冒険者なんてゴロツキどもを自分の領土に招き入れるなど、なんでそんな事をしなければならないのか、が本音である。


「そんな事より畑じゃ!農作物の増産じゃ!家畜をどんどん増やすのじゃ!

 ふっふっふ。どんどん畑を広げて家畜も沢山飼って美味しい物食べ放題じゃ!!

 家畜は労働力ではなく食料!バンバン仕入れるがよい!!」


開拓されたばかりのアーテル領では、まだ畑の開墾はほとんどされていない。

元農民の流民などを受け入れて畑を開墾させるつもりではあるが、やはり手間暇がかかるのも事実である。

だが、これが彼女の美味しい物を食べたいというクオリティライフに直結するのなら、多少の面倒は受け入れても行うべきである。


「そこです。アーテル様。冒険者ギルドの誘致は、食料生産にも関わってくるのです。」


アリアのその言葉に、アーテルは胡散臭げに片眉を上げて反応する。


「何ぃ~?食料生産に冒険者ギルドがどう関係してくるんじゃ。言ってみぃ。」


「はい、では。まず、このアーテル領は開拓したばかりで、周囲の治安はまだまだ安定していません。黒騎士たちも街の治安を守るだけで手一杯。畑の開拓などを行っている際に、ゴブリンたちなどが開拓民や農民たちを襲ってくる可能性は十分にあります。」


ふむふむ、確かにそうじゃな、とアーテルは納得する。

仕事で忙しいアーテルがいちいつ出ていって叩きのめすのも面倒だし、非効率である。


「そこで、冒険者たちを開拓民や農民たちを雇って護衛にすればいいんです。後は兵士を増やすなり、畑を結界と柵で覆うなり何なりすればいいかと。つまり!冒険者ギルドの誘致は、アーテル様の美味しい食事に直結するという訳です!」


 びしっ、と小柄な少女のアリアは、アーテルに向かって指を突きつける。

そのアリアの言葉に、アーテルはおおっと感銘を受けたように言葉を放つ。

そしてその後で、腰に手を立てて反り返って得意げにはっはっはと哄笑する。


「うむ!そういうことならやってもよいな!全くクソ雑魚人間どもは妾がしっかり守護してやらんとどうしようもないのぅ。

 まあ?妾の美味しい料理の原料を作ってくれるなら農民どももきちんと守ってやろうではないか。感謝するがいいぞ人間ども!」


はっはっはと高笑いするアーテルに対して、何とか説得は上手くいったと安堵するアリアだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る